エヌビディア[NVDA]CEOのお墨付き、次の1兆ドル企業と言われる理由
2026年6月、台北で開催された「Computex 2026」のステージ上で、エヌビディア[NVDA]のCEOジェンスン・フアン氏がマーベル・テクノロジー[MRVL]のCEOマット・マーフィー氏に対し、「次の1兆ドル企業になる運命にある」と言及しました。この強力なお墨付きにより、マーベルの株価は1日で30%以上も急騰しました。
現在の時価総額から1兆ドルに達するためには、株価がここからさらに4倍成長する必要があります。現在のテクノロジー業界において、1兆ドルを超えているのは世界のプラットフォームを支配する一握りの巨大ハイテク企業です。なぜ半導体部品メーカーに近い立ち存在と見なされてきたマーベルが「次の1兆ドル企業」と言われるのでしょうか。その背景には、AIインフラが直面している、物理的かつ構造的なボトルネックが存在しています。
GPUが賢くなったとしても、その頭脳にデータを送り込むスピードが遅ければ、あるいは複数の頭脳同士を連携させるネットワークが未熟であれば、システムの性能は宝の持ち腐れになってしまいます。フアン氏が指摘したのは、まさにこの点でした。「計算処理をバラバラに分解し、データセンター全体に分散させる時、最も不可欠なのはチップとチップ、サーバーとサーバーを繋ぐ接続性(Connectivity)の技術です。これこそがマーベルが不可欠である理由だ」と。マーベルは、接続性の領域で世界最高峰の技術を誇り、エヌビディアのシステムを真にスケールアップさせるために欠かせない存在というわけです。
事業の構造転換:データセンター向けで稼ぐ構造へ
マーベル・テクノロジーは従来、HDDの制御用チップや、オフィスの有線LAN用のスイッチング半導体などを作る部品メーカーとして認知されていました。しかし、現在では、AIインフラ企業へと変貌を遂げています。利益率が低く成長性の鈍いコンシューマー向け製品事業を縮小し、限られた経営資源を成長が見込める最先端領域へと集中させた結果、データセンター事業が売上の75%を構成する事業構造となっています。残りは社内ネットワーク(LAN環境)を支える「エンタープライズ・ネットワーキング」、通信網や5G基地局向けの「キャリア・インフラ」、「自動車・産業」、「コンシューマー」があります。
データセンター向け事業では、カスタムシリコン(ASIC)、光インターコネクト製品(光学DSP/TIA/ドライバ)、PCIe リタイマー(Retimers)、データセンター向けストレージなどを提供しており、これらがAIインフラの爆発的な需要を受けて力強く成長しています。
AIデータセンター領域での強みは、AIサーバーの内部、そしてサーバー同士を繋ぐ外側の双方において、超高速かつ低遅延のパイプラインを丸ごと提供できる製品群を持っていることです。その中核に位置するのが、光インターコネクト製品とカスタムシリコンという2つの柱です。
光インターコネクト:光DSPでトップポジション
まず、光インターコネクト市場についてですが、市場は主に、データを遠くに飛ばす「光DSP(電気と光の変換)」と、「ネットワークスイッチ(データの交通整理)」の2つに分けられ、それぞれで勝者が異なります。光DSPではマーベルが、ネットワークスイッチではブロードコム[AVGO]がトップシェアを獲得しているという構図です。
光DSP:マーベルがトップシェアを獲得
光DSP(デジタル信号処理プロセッサ)は、電気信号を光信号に変換し、データを一瞬で遠くに飛ばすための頭脳チップです。マーベルの代名詞と言ってもよいでしょう。データセンター内部では、従来の銅線(電気配線)を使ってデータを送ろうとすると、通信速度が上がるほど電気抵抗による信号の減衰と発熱が問題になります。そのため、数万個のGPUを並べるAIデータセンターでは、ラック間の通信を光ファイバーによる光通信へと置き換える必要があります。
マーベルの光DSPは、チップから出てきた電気信号を一瞬で光信号へと変換し、また受け取った光信号を正確に電気信号へと戻す、光通信モジュールの頭脳として機能します。現在、市場ではモジュール全体として1.6テラビットという通信速度を実現する次世代製品の量産と出荷が本格化していますが、マーベルは買収したInphi(インフィ)の技術によって、1.6T世代への移行をリードする存在となっています。
ネットワークスイッチ:ブロードコムがトップシェアを獲得
ネットワークスイッチは、データセンター内に飛び交う膨大なデータをどのサーバーへ送るべきか、超高速で交通整理を行います。この市場においては、ブロードコムの「Tomahawk(トマホーク)」シリーズが業界標準となっており、実に70~80%という圧倒的なシェアを握っています。
マーベルもまた、買収したInnoviumの技術をベースにした「Teralynx」シリーズで102.4 Tbpsスイッチを投入するなど頑張っていますが、ハードウェアのスペックだけでブロードコムの牙城を崩すのは容易ではありません。
エヌビディアとの強力な共生関係
そこでマーベルが選択したのが、エヌビディアの独自高速ネットワーク規格「NVLink」へ自社製品を深く組み込むというエヌビディアとの強力な共生関係です。「NVLink Fusion」プラットフォームなどを通じた戦略的提携を進めることで、エヌビディアの純正システムと最も相性が良いイーサネット環境という独自のポジションを確立しました。
エヌビディア側から見れば、ブロードコムはシステム全体を自社のネットワーク技術で置き換えようとする潜在的な競合(エヌビディア・キラー)ですが、マーベルは自社のAIプラットフォームを世界中にスケールアップさせるために不可欠な存在、相棒なのです。
カスタムシリコン(ASIC):エヌビディアプラットフォームと調和
独自チップの内製化を図る巨大IT企業を支える黒子役
次に、第2の柱である「カスタムシリコン(ASIC)」ビジネスに目を向けると、ここでもライバルであるブロードコムとの間で、まったく異なる戦略で戦っていることが分かります。
まず、ASIC事業は、大手テック企業が「自社専用」に開発する特注AIチップの設計・製造を請け負うビジネスです。現在、アルファベット[GOOGL]、マイクロソフト[MSFT]、メタ・プラットフォームズ[META]、アマゾン・ドットコム[AMZN]といった巨大IT企業(ハイパースケーラー)は、他社への過度な依存を減らし、自社の特定のサービスやAIモデルに最適化された、自社専用の特注AIアクセラレータ(独自チップ)を内製化しようとしています。ところが、最先端の半導体をゼロから設計し、製造ラインに乗せるのは容易ではありません。
マーベルは、これらのハイパースケーラーの黒子として、独自チップの設計や製造のプロセスを請け負う開発パートナーのポジションを確立しています。すでにアマゾンのAI学習用チップ「トレインニウム」や、マイクロソフトの「マイア」などの開発パートナーとして深く食い込んでおり、直近では、主要ハイパースケーラーの全てと何らかのカスタムチップの案件で協業していることを明かしています。
先行するブロードコム、猛追するマーベル
競合のブロードコムが市場の70%のシェアを獲得していますが、同社は2番手として猛追しています。カスタムAIチップの市場において、先行するブロードコムは長年にわたってグーグルのTPU開発を支えてきた歴史があり、約70%という圧倒的なシェアを握っています。
ここで重要となるのが、ブロードコムの「垂直統合型」と、マーベルの「モジュール型」というビジネスモデルの対比、そしてそれぞれの優位性です。
ブロードコム:垂直統合型
ブロードコムの最大の優位性は、半導体チップからスイッチ機器、さらにはシステムを動かす基盤ソフトウェア(買収したヴイエムウェア等)に至るまで、あらゆる要素を自社製品で固めて提供する、自己完結型の垂直統合スタイルにあります。このモデルの強みは、顧客をブロードコムのエコシステムに囲い込めることです。またハードウェアの売れ行きが投資サイクルによって一時的に落ち込んだとしても、ソフトウェア事業から毎年莫大なライセンス収入(キャッシュ)が入るため、収益の安定性が高くなります。
マーベル:柔軟に組み合わせられるモジュール型
これに対し、マーベルは、顧客の要望に合わせて必要なパーツを柔軟に組み合わせるモジュール型です。何より、業界の絶対覇者であるエヌビディアのプラットフォームと100%調和することで、エヌビディア経済圏が拡大すればするほど、自社の光DSPやカスタムASICの需要を総取りする形で急成長できる瞬発力を持っています。エヌビディアの普及の波をダイレクトにトップラインへと反映させることができるため、株価の上昇余地(アップサイド)という点で、投資家に大きな夢を提供していると言えます。
セレスティアルAI買収で破壊的技術を手に入れた
2026年初頭に買収完了
さらに、マーベルがこのカスタムASICビジネスにおける未来のゲームチェンジャーとして、競合に対する強力な参入障壁を築くために断行したのが、2026年初頭に完了したセレスティアルAI(Celestial AI)社の買収です。半導体の内部構造そのものを根底から覆す破壊的技術を手に入れるための買収となります。
現在のAIチップは、演算を行うGPUのすぐ横に、大量のデータを一時保管するHBM(高帯域幅メモリ)を配置し、微細な「銅の配線」で繋いでいます。しかし、この電気接続は限界に達しています。GPUの演算速度に対して銅線を通るデータの転送速度が遅すぎることや、電気抵抗による発熱で電力効率が悪化することが問題です。これまでは「サーバー同士」は光で繋いでいましたが、いよいよ「1つのチップの中にあるコンポーネント同士(GPUとメモリ、またはダイとダイ)」も光ファイバーで繋がなければ、性能向上が無理な領域に入ったのです。
データ転送能力を最大25倍拡大
セレスティアルAIの「Photonic Fabric(フォトニック・ファブリック)」は、このダイ間光接続を実現します。通常、光通信を行うには多くの部品が必要でしたが、Celestial AIはこれらをシリコン(半導体)と同じプロセスで極小化し、チップ内部に埋め込むことに成功しました。これにより、計算チップのダイから出た信号が、そのまま光となって一瞬でメモリへ到達します。
この次世代構造がカスタムASICビジネスにもたらすメリットは巨大です。電気配線と比較して、データの転送能力を最大で25倍にまで拡大することができ、メモリの壁は消滅し、GPUは常にフル稼働で計算できます。また通信距離による信号の劣化がほぼなく、電気抵抗へのエネルギーを必要としないため、データ転送にかかる消費電力を従来の10分の1近くまで削減できます。さらにGPUとHBMを密集させる必要がなくなるため、チップの冷却設計が容易になります。
マーベルはこの技術を自社のカスタムシリコンプラットフォームの核に据えることで、ハイパースケーラーたちに対し、「最初からHBMと光で直結された、世界で最も省電力で高速な」次世代の特注AIチップを提供する能力を手に入れたのです。
収益化はいつから?
ガイダンスによると、2028会計年度の後半(2027年中盤~後半)から初期の売上が立ち始め、同年度の第4四半期(2028年初頭)には年換算で5億ドル(約750億円)のランレートに達すると予測しています。Amazon(AWS)向けのカスタムチップ(Trainiumの次世代版など)への搭載がこの時期の大きなカタリストになると見られています。
そして2029会計年度の第4四半期(2029年初頭)までに、売上ランレートは10億ドルへと倍増する計画です。累積売上高に応じて買収元の株主に追加報酬を払う契約(アーンアウト)の期限も2029年末に設定されており、ここが最初のピークになります。
過熱感とAIストーリーによる「持たざるリスク」が交錯
株価は、5月27日の好決算発表後の上昇の勢いも冷めないまま、6月2日のComputexでのジェンスン・フアン氏による「次の1兆ドル企業」発言があってから200ドル台から300ドルへ30%以上急騰しました。一方、バリュエーション面では、来期予想PERは高水準ながら、今後の爆発的な利益成長率を加味したPEGレシオは比較的低水準に留まっています。
ただ、チャートとテクニカル指標を見る限りでは短期的な過熱圏が示唆されています。目先は短期的な利益確定売りや、急騰によって開けた巨大な窓(ギャップ)を埋める調整が起きてもおかしくない状況です。
しかし、エヌビディアから20億ドルの出資(Series A転換優先株)を受けた強固な戦略的提携や、セレスティアルAI(Celestial AI)社の買収によって手に入れた「HBM(高帯域幅メモリ)を光で直結するダイ間インターコネクト」というファンダメンタルズの中核は何一つ変わっていません。2027年後半~2028年の本格普及期(次世代メモリHBM4への移行期)に向けて、同社の企業価値が高まるストーリーの信頼性はむしろ増しています。したがって、中長期的な目線に立つならば、ここからの調整局面があれば仕込み場と考えることもできると思います。
もちろん大きな押し目なく上昇し、このまま「押し目待ちに押し目なし」となる可能性も考えられます。このため、絶対に「1兆ドルストーリー」に乗りたいと思う方は現在の株価で打診買いをし、押し目をじっくり待つ、という時間分散を効かせるのも1つの戦略と考えます。
