道路や橋、水道管、送電網など、私たちの暮らしを支えるインフラは、普段は意識されることが少ない存在です。米国ではこうしたインフラの老朽化が長年の課題となっており、その更新需要が新たな投資テーマとして注目されています。2021年には「インフラ投資・雇用法」が可決され、足元では改善がみられているものの、依然として投資不足により老朽化の状態が続いている分野もあります。実際、米国土木学会(ASCE)が公表した米国インフラストラクチャーレポート(2025年)では、全体の評価がCとされ、前回(C-)からは改善したものの、A~Fの段階の中央にとどまっています(米国の教育システムと同様の評価でEはない)。
どのインフラ分野に成長余地があるのか?
ASCEによると、各インフラが良好な状態に達するために必要な投資額は約9.1兆ドルにのぼると推計されています(2024-2033年、図表1)。一方、現在見込まれている資金拠出水準が維持される場合、官民あわせて約5.4兆ドルの投資が見込まれています(図表1の資金手当済(見込み))。これらに基づくと、米国のインフラには資金面で3.7兆ドル程度の需要と供給のギャップが生じることになります。
インフラは公共の安全に関わるため、中長期的に投資が必要になる公算が大きいと考えられます。橋が老朽化すれば通行止めや重量制限が生じ、水道管が寿命を迎えれば断水や漏水が起き、送電網が劣化すれば大規模停電につながります。公共の安全や経済活動に直結する以上、資金ギャップはいずれかの時点で予算化され、現実の支出に転じる可能性のある「潜在需要」と捉えられます。
そして、追加予算が成立した場合、その資金は建設会社や資材メーカー、設備メーカーといった企業群に流れ込みます。つまり資金ギャップの大きさは、これらの企業にとっての潜在的な受注機会の規模と、その需要が続く期間を示唆する指標と考えられます。そこで、資金ギャップがとりわけ大きい「道路、橋梁」、「飲料水、下水道、雨水処理」、「エネルギー」の3つの分野の状況と関連銘柄について以下で確認します。
投資不足分野:「道路、橋梁」分野
米国における主要道路の39%が「不良」または「普通」の状態にあり、劣化した道路での走行することで、平均的なドライバーは自動車の維持費・修理費の増加や燃料、時間の無駄で年間1,400ドル以上の追加コストを負担しています。また、米国には62万を超える橋梁がありますが、そのうち49.1%が「普通」、44.1%が「良好」、6.8%が「不良」で、「普通」の橋の数が「良好」な橋の数を上回っています。「普通」の橋は将来的に「不良」に転落するリスクを抱えており、先々に対する懸念材料となっています。多くの橋は耐用年数が50年であるのに対し、平均経過年数は47年程度となっており、改修の必要性が高まっています。
「道路、橋梁」分野の関連銘柄としては、米国最大級の骨材・アスファルトメーカーのCRH[CRH]が挙げられます。また、建設用骨材のサプライヤーという視点ではバルカン・マテリアルズ[VMC]やマーティン・マリエッタ・マテリアルズ[MLM]などがあります。他方、道路建設などを請け負うコンストラクション・パートナーズ[ROAD]やグラニット・コンストラクション[GVA]、道路・橋梁の設計・エンジニアリングを手掛けるエーイーコム・テクノロジー[ACM]も関連銘柄として指摘できます。これらの企業は、「インフラ投資・雇用法」が各社の業績に対するプラス材料となっているほか、次期交通インフラ法案なども中長期的な需要を支える要因として期待されています。
投資不足分野:「飲料水、下水道、雨水処理」分野
飲料水システムでは、200万マイル超におよぶ配管のうち、約2割が更新時期を迎えているものの、資金不足で更新できずにいます。特に、900万件を超える鉛製給水管が健康上の懸念をもたらしています。他方、下水道インフラは全米で1兆ドル規模の価値を持ち、約1万7500ヶ所の処理施設が稼働しています。ただ、大規模資本プロジェクトの更新率はこの10年で3%から2%に低下し、管路100マイルあたりの機能不全の発生件数も2件から3.3件に増加するなど老朽化の影響が随所に表れています。
雨水処理分野では、水質基準未達と分類される河川・小川の距離が2010年の約42万マイルから2022年には70万マイル超に拡大しました。雨水処理業者の60%超が老朽化を長期的な課題としてあげています。下水道と雨水処理のカテゴリーにおいては対策を怠れば、資金ニーズのギャップが2044年までに6900億ドル超に達すると試算されています。
「飲料水、下水道、雨水処理」分野の関連銘柄としては、水道事業を手掛けるアメリカン・ウォーター・ワークス[AWK]、アメリカン・ステーツ・ウォーター[AWR]やカリフォルニア・ウォーター・サービス・グループ[CWT]などがあります。アメリカン・ウォーター・ワークスは7月28日、直近で買収したホープウェルの水道システムについて水道管の交換や鉛および亜鉛めっきの配管のアップグレードに取り組んでいることを明らかにしています。また、7月29日に発表された2026年第2四半期決算では料金引き上げなどが奏功し、売上高・一株あたり利益(EPS)ともに市場予想を上回りました。
米国水道協会(AWWA)が2026年に公表したレポートでも、全米の飲料水インフラの資金ギャップは年間566億ドルに達すると指摘されており、アメリカン・ウォーター・ワークスもこのレポートを引用しつつ長期的な投資の必要性を強調しています。その他では、流体制御・水圧機器を手掛けるミューラー・ウォーター・プロダクツ[MWA]、雨水・排水資材メーカーのアドバンスト・ドレナージ・システムズ[WMS]、水インフラディストリビューターのコア・メイン・インク[CNM]も挙げられます。各社の取り組みは、業界全体が直面する構造的な課題と軌を一にしているといえます。
投資不足分野:「エネルギー」分野
人工知能(AI)データセンターの急速な拡大や電気自動車(EV)の普及、産業の電化を背景に電力需要が急増しています。データセンター向け電力需要だけで2022年の17ギガワットから2030年には35ギガワットへ倍増する見通しです。一方、送電線の70%、遮断機の60%が耐用年数の目安とされる年数(送電線:25年、遮断器:30年)を超えて稼働するなど送配電網の老朽化が進み、2000年以降は異常気象に起因する電力供給停止もみられています。電力の信頼性を維持すべく、電力網の近代化、高圧送電容量の拡大、ならびに耐災性の強化が不可欠になっています。なお、電力会社においては、データセンター事業者など大口需要家からの直接投資が大きな成長ドライバーになっています。
具体的な関連銘柄として、送配電を手掛けるアメリカン・エレクトリック・パワー[AEP]やエクセロン[EXC]、エバ―ソース・エナジー[ES]があげられます。アメリカン・エレクトリック・パワーは、ソフトバンクグループが主導し、データセンターに必要な設備を供給するプロジェクトに関連してデータセンター向け送電網整備などを通じてAI関連投資の拡大を支えています。同様に、大口の電力需要家であるデータセンター事業者が電力会社の設備投資コストを負担し、既存顧客の料金に転嫁しない仕組み(大口需要家向け料金)を採用する動きは、複数の州で規制当局の承認を受けており、業界全体に広がりつつあります。
こうした動きは電力会社にとって単なる一過性の追い風ではなく、構造的な需要拡大局面に入っていることがうかがえます。また、送配電網を手掛けるクアンタ・サービシーズ[PWR]やMYRグループ[MYRG]、ハベル[HUBB]も関連企業です。クアンタ・サービシーズは7月30日に公表した決算で売上高・EPSともに市場予想を上振れたうえ、通年の業績予想も大幅に上方修正しました。送電網の近代化や再生可能エネルギー、大口データセンタープロジェクトの進展が追い風となり、マージンも拡大しています。
政治的な帰趨次第で企業への恩恵の出方が変わり得るため留意
米国のインフラにおいては大きな改善余地があり、それぞれの分野に関わる企業には成長機会があると考えられます。インフラ更新は単年度の景気刺激策ではなく、老朽化した社会資本を更新する長期テーマです。ただ、近年、米国のインフラ環境の改善を支えてきた「インフラ投資・雇用法」による予算措置は2026年9月30日までとなっており、いずれの分野も、政治的な帰趨次第で関連企業への恩恵の出方が変わってくるため、今後の政策動向や関連報道に注目しておきたいところです。
