米国では「供給能力」が経済・金融市場を考える上で、一つの注目点になりつつあります。人工知能(AI)の普及・進化に伴い半導体関連の需要が高まり、需給がひっ迫しています。一方、それ以外にも、供給能力の増強が需要に追い付いていない資源・材料・製品があります。そこで今回は「足りないもの」が生み出す投資機会に着目します。
長期的に輸入依存度が高まってきたアルミニウム
「足りないもの」のひとつに、自動車や航空機、包装、建設など幅広い産業で使用されるアルミニウムがあげられます。米国地質調査所(USGS)によると、米国では長期的に一次アルミニウムの生産が減少してきた一方、スクラップを原料とする二次アルミニウムがその一部を補なってきました。
実際、2025年時点で、米国では3社が5州6ヶ所の一次アルミニウム製錬所を運営していますが、国内の生産能力は年間131万トンと2024年並みにとどまっています。6ヶ所のうち2ヶ所は減産しており、さらに2ヶ所は2022年と2024年に操業を停止しています。一次アルミニウムの国内生産能力が限られるなか、輸入依存度は長期的に上昇してきました。2025年には60%と、2024年の62%から低下したものの、依然として高水準になっています(図表1、国内で利用可能だったと推計される数量を使用)。
さらに、2026年には海外からの供給にも懸念が生じています。米国はアルミニウム輸入の一部を中東に依存しており、USGSによると2021から2024年までの平均で、アラブ首長国連邦(UAE)が8%、バーレーンは4%を占めています。米国とイランの軍事衝突を受け、中東のアルミニウム生産・物流にも影響が及んでおり、海外からの調達環境にも不確実性が高まっています。特に航空機や装甲車などに用いられる高純度のアルミニウムは、国内の供給業者が限られていることから供給確保が課題となっています。
こうしたなか、米国のトランプ米大統領は7月下旬に米国に投資する企業に適用されるアルミニウム関税を軽減する措置を発表するなど、米政府も対策を講じています。ただ、アルミニウム製錬所などの生産能力を短期間で増強することは容易ではなく、目先は供給制約が続くでしょう。
不足している「アルミニウム」関連銘柄
アルミニウムに関連する米国企業の例としては、一次アルミニウムの製造などを手掛けるアルコア[AA]があげられます。アルミニウムの大量生産を初めて実現した企業とされており、手ごろな価格で提供してきた実績を有しています。7月中旬に明らかになった最新決算はさえない結果だったものの、同社の経営陣は「重要なのは、これが事業の根本的な強さや当社の業務遂行の質を変えるものではないということだ」との考えを示しています。
2026年度の売上高成長率は素材セクターを上回る見通しとなっている一方、予想株価収益率(PER)は9.2倍と過去5年の中央値(11.6倍)を下回っています。また、一次アルミニウムの標準品や付加価値製品を製造するセンチュリー・アルミニウム・カンパニー[CENX]も関連銘柄として挙げられます。
米国やアイスランドに製錬所を所有しており、製品には高純度アルミニウムや付加価値製品のビレットや鋳造製品があります。同社は一部の工場における操業再開や生産回復を背景に売上高の堅調な成長が市場で予想されています。また、売上高総利益率や営業利益率が3年連続で上昇しているうえ、投下資本利益率は2年連続で10%超となるなど経営状況は改善しています。直近の予想PERは4.4倍と過去5年における推移レンジの下限(3.4倍)に近い水準にとどまっているほか、S&P500種指数の素材セクター(18.1倍)も大幅に下振れています。
他の関連銘柄としては、特殊アルミニウム製品を製造するカイザー・アルミニウム[KALU]も挙げられます。同社は航空宇宙・住宅用製品・包装などの最終市場向けに、アルミニウム板やコイルなどを供給しています。7月下旬に発表した最新四半期決算では、航空宇宙需要と堅調な消費者活動をけん引役として業績が拡大し、売上高、一株当たり利益(EPS)ともに市場予想を上回りました。
2026年度については売上高の拡大が予想されているものの、2025年度については減少が見込まれており、踊り場となる可能性もあります。一方、足元の予想PERについては13.0倍と過去5年中央値(16.5倍)を下回る水準となっています。
電力を需要先まで届ける設備も不足
次に着目するのは、電力を送配電するための設備です。AIの普及に伴うデータセンターの建設や製造業の国内回帰などを背景に、米国では電力需要が増加しています。一方、電力を需要地まで届けるための送配電設備の一部では、需要の増加に対して供給能力の増強が追い付いていません。なかでも、電力網を構成する基本的な設備であり、電圧を変える装置である変圧器の供給制約が顕在化しています。
米エネルギー省(DOE)によると、米国の配電用変圧器の需要は2019年以降に41%増加した一方、発注から納入までの期間は2019年の3~6ヶ月から2024年には1~2年まで長期化しています。さらに、変電所や発電所向けの大型変圧器では、納入までに3~4年かかっています。背景には、電力需要の増加に加え、電力網の老朽化、原材料や人材の不足などがあります。こうした需要の増加は変圧器にとどまりません。AIデータセンターの建設などを背景に、電気の流れを制御する開閉装置や電気を遮断する遮断器といった電力設備へのニーズも増加しています。
供給不足を受け、メーカー側も生産能力の増強に動いています。例えばGEベルノバ[GEV]は米国の送配電関連工場への投資を進め、開閉装置などの生産能力を拡大しています。同社で最も急速に成長しているセグメントである電化事業のバックログ(受注残高)は2026年第2四半期時点で446億ドルと、2022年の90億ドルから大幅に増加しているうえ、同社経営陣は2027年には600億ドルまで拡大するとの見方を示しています。
以上のように、電力需要の拡大が続くなか、発電能力の拡大に必要な設備だけでなく、、それを需要先まで届けるための設備も不足しているため、関連企業には成長機会があると考えられます。
供給不足の電力関連銘柄
関連銘柄としては、発電、送電、電力変換や蓄電を行う製品やサービスを提供しているGEベルノバ[GEV]があげられます。7月下旬に発表された最新の四半期決算ではEPSの実績が市場予想を下回り、株価も下落する流れになりました。ただ、同社経営陣は、世界的な旺盛な需要を背景に同社が1,760億ドルのバックログを抱えており、売上高の継続的な成長と利益率の拡大が見込まれる、との考えを示しています。
また、1888年に設立され、プルチェーンタイプのランプソケットの販売の先駆けになったとされるハベル[HUBB]もあります。同社は、送電線、変電所、商業・工業用建物で使用される部品を販売する75以上のブランドを傘下に抱えています。電力会社やデータセンター向けの需要が堅調で業績見通しが改善しているほか、短いサイクルの案件の受注が売上に反映されることで目先の成長を支えるとみられます。
一方、バリュエーション面では、予想PERが直近で20.4倍と過去5年中央値(21.9倍)を下回り、過去5年最低値(16.7倍)に近い水準となっています。S&P500種の資本財・サービスセクター(23.4倍)も下回って推移しています。他の銘柄の例としては、パウエル・インダストリーズ[POWL]もあります。同社は、電力の配電・制御やモーター・変圧器の保護に使う機器を顧客ごとにオーダーメイドで設計・製造しており、石油・ガス、電力会社などを顧客としています。
電力需要の増加や送電網強化への継続的な投資、データセンターやAI関連インフラ向け需要の拡大など、持続的かつ多様な需要要因が同社の事業を支えており、市場では売上高とEPSのさらなる成長が見込まれています。バリュエーション面でみると、予想PERは25.2倍と過去5年における中央値(24.6倍)並みの水準となっています。
このように、供給制約に直面する資源・材料・製品に関連する分野では、業績成長の機会を有する企業がみられます。需要サイドに加えて供給サイドにも注目することでこれまで気づかなかった有望銘柄に出会える可能性もあり、参考にしていただければと思います。
