120円台まで円高に戻ってもおかしくないほどに縮小した日米金利差

米ドル高・円安が一気に150円以上に拡大したのは2022年だった。この時の米ドル高・円安は、基本的に日米金利差(米ドル優位・円劣位)拡大に沿ったものだった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と日米金利差(2020年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

そうした状況は、基本的に2023年にかけて続いた。ただその後、2024年以降、金利差円劣位は縮小に向かった。それは2025年に一段と進み、日米金利差円劣位は足下では2022年前半以来の水準まで縮小した。2022年当時の米ドル/円と日米金利差の関係からすると、120円台まで米ドル安・円高に戻っていてもおかしくないほど金利差円劣位は縮小したわけだが、足下ではなお150円を大きく上回る米ドル高・円安が続いている。

貿易・サービス赤字も2022年以前に縮小=構造的円安ではない?

円安が長期化する中で注目されたのが、「円安の理由は金利差だけではなく日本経済衰退化である」という「構造的円安論」だった。その目安が、2022年にかけて過去最大を記録した貿易・サービス収支赤字だった。それはIT時代に劣後した日本、その象徴が「デジタル赤字」の急増であり、日本経済の競争力低下が円安の主因という考え方だった。

ただ、貿易・サービス赤字は2023年以降は急縮小した。貿易・サービス赤字が2022年に急増した主因は、原油価格急騰による輸入の急増だ。2025年、その原油価格で下落傾向が続くと、輸入は縮小し、貿易収支の改善により貿易・サービス赤字も低水準にとどまっている。

2022年にかけての原油価格の急騰、その後の下落は、ロシアのウクライナ侵攻などを受けた循環的な変化であり、構造的変化というものではなかっただろう。だから原油価格が下落に転じ、それにより貿易・サービス赤字も2022年以前の水準まで縮小した。しかし、円安の主因が貿易・サービス赤字急増だったなら、その赤字急縮小で円高に戻りそうだが、これまでのところそうはならなかった(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日本の貿易・サービス収支(2000年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

161円の円安を主導した投機円売り=今回は投機円安とも違う?

日米金利差が縮小し、貿易・サービス赤字も縮小する中で、それを尻目に一段と米ドル高・円安が拡大、1986年以来の161円までの「歴史的円安」が起こったのが2024年だった。その円安を正当化したのは、過去最大規模に拡大した投機筋の円売りだった(図表3参照)。金利差は縮小したものの、なお絶対的には大幅な円劣位の中で投機的円売りが一段と拡大、それによってもたらされた「歴史的円安」だった。

【図表3】米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

最近にかけて再燃した米ドル高・円安。ただし、一部の投機筋のデータでは、2024年のような円売りの拡大は確認できない。その意味では、今回は投機円売り主導の円安ということでもなさそうだ。金利差でも、貿易・サービス収支という経常収支要因、そして投機筋の動きでも説明できないながら、円安が繰り返されているのはなぜか。

2025年に展開した「債券売り=円安」=理由を変えて繰り返される円安

11月にかけて157円まで米ドル高・円安となった動きを説明できそうなのは、日本の長期金利上昇、債券価格の下落だった(図表4参照)。その意味では、金利差が縮小しても、貿易・サービス赤字が縮小しても、そして投機円売りの拡大でもないにもかかわらず最近にかけて再燃した円安は、日本の債券売りの影響を強く受けている可能性が高いということになるのではないか。

【図表4】米ドル/円と日本の長期金利(2025年1月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

これまで見てきたように、2022年以降、この2025年にかけて4年連続で150円を超える米ドル高・円安が繰り返された。ただし、その原因とされた金利差拡大や経常収支悪化、投機的円売りなどが変わる中でも、新たな円売り要因が現れることで円安が繰り返されたということだったようだ。通貨安要因をつぶしても止まらないという意味では、やや「不気味な円安」の感じになってきたということかもしれない。