「無電柱化」によって、広い空が再び戻る日も近い?
現在、放映中のNHKの大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」が好評です。18世紀中頃、江戸の出版界で活躍した「蔦屋重三郎(蔦重・つたじゅう)」の才覚ひとつによる出世物語と万事開けっぴろげな下町の人間関係が話の本筋、縦糸です。
横糸には江戸城を舞台とした将軍家のお世継ぎ問題や、田沼意次を中心とした血みどろの権力争いが配されており、まさに波乱万丈の物語が進みます。
主人公「蔦重」を演じる横浜流星さんのちゃきちゃきの江戸弁や、日本最大の遊郭・吉原大門の裏側など、これまであまり触れることのなかった舞台装置を含めて、ドラマの本筋以外にも見どころも満載です。
主人公・蔦重が店を構えるのは花のお江戸の中心地、日本橋です。道幅の広い大通りには市井の人々が大勢行き交い、建物は木造2階建てと低く、空が広々と見えます。まだ電気のない時代なので、電柱は1本もありません。電柱のない空はこれほど広く見えるものかとあらためて気づかされます。
話が脱線しましたが、今回のテーマは「無電柱化」です。無電柱化とは、町中から電柱をなくすことです。道路の脇の電柱をなくせば、歩行者の歩くスペースを広く確保し、道路上の空間から電線が消えるため景観もすっきりとします。さらに、大きな地震や台風などで電柱が倒れて交通の妨げになることも防止できます。
コストを抑える電柱の地中化以外の「無電柱化」
無電柱化には大きく分けてふたつの方法があります。「地中化」と「地中化以外」です。これまで無電柱化と言えば「電柱の地中化」が中心でした。道路の区域内の地面に共同溝を掘って、電柱に配線されていたケーブル類を地下の管路に収納する方法です。しかし、地中化には膨大なコストがかかり、地形によっては埋設のための共同溝を掘ることが難しい場合もあります。
地下に電線と電話線をまとめて収容する「共同溝方式」を採用した場合の費用は、1キロメートルあたり5.3億円にのぼり、従来の電柱に設置する方式よりも10倍以上のコストがかかるとされています。それが十分な予算を確保できない地方都市の自治体に地中化の推進をためらわせる大きな理由となっています。そこで「地中化以外の無電柱化」の方法も考えられるようになりました。その代表例が「裏配線」と「軒下配線」です。
東京都は年間700本の撤去を進行中
「裏配線」とは、無電柱化したい主要道路の1本裏の通りに引き込み線を配置して、主要な道路を無電柱化する方法です。「軒下配線」は、無電柱化したい道路の沿道の家屋の軒下などを利用して電線を配線する手法です。
どちらの手法も電線は空中を通っていますが、従来とは電線が通る経路が異なっており、主要道路の電柱を撤去できます。しかし、大地震などの激甚災害への対策は多方面にわたるため、無電柱化のみに予算を割けないのが現状です。
首都機能の集中する東京都は財政事情が比較的良好なため、無電柱化を進めています。整備対象としている2300キロメートルの幹線道路に関して、2040年代に無電柱化を完遂する目標を立て、年間700本の電柱の撤去を進めています。各地方自治体も含めて予算の許す限り、この先も無電柱化が進んでいくでしょう。
無電柱化の関連銘柄をピックアップ
以下に無電柱化に関連する企業をピックアップします。
エクシオグループ(1951)
電気通信工事の大手、コムシスホールディングス(1721)と並ぶ2強企業。一般企業や官公庁向けの通信・電気設備工事からシステム開発・運用、環境工事にも事業を展開している。NTT(9432)へのサービス提供が売上の4割強を占める。NTTの設備投資に業績は連動しがちだが、近年は無電柱化を軸に都市インフラ事業を強化して平準化を図る(売上の3割強)。都市再開発、データセンター向けの需要が旺盛で業績も堅調である。
ミライト・ワン(1417)
NTTを主体とする通信工事の大手である。コムシスホールディングス(1721)、エクシオグループ(1951)に次ぐ業界第3位を誇る。2010年に大明、コミューチュア、東電通の3社が経営統合して誕生した。戦後の電話工事から始まり、80年にわたって通信、電気、交通、水道、エネルギーなどの社会インフラ設置・保守に従事してきた。2022年に大手の西武建設を買収し、データセンターなど非通信分野を強化している。
前田工繊(7821)
河川、道路の補強材など防災用の建築・土木資材の大手。アスファルト舗装道路の地震対策型段差抑制工法や地盤補強用ジオグリッド「フォートラック」、アスファルト高耐久保護シート「アスガード」など、日本のインフラ基盤を支える建設資材を50年にわたって供給してきた。現在は河川護岸材などが堅調で、またM&Aによる事業領域の拡大に積極的である。配当方針は累進配当を継続しており、2007年の上場以来、減配がない。
建設技術研究所(9621)
日本で最も歴史のある建設コンサルタントで、主に河川・道路に強い。ダムの工事管理で実績を挙げたことから、現在も河川・護岸防災やダム点検の「流域・国土」部門の売上が大きい。東日本大震災後から女川町の復興で高い評価を獲得した。現在は、災害時の交通流動分析に基づく交通・防災計画や、AIなど最新の技術を活用した道路管理など、インフラ老朽化や上下水道を含めて地方自治体の比率が高まっている。
