少し前の話になってしまいますが、2026年もアメリカでスーパーボウルが行われました。
開催は2月8日。米国内の平均視聴者数は1億2490万人に達し、開催地であるカリフォルニアのベイエリアにもたらす経済効果は約5億5500万ドル(約900億円)と見積もられています。
やはりスーパーボウルは、単なるスポーツイベントではありません。アメリカという国の熱狂、消費、広告、そして経済の力が一日に凝縮される、特別な舞台です。

ただ、僕が今年、試合以上に強く惹かれたのは、その合間に行われたハーフタイムショーでした。制作コストは20億円を超えるとも言われる13分程度のショーなのですが、実はスーパーボールの試合そのものより多くの視聴者に見られていると言われています。

今回その主役を務めたのは、プエルトリコ出身の歌手・ラッパー、バッド・バニーです。
彼はApple Musicがスポンサーを務めるアメリカ最大級のテレビイベントであるスーパーボウル史上初めて英語ではなくスペイン語でパフォーマンスを行い、プエルトリコというラテン文化を堂々と世界に披露しました。その点で、これまでとは明らかに違っていました。

しかも、それは単なる音楽ライブではなく、サトウキビ畑のセット、街角を思わせる風景、13分間の中にひとつのラテン文化の物語がありました。まるで、13分のセットが変わるライブショーを、完璧にノーミスでやってのけたのです。アメリカのエンタメ業界の一流さにも改めて感動しました。

加えて、レディー・ガガというアメリカを代表する世界的アーティストやリッキー・マーティンといった懐かしのラテン歌手のサプライズ出演まで含めて、大げさではなく、短いブロードウェイ作品を見ているような感覚でした。
派手さだけではなく、自らのルーツや文化を、物語として世界に差し出していたのです。

そして最後に示された「憎しみより強いものがあるとすれば、それは愛だ」というメッセージによって、このショーは単なるエンターテインメントでは終わりませんでした。
文化的であると同時に、政治的でもあり、社会的でもあったのです。

いまのアメリカでは、特にトランプ政権後、移民をめぐる議論が絶えません。
しかし、ラテン系住民はアメリカ人口の約2割を占めています。移民は時に摩擦や不安の対象として語られますが、そもそもアメリカという国は、多様なルーツを持つ人々によって形づくられてきた国です。

僕は、その事実こそがアメリカの強さなのだと思っています。
トランプ大統領の今回のハーフタイムに対する反応は、実に象徴的でした。
彼はこのハーフタイムショーを「まったくひどい」「アメリカの偉大さに対する侮辱だ」と切って捨てました。
スペイン語が響き、ラテン文化が主役となることに不快感を示すのであれば、それはアメリカの多様性を否定することにほかなりません。
アメリカの本当の偉大さは、ひとつの価値観だけを押しつけることではなく、異なる文化や歴史を持つ人々を国家の中心に受け入れる懐の深さにあります。

この13分に凝縮されたエンターテインメントの中に、僕はアメリカの根底に流れる強さを垣間見た気がしました。そんな懐の深さこそが、アメリカという国の良さであり、本当の力なのではないかと思います。