株式市場の変動が大きい局面では、目先の株価の動きに左右されず、中長期的な視点で投資先を見極めたいところです。その際に注目したいのは、業績の拡大によって企業価値の向上が期待でき、なおかつ、その価値に対して株価が割安な銘柄です。
そこで今回は、バリュー投資の父として知られるベンジャミン・グレアムが提唱したモデルを、現在の日本株市場の特性に合わせて調整した「日本版グレアムモデル」を活用し、企業の成長性を考慮した割安株の選別方法と、注目銘柄を紹介します。
PERが高くても割安?利益成長から妥当PERを求める「日本版グレアムモデル」
なぜ成長企業は買われる?未来の利益からPERを読み解く
ベンジャミン・グレアムの著書『証券分析(Security Analysis)』(1962年刊行)の第4版で示した株価評価モデルは、企業の利益成長率を考慮して株式の価値を評価するものです。
まず、企業の利益成長率とPERの関係を確認しましょう。図表1は、その関係をイメージしたものです。PERは株価を1株当たり利益(EPS)で割った指標です。仮に株価が変わらなくても、企業の利益が成長してEPSが増加すれば、将来のPERは低下します。つまり、成長率が高い企業ほど、現在のPERがある程度高くても、その水準が正当化される可能性があります。
伝説の投資家グレアムに学ぶ「妥当PER」の導き方
グレアムのモデルでは、利益成長率がゼロの企業の妥当PERを8.5倍とし、利益成長率が1%ポイント高まるごとに妥当PERが2倍分高くなると考えます。例えば、今後の年間利益成長率が5%と予想される企業なら妥当PERは18.5倍、10%なら28.5倍となります。
妥当PER(倍)=8.5+2×予想年間利益成長率(%)
そして、重要なのは、こうして求めた妥当PERと、実際の市場で評価されているPERを比較することです。妥当PERより実際のPERが低ければ、企業の成長性を考慮してもなお割安と判断できます。逆に、実際のPERが妥当PERを上回っていれば、成長性に対して割高に評価されている可能性があります。
つまり、単にPERが低い銘柄を探すのではなく、企業の利益成長率に見合った妥当PERを求め、それと比較して割安な銘柄を選ぶことが、このモデルの基本的な考え方です。
日本株には日本株のモノサシ、データから導く「日本版」への進化
ただし、グレアムのオリジナルモデルで用いられている係数は、当時の米国株式市場を念頭に置いたものです。そのため、現在の日本株市場にそのまま当てはめることが適切ではありません。日本株の実態に即した評価を行うには、利益成長率とPERの関係を実際の市場データから捉え直す必要があります。そこで、統計的な分析手法として広く用いられている「回帰分析」を活用します。
回帰分析とは、2つのデータの関係を数式で捉える手法です。今回は、日本株の利益成長率とPERの関係を分析し、実際の市場データに最もよく当てはまる係数を求めます。これにより、現在の日本株市場の特性を反映した妥当PERを推計することができます。
また、企業の利益成長率がPERに与える影響は、業種によって異なると考えられます。特に、将来の利益成長に投資家の注目が集まりやすい業種では、成長率の高さがPERの評価に反映されやすく、グレアムモデルを活用した銘柄選別が効果を発揮すると期待されます。一方、成長率とPERの関係が弱い業種では、モデルによる割安度の評価が必ずしも有効とは限りません。
そこで今回は、TOPIX構成銘柄を対象に、業種ごとに利益成長率とPERの関係を回帰分析し、それぞれの業種の特性に合わせて妥当PERを推計する「日本版グレアムモデル」を構築しました。
業種の分類には「TOPIX-17」を用いました。これは、東京証券取引所が日本企業を分類する際に用いる33業種を、投資の利便性を考慮して17業種に集約したものです。例えば、「運輸・物流」には陸運業、海運業、空運業、倉庫・運輸関連業が含まれます。
業種別の分析結果を踏まえ、今回は図表2に示した6業種に注目し、日本版グレアムモデルによる銘柄選別の有効性を過去のデータで検証しました。なお、足元の注目銘柄の選定にあたっては、直近の利益成長率とPERの関係などを考慮し、「商社・卸売」を除く「食品」「医薬品」「機械」「情報通信・サービスその他」「運輸・物流」の5業種を対象としました。
注2: 表は、日本版グレアムモデルによる銘柄選別の有効性を検証した6業種と、それぞれに対応する東証33業種を示している。なお、足元の注目銘柄の選定では、直近の利益成長率とPERの関係などを踏まえ、「商社・卸売」を除く5業種を対象とした
出所: 東京証券取引所の資料を基に、マネックス証券作成
実践!「日本版グレアムモデル」で隠れた割安銘柄を見つけ出す
それでは、実際に日本版グレアムモデルで妥当PERをどのように推計するのかを見てみましょう。図表3は、直近となる11月4日時点の「情報通信・サービスその他」に属するTOPIX構成銘柄について、横軸に利益成長率、縦軸に予想PERをとり、両者の関係を示したものです。青い丸印が個々の銘柄を表しています。
このデータを用いて回帰分析を行った結果、利益成長率が1%ポイント高まると、PERは平均的に0.28倍高くなるという関係が得られました。また、利益成長率がゼロの場合のPERは15.28倍と推計されました。この関係を表したものが、図中の紫色の直線です。つまり、日本版グレアムモデルでは、この直線上のPERを、それぞれの銘柄の利益成長率に見合った「妥当PER」と考えます。
例えば、図中のA社は利益成長率が10%、実際のPERが18倍です。日本版グレアムモデルから求められる妥当PERは約18.1倍となるため、ほぼ妥当な水準と判断できます。一方、B社は利益成長率が3%、実際のPERが17倍で、妥当PERの約16.7倍を上回っているため、相対的に割高と評価されます。
注2:成長率は、前期の営業利益実績と来期の営業利益予想(QUICKコンセンサス)から算出した2年間の年平均成長率(CAGR)。実績・今期予想・来期予想の決算月数がいずれも12ヶ月で、前期実績と来期予想の営業利益がともにプラスの銘柄を対象とした
注3:日本版グレアムモデルでは、成長率が0%以上で予想PERがプラスの銘柄を対象に、成長率を説明変数、予想PERを被説明変数とする回帰分析を行い、妥当PERを推計した。紫色の直線は回帰分析から得られた妥当PERを示す
注4:図中のA社、B社、C社は、妥当PERと実際のPERを比較するための例示。妥当PERを下回る銘柄は相対的に割安、上回る銘柄は相対的に割高と判断する
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
見た目の数字に惑わされない、高PERのC社が「実は割安」な理由
これに対して、C社は利益成長率が25%、実際のPERが21倍です。C社のPERはB社の17倍よりも高く、PERの水準だけを比較すれば、C社の方が割高に見えます。しかし、C社はB社よりも利益成長率が高く、日本版グレアムモデルによる妥当PERは約22.3倍と推計されます。実際のPERはこれを下回っているため、成長性を考慮すると、C社はむしろ割安と評価されるのです。
このように、日本版グレアムモデルでは、単純なPERの高低だけでは捉えられない、企業の利益成長率を考慮した割安さを評価できます。具体的には、企業ごとの利益成長率から妥当PERを推計し、実際のPERとの差を「日本版グレアムモデルでの割安度」として評価します。この値が大きいほど、利益成長率を考慮した割安さが大きいと判断する仕組みです。
過去の検証で好成績!「日本版グレアムモデル」による割安株投資の実力
日本版グレアムモデルの実力は?過去データで検証
ここまで、日本版グレアムモデルを用いて、企業の利益成長率に見合った妥当PERを推計し、実際のPERと比較することで割安株を選別する方法を紹介しました。では、こうした方法で選んだ銘柄は、実際に良好な株価パフォーマンスを示してきたのでしょうか。
そこで、過去のデータを用いて、日本版グレアムモデルによる割安株選別の有効性を検証しました。分析期間は2020年4月から2026年10月までです。対象は、先ほど紹介した「食品」「医薬品」「機械」「情報通信・サービスその他」「運輸・物流」「商社・卸売」の6業種に属するTOPIX構成銘柄としました。
具体的には、毎月末時点で各業種の利益成長率と予想PERの関係を回帰分析し、銘柄ごとの妥当PERを推計します。そして、妥当PERから実際のPERを差し引いた「日本版グレアムモデルでの割安度」が、各業種内で上位20%に入る銘柄を選別し、翌月の配当込みリターンを計算しました。これを毎月繰り返し、リターンを累積したものが図表4の青い線です。
比較対象として、同じ6業種に属するTOPIX構成銘柄全体に均等投資した場合の累積リターンも示しました。こちらが黒い線です。
注2: 母集団はTOPIX構成銘柄を対象とした。分析対象はTOPIX-17業種分類のうち、「食品」「医薬品」「機械」「情報通信・サービスその他」「運輸・物流」「商社・卸売」の6業種とした。また、実績・今期予想・来期予想の決算月数がいずれも12カ月の銘柄に限定した
注3: 日本版グレアムモデルは、企業の利益成長率とPERの関係から株価の割安度を評価する手法である。具体的には、各月のTOPIX-17業種別に、営業利益の予想成長率がマイナスではない銘柄を対象として、予想PERを利益成長率で回帰し、妥当PERを推計した。妥当PERから実際のPERを差し引いた値(PER差)が大きいほど、相対的に割安と判断する
注4: 各月末時点で、対象6業種それぞれについてPER差が上位20%の銘柄を抽出し、翌月の配当込み収益率(月次)を、業種を区別せず単純平均して累積した。ベンチマークは、対象6業種に属する全銘柄の配当込み収益率(月次)を、業種を区別せず単純平均して累積したもの。銘柄選定には各時点で取得可能な情報を用いている
出所: QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
ベンチマークを大きく上回る!成長×割安投資の有効性
結果を見ると、日本版グレアムモデルによる割安株投資は、対象6業種のベンチマークを上回るパフォーマンスとなりました。特に注目したいのは、分析期間を通じて比較的安定した推移を示しながら、ベンチマークとの差を徐々に広げている点です。これは、日本版グレアムモデルによる割安株の選別が、一時的な相場環境だけでなく、中長期的にも良好な投資成果につながる可能性を示唆しています。
2026年10月時点の累積リターンは、日本版グレアムモデルによる割安株投資が約260%となったのに対し、対象6業種のベンチマークは約160%でした。両者には約100%ポイントの差が生じています。
この結果は、単にPERが低い銘柄を選ぶのではなく、企業の利益成長率に見合った妥当PERを推計し、それに対して割安な銘柄を選ぶことが、株価パフォーマンスの向上につながる可能性を示しています。
特に注目したいのは、成長性を評価に取り入れながら割安株を選別している点です。利益成長率が高い企業はPERも高くなりがちですが、日本版グレアムモデルでは、そうした成長性を考慮したうえで、なお割安と判断される銘柄を抽出します。今回の検証結果は、成長性と割安さの両面に着目する投資手法の有効性を示唆するものと言えるでしょう。
「日本版グレアムモデル」で選ぶ割安株、東和薬品(4553)や住友フォーマ(4506)ほか15銘柄
ここまでの分析では、日本版グレアムモデルを活用し、企業の利益成長率に見合った妥当PERと実際のPERを比較することで、割安株を選別する方法が有効である可能性を確認しました。
そこで、直近のデータ(2026年11月4日終値)を使って、日本版グレアムモデルでの割安度が高い注目銘柄を抽出しました。
今回の狙いは、単にPERが低い銘柄ではなく、将来の利益成長率を考慮して推計した妥当PERに対して、実際のPERが低く評価されている銘柄を探すことです。
スクリーニングの条件
具体的なスクリーニング条件は、次の通りです。
①TOPIX構成銘柄のうち、TOPIX-17業種分類の「運輸・物流」「食品」「医薬品」「情報通信・サービスその他」「機械」の5業種に属する銘柄を対象とする。利益成長率とPERの関係などを踏まえ、「商社・卸売」は対象から除いている。
②前期の営業利益実績と来期の営業利益予想から算出した2年間の年平均成長率が0%以上で、予想PERがプラスの銘柄とする。
③各業種について、日本版グレアムモデルで推計した妥当PERから実際の予想PERを差し引き、「日本版グレアムモデルでの割安度」を算出する。
④流動性の観点を考慮して、時価総額が1,000億円以上の銘柄に限定する。
⑤業種ごとに日本版グレアムモデルでの割安度が高い上位3銘柄を抽出し、計15銘柄を割安度の大きい順に並べる。
結果を図表5に示しました。
注2: 「日本版グレアムモデル」では、前期の営業利益実績と来期の営業利益予想(QUICKコンセンサス)から算出した2年間の年平均成長率(CAGR)を用いる。業種ごとに、成長率を説明変数、予想PERを被説明変数とする回帰分析を行い、成長率に見合った妥当PERを推計した。分析対象は成長率が0%以上、予想PERがプラスの銘柄とした
注3: 「グレアムモデルでの割安度」は、妥当PERから実際の予想PERを差し引いた値。値が大きいほど、成長率に見合った妥当PERと比較して、実際の予想PERが相対的に低いことを示す
注4: 対象5業種それぞれについて、グレアムモデルでの割安度が高い上位3銘柄を抽出し、計15銘柄を割安度の高い順に掲載した。株価、時価総額は2026年11月4日時点
出所: QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
成長性と割安さの両立、モデルが評価した最新の上位銘柄
上位銘柄を見ると、東和薬品(4553)は日本版グレアムモデルでの割安度が21.30倍、住友ファーマ(4506)は19.64倍、ツムラ(4540)は18.33倍となり、医薬品の3銘柄が上位を占めています。いずれも、利益成長率から推計した妥当PERに比べて、実際の予想PERが低いと評価された銘柄です。
このほか、機械ではTHK(6481)が15.77倍、カナデビア(7004)が12.06倍、食品ではサッポロビール(2501)が14.41倍となっています。また、情報通信・サービスその他では野村総合研究所(4307)が12.06倍、運輸・物流では商船三井(9104)が10.01倍となるなど、さまざまな業種から銘柄が抽出されています。
今回のランキングで注目したいのは、必ずしもPERの低い銘柄ばかりが選ばれているわけではないという点です。企業の利益成長率が高ければ、それに見合った妥当PERも高くなるため、実際のPERが比較的高い銘柄でも割安と評価される場合があります。
企業の成長性と株価の割安さを同時に捉える日本版グレアムモデルは、中長期的な視点で投資先を探すうえで有用な手掛かりになると考えられます。ご参考にしてください。
