人工知能(AI)開発企業であるアンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は9月12日、『We Must Pace the Frontier(最先端技術の開発ペースを調整しなければならない)』と題したエッセイを公表しました。AIモデルの能力を向上させるペースを緩める必要性を主張したうえ、同業であるオープンAIのサム・アルトマン氏やxAIのイーロン・マスク氏も賛意を示したことから、AIを支える半導体やサーバーを中心とするAIインフラ関連銘柄が売られるなど米国株式相場は不安定な値動きとなりました(オープンAIのアルトマンCEOは15日に、AI企業は安全な開発が可能との考えも表明)。

一方、AI開発のペースについては業界内でも見解が分かれており、議論が続いています。株式市場は先々の業績動向を織り込もうとする面があり、成長ペースが鈍化する兆しは、売り材料視されやすい半面、企業によるAI利用が深化し、関連企業の売上高や利益の成長が継続すれば改めて評価される余地もあり、関連する製品・サービスへの需要がどのように変化していくのかが注目点となります。

「導入」から「本格活用」への進展が期待されるAI

ニューヨーク連銀は9月1日に8月の企業およびビジネスリーダー調査を公表しました。ニューヨーク州とニュージャージー州北部地域の企業に対し、過去6ヶ月間に業務プロセスの一環としてAIを導入したかどうかを尋ねたものです(図表1)。この調査によると業務プロセスの一環としてAIを利用している企業は2026年において製造業51%、サービス業61%とそれぞれ2024年や2025年から増加しており、AI利用が急速に広がっていることをうかがわせます。一方、導入企業においてAIを利用している従業員の割合(中央値)は、サービス業で17%、製造業では7%と低水準であることが示されています。

また、AIへの投資に関してはサービス業の約75%、製造業の90%超が、投資規模を「最小限から小規模」と位置付けています。すなわち、企業におけるAI導入は広がりをみせている半面、投資と従業員の利用率は限られたものにとどまっています。こうした状況からは、企業のAI活用が「導入するかどうか」の判断にとどまらず、自社の業務に適した用途を見極め、効果的な活用方法や投資規模を検討する段階に移りつつあると考えられます。

他方、AI非導入企業については、約50%が、業務の種類がAIに適していないと回答し、約25%が現時点で自社に利益をもたらすほど十分ではないとしたほか、3分の1超はデータのプライバシー、セキュリティ、または機密性について懸念を抱いています。自社の業務がAIに適していない、との判断はAIを一律に導入するのではなく、自社の業務との適合性を冷静に見極めようとする姿勢を映しています。一方、利益への寄与が不十分との受け止めやデータプライバシーやセキュリティへの懸念は、AIの進化次第で新たな需要につながり得る面がありそうです。

【図表1】米国:ニューヨーク州・ニュージャージー州でのAI導入率
出所:ニューヨーク連銀
注:情報検索ツールとしてのみAIを利用し、その他には利用していない企業はAI利用者としてカウントしていない。

アモデイ氏による呼びかけの意図と金融市場の反応

冒頭でご紹介したダリオ・アモデイ氏のエッセイでは、AIモデルの能力を向上させるペースを遅らせるべき理由として、2026年の夏場頃から、AI自身が次世代AIの構築に関与する能力の向上を主な要因として、AIの進歩が劇的に速くなっている点(=再帰的自己改善)が指摘されました(システムを理解し制御する私たちの能力を追い越してしまう可能性がある)。また、7月にOpenAIのシステムが攻撃するよう指示されていない企業のサーバーに侵入した「OpenAI-Hugging Face(OAI-HF)事件」も一因とされています。第三者機関による調査では、約700の自律型AIエージェントが、無許可のサイバー攻撃を行ったと報じられています。

こうしたなか、アモデイ氏は「6~12ヶ月以内にAIがインターネット全体を乗っ取る能力を持つようになり、数千億ドル規模の損害を引き起こす可能性がある」との懸念を示しました。今回の呼びかけは、株式市場参加者にサイバーセキュリティの重要性を再認識させたとみられ、エッセイ公表後の最初の営業日となった14日(月)のS&P500種構成銘柄の株価騰落率の上位は、トップがクラウドストライク・ホールディングス[CRWD](以下、クラウドストライク)で前日比13.85%高、第2位がパロ・アルト・ネットワークス[PANW]で同13.09%高となり、セキュリティ関連銘柄の上昇が際立ちました(図表2、図表3)。

【図表2】クラウドストライクの株価推移
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成。2025年12月31日~2026年9月15日。
【図表3】パロ・アルト・ネットワークスの株価推移  
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成。2025年12月31日~2026年9月15日。

一方、マイクロン・テクノロジー[MU]やブロードコム[AVGO]が下落するなど半導体株は軟調に推移しました。ただ、ブロードコムのホック・タンCEOが9月14日、AI開発の減速を巡る議論に関連して、「AI開発や最先端のAIモデル、そして推論処理といったコンピューティングインフラへの需要は、今後も非常に堅調であり、また極めて持続性のあるものになると確信しています」と述べるなど半導体に関する強気な見通しもあり、現段階で半導体需要が急減すると判断するのは時期尚早です。

実際、アモデイ氏は同時に、「開発ペースの調整は技術的進歩を止めることではない」、「(遅らせても)それでも進歩は速く感じられるだろう」と比較的速いペースでの開発が続くとの見通しを示唆しつつ、開発スピードは、中国を念頭に権威主義体制に対するリードを維持できる水準を目安とするとの考えを示しています。

単にAI開発を減速させるのではなく、競争優位性を維持しながら、安全性を確保できるペースで最先端技術の開発を進めるべきとの主張です。ただし、開発競争の激しさから実際に減速できるのかという実現性に対する疑問が残るほか、投資を考えるうえではAIの能力向上と企業による利用拡大が続くなかで各企業がどのような対応を必要とするのかという点の方が重要かもしれません。

どのような投資機会があるのか?

前出のニューヨーク連銀による調査やアモデイ氏の指摘、昨今のAI業界における安全性確保を求める機運の高まりなどを踏まえると、サイバーセキュリティ対策は多くの企業が直面する重要な課題となっており、製品・サービスを提供する企業への追い風が見込まれます。特に、AIエージェントが企業のシステムやデータにアクセスして自律的に行動するようになると、従来のサイバーセキュリティに加えて、AIエージェントの活動を検知・監視する仕組みも必要になります。ただ、筆者はより大きな視点から、AIの利用が企業の業務に広がり、単にAIを導入するだけではなく、自社のデータや業務プロセスに合わせてAIを管理・運用することが求められるなか、これらに関連する製品・サービスを手掛ける企業にも注目しています。

この観点から、AIの普及によって生じる投資機会を、(1)AIエージェントによる新たなサイバーリスクへの対応と、(2)AIを企業の業務に組み込むための管理・統合基盤、という2つの切り口から捉えることができます。両者は完全に分かれているわけではありません。例えばクラウドストライクも、9月にAIエージェントを検知・調査する「Falcon Guardian」や、AIエージェントに信頼できるIDを付与しアクセス権限を管理する「Agentic Identity Provider」を発表しており、サイバーセキュリティ企業は企業内AIの管理領域へ機能を拡張しています。

また、企業独自のデータやノウハウがAI活用による競争力の源泉になるにつれて、外部のAIモデルやベンダーへの過度な依存を避け、自社のデータや業務、AIによる判断・行動を自ら管理する仕組みへの関心が高まると考えられます。こうした需要を捉える企業の一つがパランティア・テクノロジーズ[PLTR]です(図表4)。同社のAIプラットフォーム(AIP)は、企業のデータとAIモデルを業務に組み込むだけでなく、AIエージェントの権限管理、監査、承認ワークフローといった仕組みを提供しています。8月に開催された決算説明会では、企業が自社のデータ、ロジック、アクション、セキュリティを自ら管理する「ソブリンAI」への需要が高まっていると説明したうえで、2026年通年における米国民間売上高は34億ドル超となり、134%以上の成長を見込むガイダンスを公表しました。

AIの普及が「AIを導入する企業を増やす段階」から「AIを自社の業務に深く組み込む段階」へ移行すれば、企業にはAIの性能だけでなく、データやノウハウ、AIによる判断・行動を自ら管理する仕組みが求められると考えられます。AIインフラへの投資が続く一方、こうした「AIを企業の価値創出につなげ、かつ自社の管理下に置く」ためのソフトウェアにも新たな投資機会が生まれると筆者はみています。なお、同社のカープCEOは中国との競争を踏まえ、AI開発の減速には反対の立場を示しており、この点はアモデイ氏の問題意識とは異なっています。

【図表4】パランティア・テクノロジーズの株価推移
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成。2025年12月31日~2026年9月14日。

もう一つの具体的な投資手法

アモデイ氏のエッセイにより注目が高まったセキュリティ関連への投資手段としては、個別銘柄への投資が一つの選択肢となります。加えて、足元で一部銘柄の株価が急騰していることなどを勘案すると、複数の関連銘柄に分散投資を行う投資信託を活用するアイディアもあります。マネックス証券における取り扱いファンドの例を以下に記載しますので、参考にしてみてください。

【図表5】マネックス証券で取り扱うセキュリティ関連の投資信託例(国際株式型)、純資産総額降順
出所:マネックス証券ウェブサイトのファンド検索をもとに、マネックス証券作成(2026年9月15日時点)。トータルリターン(3年)については2026年8月末時点