2026年10月1日より改正酒税法が施行
10月1日より改正酒税法が施行されました。2020年から段階的に実施されている今回の改正によって日本のビール業界は大きな転換点を迎えています。この変更によって「第三のビール」の時代が終わり、ビール業界は品質とブランド、価格を競う新たな競争の時代に入ったと見られます。今回はその点についてまとめます。
今回の酒税法改正は、2020年10月から進められてきた段階的な税率見直しの最終段階として位置づけられます。これによってビール、発泡酒、第三のビールの税率が完全に統一され、20年にわたって続いてきた「税率の違いを利用した商品開発と価格競争」が終わり、ビール業界は新たな局面に突入したと見られます。
これまでビール類は、麦芽の使用比率、原材料の種類、製造方法によって、ビール、発泡酒、第三のビールの3つに区分されて、それぞれ異なる税率(酒税)が課されていました。今回の酒税法改正は、これまでの税率の格差をなくし、酒類に対する税負担の公平を期すことを目的としています。
改正によって、350ミリリットル当たり(通常の缶ビール1本当たり)の税額は、ビールは63.35円から54.25円に9.10円引き下げられます。発泡酒は46.99円から54.25円に7.26円引き上げられ、第三のビールも46.99円から54.25円に7.26円引き上げられます。
ビール類では、ビール、発泡酒、第三のビールのいずれも、酒税額が54.25円に統一され、ビールと第三のビールの間に存在した税額の差は完全になくなりました。(なお缶チューハイの税率も28.00円から35.00円に7.00円引き上げられました)
1990年代の発泡酒、2000年代の第三のビールが市場を変えた
日本のビール市場は、1994年にサントリーが発泡酒の「ホップス」を発売して新しい市場が生まれました。1998年にキリンが「麒麟 淡麗」を発売して市場が一段と拡大し、1990年代後半からは発泡酒とその後の第三のビールの普及で安値競争に拍車がかかりました。
第三のビールは2003年9月にサッポロが「ドラフトワン」を一部地域で発売したことで生まれました(全国発売は2004年2月)。エンドウ豆、米、トウモロコシなどを原料として使用し、麦芽を使わないことで酒税を抑えた第三のビールが誕生しました。
他のビールメーカーでは、キリンが「のどごし生」や「本麒麟」、サントリーが「金麦」、アサヒが「クリアアサヒ」など第三のビール市場に次々と参入しました。時代はデフレの真っただ中にありました。消費者は多少の味の違いを気にせず、家飲みでは安いビール類に大きくシフトしていきました。
2020年に酒税法の改正が始まる前は、350ミリリットルの缶ビールで、ビールと第三のビールとの税額の差は49円もありました。この税額差に目をつけてビール各社は、麦芽の使用量を少なくしたり、蒸留酒を加えたりと工夫を凝らして税率の低いビール類を開発してきました。
味へのこだわりも決して捨ててはいません。ビールメーカーは長年培った技術を動員してビールに近い味を創り出しました。自他ともに世界一のビール通を認めるドイツ人でも、日本のビールと第三のビールの違いがわからないほど、日本のビール各社はビール類似酒の技術を磨き上げてきました。
第三のビールは税率が最も低く、価格を低く設定しやすいうえ、味の改良の余地も大きいことから、長く続いたデフレの時代にマッチして、2020年にはビール類全体の販売量の46%を占めるまでに成長しました。
2020年の転換期により、ビールの販売数量は25%も増加
第三のビールは2020年に転換期を迎えました。この年から段階的に施行された酒税法の改正によって、ビールは減税、第三のビールと一部の発泡酒は増税となり、価格差が小さくなったことから消費者の間ではビールへの回帰現象が始まりました。
2020年から2025年にかけてビールの販売数量は25%も増加し、市場に占めるビールのシェアは55%を超えるまでに回復しました。反対に第三のビールは安さの訴求力が薄れたため、販売数量がほぼ半減しました。2025年には市場に占める第三のビールのシェアが25%まで低下しています。
これは値段が変わらないのであれば、第三のビールよりもビールを飲む、という消費者が一定数存在することを示しています。今後の焦点は、消費者のビール回帰の流れをどこまで維持できるか、また、第三のビールがどこまで本格的な味わいを実現できるかという点です。
単純に低価格だけでは勝負できなくなった以上、今後は低価格帯ビール(従来の第三のビール)でも、味わいにこだわった本格的な商品が登場することになりそうです。各社各様の工夫とこだわりにあらためて期待と関心が高まります。
酒税法改正の関連銘柄4選
キリンホールディングス(2503)
日本のビール業界を牽引する大手メーカー。「キリンラガー」、「一番搾り」、「本麒麟」など人気ブランドを多く有する。長らく国内首位の座にあったが、現在はアサヒの後塵を拝して第2位。ただ近年は「晴れ風」、「グッドエール」など立て続けにヒット商品を生み出し、勢いを取り戻す。「プラズマ乳酸菌」などヘルスサイエンスにも力を入れる。11月4日に「本麒麟」の麦芽使用比率を50%以上に引き上げて第三のビールからビールへリニューアルする予定。
アサヒグループホールディングス(2502)
ビール系では国内トップ。「アサヒスーパードライ」で一世を風靡。現在も「マルエフ」やノンアルコールビール「アサヒゼロ」でヒット商品を連発。多角化を推進し「ニッカウヰスキー」、「三ツ矢サイダー」、「カルピス」などのブランドを相次いで傘下に加える。食品分野では「MINTIA」やフリーズドライ食品を、医薬品分野では整腸剤「エビオス錠」などを手がける。2025年9月のサイバー攻撃では国内事業への影響が長期化した。10月27日より第三のビール「クリアアサヒ」をビールとしてリニューアルし発売する。
サッポロビール(2501)
国内第4位のビールメーカー。主力商品は「サッポロ生ビール黒ラベル」と「ヱビスビール」でもともとビール志向が強く、根強い固定ファンに支えられている。ポッカコーポレーションを子会社化し飲料部門を強化。東京の「恵比寿ガーデンプレイス」を中心とする不動産事業で営業利益の半分以上を稼いできたが、大株主のファンドからの提案を受け2025年12月に不動産事業を分離。本業の酒類・食品飲料に集中する体制を整える。10月20日に第三のビール「GOLD STAR」と「麦とホップ」をビールとしてリニューアルする。
東洋製罐グループホールディングス(5901)
飲料缶で圧倒的な国内シェアを持つ総合容器メーカー。酒税が下がりビールが実質値下げとなると「家飲み」派が増え缶ビールの売れ行きも伸びそう。缶類ばかりでなくガラスや紙製品などの包装容器、化粧品のパウチなどプラスチック製品、キャップも手がける。製缶機械から派生したエンジニアリング、自動車部品の材料や電池材料を扱う鋼板事業、磁気ディスク用アルミ基板にも展開。2011年に、世界トップ級の米国製缶機械メーカーであるストーレマシナリー社を買収。世界のビール大手、カールスバーグとも資本・業務提携。
