1ヶ月弱で約20円の円高への急転換が起こった2024年7月

2年前の2024年7月、円安から円高への急転換が起こった。そのきっかけは、約2ヶ月ぶりの日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入の再開だった。当時、当局が為替市場への介入を中断したのは、米国の反対で介入できなくなったのではないかとの見方が基本だった。そのため、介入の再開は「サプライズ」の面があったと見られ、米ドル/円はその日のうちに157円台まで急落、そして翌日も介入が続いたことから、米ドル/円は160円の大台も回復できなくなった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2024年6~9月)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

この2営業日で費やされた為替介入の金額は、その後財務省が公表したところによると7月11日が3兆円、7月12日が2兆円、計5兆円だった。そして、この7月12日までの米ドル/円安値は157円だった。ということは、介入によって円高に誘導したのは157円台までだったわけだ。

結果的にこの後、米ドル/円は8月5日には141円まで一段安となったが、この157→141円という約16円の米ドル/円の急落は、介入不在の中で起こったものだった。ではそれをもたらしたのは何だったか。

「令和のブラックマンデー」、日銀犯人説は正しいのか?

米ドル/円の下落幅が大きく拡大し、150円の大台割れとなったのは7月31日のことだった。この日、日銀は利上げを決めた。このため、介入不在の中で起こったこの米ドル/円の大幅な続落をもたらした「犯人」は、日銀の「サプライズ利上げ」だったとの理解が多かっただろう。

そしてこの頃、為替の円高にとどまらず、世界的な株価の大暴落も起こり、「令和のブラックマンデー」と呼ばれた。こうしたことから、この利上げを決めた植田日銀総裁は、意表を突く金融政策の決定は金融市場に不測の混乱をもたらしかねないと強く自省し、政策判断により慎重になったと見られている。では本当に、「日銀サプライズがもたらした令和のブラックマンデー」だったのか。

投機筋の円売りポジション損失拡大回避がもたらした円高

日銀が利上げを決めた7月31日は、米ドル/円が154円に位置する120日MA(移動平均線)を大きく下回った日でもあった(図表2参照)。120日MAは、代表的な投機筋であるヘッジファンドの損益分岐点の目安と見られていた。その意味では、この日は投機筋の円売りポジションが損失に転換し、それが拡大する懸念が強くなった日でもあった。

【図表2】米ドル/円と120日MA(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

このように、7月31日について、日銀利上げとは別に投機筋の動向に注目してみると、「令和のブラックマンデー」の印象は大きく変わるのではないか。この日から円高が加速し、米ドル/円が150円の大台を割り込んだのは、日銀利上げが「サプライズ」だったからというより、投機筋が円売りポジションの損失拡大を回避するために、その処分、つまり円買い戻しを急拡大したということが本質的な影響だったのではないか。

円急騰、世界的株大暴落をもたらした「真相」とは?

米ドル/円の急落が広がり、さらに世界的に株価も大暴落となった際には、それは日銀の「サプライズ利上げ」による混乱だとする説明が多くなった。ただこれまで見てきたように、投機筋の米ドル/円取引を巡る動向に注目するとそれとは違った印象になるだろう。

2024年7月31日に米ドル/円が急落したのは、日銀の利上げが「サプライズ」だったことより、それが「たまたま」、投機筋の円売りポジション損失拡大懸念を拡大させるきっかけになったということが大きかったのではないか。では、急激な円高と世界的な株価暴落の関係とは。

ヘッジファンドなどは、円を売ってより高い利回りが期待できる先に投資するという円キャリー取引を積極的に行っていたとの見方がある。この見方が正しければ、円売りポジションの解消は、円高だけでなく世界的株暴落の一因になった可能性もあった。こうして、円の急騰と世界的な株大暴落が起こったことで、分かりやすいきっかけとしては、日銀利上げが「サプライズ」だったため、ということになったのが「真相」だったのではないか。

投機筋の円買いへの急転換が「7月」だった理由

以上のように見ると、2024年7月に円安から円高への大反転が起こったのは、為替介入や日銀利上げという政策効果とは別に、投機筋の動向が大きな役割を果たした可能性があるのではないか。「歴史的円安」を主導した投機筋の円売りが、一転して円売りポジションの損失拡大回避から円買い戻しに急転換したことこそが、一般的な予想を上回る円高への急反転をもたらしたということだ。

そして、投機筋の円売りから円買いへの急転換には、7月というタイミングも影響した可能性があった。これまで見てきた2024年ほどではないものの、7月は夏期休暇入り前の円売りポジションの手仕舞いで円高に振れる傾向があった。それは、2024年7月に投機筋が円売りから円買いに急転換することで、円安から円高への急転換が起こったもう1つの要因だったのではないか。