不透明な市場環境にも関わらず、航空株が「常識」を覆して上昇する理由は?
中東情勢の混迷や地政学リスクの高まりが続くという不透明な市場環境下にも関わらず、米国、欧州、日本の航空会社の株価が上昇している。シンプルに考えれば、中東情勢の混迷を受けた原油価格の値上がりや地政学的リスクの高まりは、航空会社のセクターにとって逆風になると考えられる。しかし、現在の市場ではその常識を裏切るパラドックスが生じているようだ。
株価を支える2つの要因、旺盛な旅客需要と供給制約
市場環境が良いと言えない状況にもかかわらず、航空株が買われている要因は大きく2つあると考える。
ひとつは、インフレや地政学リスクを背景としつつも、世界的な観光、ビジネス旅客需要は衰えていない。その需要を背景に、ここまでのところは燃料費の高騰や人件費の上昇を燃油サーチャージやベース運賃の値上げによって転嫁することが出来ている。一方、価格転嫁が難しい米格安航空会社(LCC)は大きな打撃を受けた。経営再建中だった米スピリット航空は5月2日、事業停止を発表した。
もうひとつは、サプライチェーンの停滞だ。米ボーイング[BA]の航空機納入遅延問題などにより、業界全体の座席供給量が強制的に制限されている。そこに中東情勢の緊迫化による物流ネットワークや原材料の供給の遅延という悪影響が重なった。航空機は数百万点の部品で構成されるため、どこか1箇所でも中東問題による物流の「目詰まり」が起きると、最終的な組み立てライン全体が停止するリスクがある。結果として既存路線の搭乗率が高止まりし、チケット単価が跳ね上がる高収益状態が維持されている。
米主要航空3社の第1四半期決算は?需要は堅調も立ちはだかる燃料コストの壁
米国の航空会社各社の第1四半期決算を確認しよう。2026年第1四半期(1-3月)の業績は、旅客需要が堅調で売上高が過去最高となる一方、燃料の高騰が利益を圧迫し、純利益が減少する傾向が顕著だった。燃料費の高騰をめぐる不確実性が、業績見通しにも影響を与えている。
アメリカン航空グループ[AAL]
アメリカン航空グループ[AAL]は米国内線および中南米路線に強みを持っている。需要旺盛により売上高が前年同期比10%増となる一方、ジェット燃料費の急騰により4億ドルの追加負担などが発生し、最終赤字となった。また、2026年全体で燃料費が40億ドル増える見通しで、通期の業績を下方修正した。
ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス[UAL]
ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス[UAL]の売上高は146.08億ドル(予想143.76億ドル)と市場予想を上回った。国際線ネットワークが最大の強みで、大西洋路線や太平洋路線の復調による恩恵を最も受けている。また、プレミアム戦略が功を奏し、プレミアム客室の収益が前年比14%増と大幅に伸びた。一方で、燃料費の高騰で2026年通期の見通しを大幅に下方修正した。
サウスウェスト航空[LUV]
サウスウェスト航空[LUV]の第1四半期売上高は市場予想をわずかに下回った。ボーイングの機材納入遅延による成長鈍化の影響を最もダイレクトに受けている。燃油コストの急増が利益を圧迫し一株あたり利益も事前の予想に届かなかった。第2四半期はさらなるコストの上昇が見込まれている。
デルタ航空[DAL]の切り札、燃料コストを相殺する「自社製油所」
これまで述べてきたように、航空会社は燃料費の高騰によって数十億ドルもの損失を被っている。石油危機や燃料価格が高騰する局面においては、燃料コストの上昇を抑える「防御力」を持つ航空会社が有利となる。米デルタ航空[DAL]は子会社モンロー・エナジーLLCを通じて、米国ペンシルベニア州南部トレイナーにある製油所を保有している。燃料価格が上がると製油部門の利益が増えるため、航空部門のコスト増を一部ヘッジすることができる。
2012年に買収を完了した当時の資料によると、トレイナー製油所は一日あたり18万5,000バレルの原油を精製する能力を持っているということだ。この製油所での生産量と、ガソリン、ディーゼル、その他の石油精製品をジェット燃料に交換するという複数年契約を他のエネルギー企業と結んでおり、デルタ航空の米国内で必要なジェット燃料の8割をまかなうことができるとしている。
デルタ航空は製油所事業が急成長、ライバルも認める優位性
デルタ航空の第1四半期決算は増収となったものの、燃料価格上昇や投資評価損の影響もあり最終赤字に転落した。ただし、第2四半期は売上高が前年比で10%台前半の成長を見込んでおり、燃料費高騰の中でも利益を確保できるとしている。
決算資料の中で注目したいのは、その他部門の売上が4割伸びていることだ。その中でも製油所事業の売上が前年同期比56%伸びている。一年前(2025年第1四半期)は製油所事業の売上は前年同期に比べて減少していた。関連するオペレーティングコストも増加しているが、今後も原油価格の高止まり傾向が続くと想定した場合、自社内においてその上昇をオフセットできるのは他社にはない強みだ。
4月9日付のウォールストリートジャーナルの記事「Delta’s Ace in the Hole for Surging Jet Fuel Costs: Its Own Refinery(ジェット燃料価格の高騰に対するデルタ航空の切り札:それは自社製油所だ)」は、この製油所によって、デルタ航空の第2四半期の予想収益が3億ドル増加する見通しだとしている。デルタ航空の最大のライバルの一つであるユナイテッド航空でさえ、この製油所がデルタ航空にとって有益であることを認めている。
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