地政学リスクの高まりと原油価格の不安定な推移が市場全体の重しとなっています。中東情勢の緊迫化は、エネルギー供給への懸念を通じてインフレ再燃観測を強め、各国の金融政策見通しや資産価格に幅広く影響を及ぼしています。

足元では終戦期待が高まっていますが、2026年3月の下落局面では、株式などリスク資産の下落のみならず、国債、金といった本来は分散投資の受け皿となりやすい資産まで同時に売られる状況がみられており、市場参加者にとって防御の難しい相場となりました。

インフレ圧力はより広範かつ粘着的なものとなる可能性

過去の地政学イベントにおける原油価格の上昇を振り返ると、ロシア・ウクライナ戦争のように紛争が長期化する場合でも、短期的なものにとどまってきました。このような経験則から短期的な収束期待はありますが、今回は過去と同様とはみなしにくい点もあります。

【図表1】地政学イベントにおける原油価格の上昇:ブレント原油先物価格(イベント発生時=100、横軸は経過日数)
出所:Bloomberg

最大の違いは、ホルムズ海峡が実質的な閉鎖状態となっていることです。これまで市場が織り込んできたのは、あくまで通航リスクや供給懸念の高まりでしたが、今回は物流そのものに深刻な支障が及ぶ局面に入っています。

影響は原油にとどまりません。ホルムズ海峡を通過する主要産品は、原油やLNGなどのエネルギー資源だけでなく、化学品や肥料などにも広がっています。このため、今回の問題は単なる原油高ではなく、化学、電子素材、農業関連を含む幅広い供給網の停滞リスクとしても捉えられます。

供給制約が強まれば、企業の生産活動や物流コスト、さらには食料関連価格にも波及しやすく、インフレ圧力はより広範かつ粘着的なものとなる可能性があります。

2026年の年末までの金融政策見通しに変化

こうした中で、各国・地域の金融政策見通しにも変化が生じています。資源等を輸入に頼る欧州や英国では、インフレ圧力の高まりから断続的な利上げ観測が意識され、2026年の年末までに、従来の利下げ予想から3回程度の利上げが予想されています。

これに対し、米国では従来見込まれていた利下げ期待が後退しているものの、直ちに継続的な利上げ局面に戻るとの見方にはなお距離があり、米国では利下げ予想から据え置きが予想されています。日本では2回程度の利上げが予想されています。

【図表2】各国中央銀行の2026年末までの利上げ(利下げ)見通し(縦軸プラスは利上げ回数の予想、マイナスは利下げ回数の予想)
出所:Bloomberg

なお、中期的なインフレ期待の動きをみると、欧州では上昇が目立つ一方、産油国としての性格を持つ米国ではむしろ低下がみられます(図表3)。つまり、欧州と米国で見られる長期金利の動きはつれ高となっているものの、インフレ期待主導の欧州、実質金利主導の米国と、その中身が異なっています。

物価の安定を目的とする欧州では利上げが予想されつつある一方、雇用の安定も責務とする米国では利上げ期待までは高まりにくい状況です。

【図表3】異なる反応を示す5年先のインフレ期待(欧米)
出所:Bloomberg

債券の収益機会、株式投資による持続的な成長機会をとらえる重要な局面

今後、事態の鎮静化や原油価格の落ち着きがみられれば、短期的に株価の戻りが期待されます。そして市場の焦点は再びファンダメンタルズに戻るでしょう。

金利面に注目すると、米国では雇用の鈍化基調も確認されており、資源の調達が相対的に困難でないことも踏まえれば、金融引き締めを再加速させる環境にはなりにくいでしょう。中東依存度から、インフレ次第では利上げを迫られる欧州やアジアよりも良い位置にあるといえます。また、景気の変調が見られれば、米金利には低下圧力がかかる展開も想定されます。

金利が高止まりする局面では市場全体の値動きが不安定になりやすい半面、中期的な視点に立てば、インカムゲインを着実に確保できる米国債券投資の魅力はむしろ高まりやすいでしょう。

世界と米国との関係が複雑化しており、引き続き外交リスクがくすぶり続けることには注意が必要です。ただし、株式投資は中長期的な観点で投資を続ける必要があります。いまだ健全な企業業績の見通しが見られる点は安心材料となるでしょう。

価格変動に振られ過ぎず、中期的な目線で、金利水準そのものが生む債券の収益機会や、株式投資による持続的な成長機会をとらえることも重要な局面と言えます。