ウォール街の投資戦略「マジック・フォーミュラ」を日本株向けにアレンジ

株式市場では、これまで相場を牽引してきたAI・半導体関連銘柄を中心に値動きの大きい展開が続いています。こうした相場環境では、短期的な値動きに左右されにくい長期投資の視点で銘柄を選別することが重要です。

そこで、ウォール街で生まれた「良い会社を安く買う」投資法として知られるマジック・フォーミュラの考え方を参考に、日本株向けにアレンジした投資戦略を紹介します。

マジック・フォーミュラは、米国のファイナンス学者でありヘッジファンド運用でも実績を残したジョエル・グリーンブラット(Joel Greenblatt)が、2005年に出版した著書『The Little Book That Beats the Market』で紹介した、米国では広く知られている投資戦略です。

カギは「割安性」と「収益性」

①企業の割安性と②企業の収益性(資本効率)という2つの観点を組み合わせて銘柄を選別する考え方です。実際には割安性を示す指標として営業利益÷企業価値(EV:Enterprise Value)、収益性を示す指標として営業利益÷投下資本(IC:Invested Capital)を用い、それぞれの順位を組み合わせて評価します。

もっとも、投下資本(IC)などは、一般の投資家にはなじみが薄いものなので、本稿では、「良い会社を安く買う」という基本的な考え方はそのままに、より分かりやすいデータを用いて検証を行います。そのため、本家のマジック・フォーミュラをそのまま再現するのではなく、日本株向けに応用した手法になります。本稿では「良い会社を安く買う」投資法と呼ぶことにします。

「良い会社を安く買う」投資法とは?銘柄選別プロセス

「良い会社を安く買う」投資法は図表1のイメージです。

【図表1】「良い会社を安く買う」投資法の銘柄選別イメージ
出所:マネックス証券作成

まず、分析対象はTOPIX構成銘柄としました。ただし、金融業(銀行業、証券・商品先物取引業、保険業、その他金融業)は除外し、分析に必要な予想営業利益などのデータが取得できる銘柄を対象としています。さらに12ヶ月決算予想の銘柄のみを対象とします(変則決算は除外)。

次に、予想営業利益÷〔負債+時価総額〕と予想営業利益÷総資産の2つの指標を算出します。前者は割安性、後者は収益性を評価するための指標として用います。そして、それぞれの指標について母集団の上位20%に入る銘柄を抽出し、両方の条件を満たした銘柄を「『良い会社を安く買う』投資法」の対象銘柄とします。

過去データでの検証結果は?TOPIXを上回る好成績

そこで、実際に各月末時点で抽出した銘柄群について、翌月のリターンの平均を求め、これを毎月繰り返すことで累積リターンを算出し、戦略の有効性を検証しました。

結果を示したのが図表2の青線グラフです。青線は「良い会社を安く買う」投資法の累積リターンを表しており、中長期的に右肩上がりで推移していることが分かります。

なお、参考として、市場全体の動きを表す代表的な株価指数であるTOPIX(東証株価指数)の累積リターンも赤線で併せて示しています。「良い会社を安く買う」投資法の累積リターンはTOPIXを大きく上回って推移しており、中長期的にみても市場平均を上回る成果を上げていることが確認できます。

【図表2】「良い会社を安く買う」投資法の累積リターン
注1: データ期間は2010年1月~2026年7月。データサイクルは月次
注2: 母集団はTOPIX構成銘柄の3月期決算銘柄を対象とした。ただし金融業(銀行業、証券・商品先物取引業、保険業、その他金融業)は除外した。また、分析対象の指標を計算する上でアナリストコンセンサス今年度営業利益(QUICKコンセンサス)が取得できる銘柄のみに母集団を絞っており、12ヶ月決算予想の銘柄のみを対象とする(変則決算は除外)
注3:「良い会社を安く買う」投資法のパフォーマンスについては、毎月末時点で入手可能な情報のみを用いた。各月末時点で(予想営業利益÷総資産)および(予想営業利益÷〔負債+時価総額〕)をそれぞれ算出し、両指標とも分析対象の母集団上位20%に分類された銘柄を「『良い会社を安く買う』投資法」の対象銘柄とした。各月末時点で条件を満たした銘柄群を対象とし、翌月の配当込み収益率(月次)の単純平均を累積して累積リターンを算出する
注4:両指標に用いる営業利益は今年度営業利益(QUICKコンセンサス)を用いる。また、時価総額は毎月末値、総資産と負債は各月末時点で既に公表されている本決算データとする
注5 :比較ベンチマークの参考として表示したTOPIXは2020年3月末を基準に指数化
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

最新データで抽出、条件を満たす「上位15銘柄」

実際に、直近データを使って「良い会社を安く買う」投資法の対象銘柄を抽出しました。

【図表3】「良い会社を安く買う」投資法の参考銘柄(2026年8月5日時点)※予想営業利益÷〔負債+時価総額〕で降順に並べ替えている(上位15社)
注1: スクリーニング基準日は2026年8月5日。対象はTOPIX(東証株価指数)構成銘柄のうち、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除き、時価総額1000億円以上の企業とした。また、指標を計算する上で必要なアナリストコンセンサス今年度営業利益(QUICKコンセンサス)が取得できる銘柄のみに母集団を絞っている。さらに12ヶ月決算予想の銘柄のみを対象(変則決算は除外)
注2:両指標に用いる営業利益は今年度営業利益(QUICKコンセンサス)を用いる(他社推計のコンセンサスとは異なる)。また、時価総額は毎月末値、総資産と負債は既に公表されている本決算データとする
注3:割安性:アナリスト予想今年度予想営業利益(QUICKコンセンサス)÷〔負債+時価総額〕が8%以上、収益性:アナリスト予想今年度予想営業利益(QUICKコンセンサス)÷総資産が13%以上
出所: QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

具体的には(予想営業利益÷〔負債+時価総額〕)および(予想営業利益÷総資産)をそれぞれ算出し、両指標とも分析対象の母集団上位20%に分類された銘柄を選ぶものです。

実際に用いた2つの指標と、それらの直近月末の2026年7月末で見るとそれぞれ上位20%の閾値は次のようです。したがって、これらの割安性と収益性の基準を共に満たす銘柄を抽出します。

①割安性:アナリスト予想の今年度予想営業利益(QUICKコンセンサス)÷〔負債+時価総額〕が8%以上
②収益性:アナリスト予想の今年度予想営業利益(QUICKコンセンサス)÷総資産が13%以上

対象は、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除くTOPIX構成銘柄とし、流動性を考慮して時価総額1000億円以上の企業に限定しています。図表3は、良い会社に絞ったなかで、「安く買う」という条件をメインとするため、予想営業利益÷〔負債+時価総額〕で降順にならべて上位15社に絞っています。銘柄選別のヒントにご活用ください。

実践編:ツールを使って該当銘柄を確認する方法

ここからは補足的な説明です。読者の皆さんが投資候補として銘柄を検討する際に、その銘柄が「良い会社を安く買う」投資法に該当するかを確認する方法を紹介します。

マネックス証券ウェブサイトの「銘柄スカウター」を利用できる方は、図表4の赤丸印の検索欄に銘柄コード、あるいは銘柄名を入力することで、銘柄の詳細な財務情報や業績予想を確認できます。

ここではINPEX(1605)を例に挙げます。図表4の赤丸印に同社の銘柄コード番号あるいは、銘柄名を入力します。 

【図表4】銘柄スカウター
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年8月5日時点)

スクリーニングで確認する「2つの条件」

実際に、以下の2つの条件を満たしているのか順番にチェックします。

①    割安性:アナリスト予想今年度予想営業利益÷〔負債+時価総額〕が8%以上
②    収益性:アナリスト予想今年度予想営業利益÷総資産が13%以上

ステップ1:計算に必要な4つのデータを取得する

まず、①アナリスト予想今年度予想営業利益÷〔負債+時価総額〕ですが、時価総額は図表5の銘柄スカウター 銘柄のページの先頭の赤丸部分に表示されています。42,735億円です。

【図表5】銘柄スカウター 銘柄のページの先頭
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年8月5日時点)

負債は銘柄ページの下の方の「貸借対照表」の直近の赤丸で2,712,295百万円(27,122億円)です。
ここで②収益性:アナリスト予想今年度予想営業利益÷総資産で用いる総資産データもあわせて取得しておきます。直近の青丸で7,735,198百万円(77,351億円)です。

【図表6】銘柄スカウター 銘柄のページの「貸借対照表」
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年8月5日時点)

そして、「アナリスト予想今年度予想営業利益」は「アナリスト予想」タブの「アナリストの利益予想」で見ることができます。1,385,814百万円(13,858億円)    

【図表7】銘柄スカウター「アナリスト予想」タブの「アナリストの利益予想」
出所:マネックス証券のウェブサイトの「銘柄スカウター」(2026年8月5日時点)

ステップ2:実際に計算して条件をクリアするか判定する

以上で、下記2つの条件をチェックするための計算に必要な情報が取得できました。

①    割安性:アナリスト予想の今年度予想営業利益÷〔負債+時価総額〕が8%以上
②    収益性:アナリスト予想の今年度予想営業利益÷総資産が13%以上

まず、①アナリスト予想の今年度予想営業利益÷〔負債+時価総額〕は13,858億円÷(27,123+42,735)=0.20(20%)となり、8%以上の条件を満たします(四捨五入で値を丸めている)。

次に、収益性:アナリスト予想の今年度予想営業利益÷総資産は13,858億円÷77,352億円=0.18(18%)となり、13%以上の条件を満たします(四捨五入で値を丸めている)。

コンセンサスの予想利益が、提供する会社により異なりますが、大きな違いではありません。このように銘柄をチェックすることで「良い会社を安く買う」投資法の銘柄に該当するかが確認できます。ぜひ、今後の銘柄選別のヒントにご活用ください。