テック企業主導のデータセンター、排出量の増加招くとの指摘
米国の電力業界で、人工知能(AI)開発を支えるデータセンター建設に伴う電力需要の増加が新たな課題となっている。米国の株主擁護団体のAs You Sowが取りまとめた報告書によると、2023年から2025年にかけて、全米で新規に計画されたガス火力発電所の発電容量は70%増の約2億キロワットに達しており、その多くが大手テクノロジー企業が建設するデータセンター向けの供給に充てられるという。一方で、同報告書では現行シナリオで温室効果ガス排出の増加を固定化すれば、世界の株式価値の40%超がリスクに晒され、損失は50%超に拡大する恐れを指摘している。
もっとも、米国の大手テクノロジー企業はこれまで再生可能エネルギー導入を牽引してきたことでも知られている。主要各社のクリーンエネルギー目標は以下の通り。
・アマゾン・ドットコム[AMZN]
「2025年までに、当社のグローバル事業で消費する電力の100%を再生可能エネルギーで賄う」
・アルファベット [GOOGL]
「2030年までに、当社が事業を展開するすべての電力網で、24時間365日カーボンフリーエネルギーで稼働する」
・メタ・プラットフォームズ[META]
「事業運営を支えるために、引き続き電力使用量の100%を再生可能エネルギーで賄う」
・マイクロソフト[MSFT]
「2030年までに、電力消費の100%を常にゼロカーボン電力の購入で賄う」
・デジタル・リアルティー・トラスト[DLR]
「顧客に100%再生可能エネルギーを利用可能にする長期目標」
・エクイニクス[EQIX]
「2030年までに、グローバルポートフォリオ全体で100%クリーンかつ再生可能エネルギーを確保する」
・アップル[AAPL]
「Apple施設における電力を100%再生可能エネルギーで維持」
・アイビーエム[IBM]
「2025年までにグローバル電力消費の75%を、2030年までに90%を再生可能エネルギーで調達」
・オラクル[ORCL]
「2025年までにOracle Cloud Infrastructureのエネルギー使用を100%再生可能エネルギーで賄う」
しかし、AI競争の加速に伴い、「安定供給」を求めて化石燃料依存を強めているとの指摘もある。一般的に企業は再生可能エネルギー証書(REC)やPPA(電力購入契約)を通じてクリーン電力を購入することを念頭に、マーケットベース排出量と呼ばれる考え方を採用している。
ところが、マーケットベース排出量は実際の企業の温室効果ガス排出量と乖離しているという指摘もある。例えばAs You Sowは、Instagramなどを運営するメタ・プラットフォームズの2024年のデータを例に挙げ、同社の証書ベースのCO2排出量は約1,600トンとされている一方、実際の電力網由来の排出量は約500万トンを超えたと指摘している。
需要見通しにも不確実性、過剰投資を招くとの見方も
S&Pグローバルは、世界のAI関連データセンター向け電力需要は2029年までに倍増と予測しているものの、米国国内の需要見通しにも不確実性が残る。自然保護団体として知られるシエラクラブの調査では、電力会社が掲げるデータセンター関連案件の“Economic Development Pipeline”の発電容量は700GWを超え、米国全体の2024年の電力供給量を上回る。
しかし、実際に稼働する案件はその一部にとどまる可能性もあるという。このことから、2000年代初頭のITバブル期と同様に、過剰投資が不良資産化するリスクも指摘される。
実際、ITバブル期、米国の電力会社カルパインは過剰建設したガス火力発電所への投資回収の目処が立たず、2005年に226億ドルの負債を抱え破産申請したことで知られる。一方で、1990年代後半、金融機関の中にはデジタル技術の普及に伴い電力需要が急増するとの見方もあった。例えば、カリフォルニア州独立系統運用機関(CAISO)に所属するアナリストは電力需要の二桁成長率を見込んでいたという。
電力会社は燃料費高騰や座礁資産化の懸念も抱える。消費者向けの電気料金の上昇を念頭に、規制当局がデータセンターの建設に対して反発が強まる事例も出ている。データセンターを比較的積極的に受け入れてきたバージニア州の調査機関、合同立法監査・評価委員会(Joint Legislative Audit & Review Commission)が2024年に実施した調査では、「電力需要の増加は、データセンター以外の顧客を含むすべての利用者に対してシステムコストを増加させる可能性が高い」との見解を示した。
マサチューセッツ州に拠点を置く調査会社のシナプス社は2024年半ば時点でのバージニア州におけるデータセンターの需要増加が、エネルギー費用と供給能力費用の上昇により、地域送電機関全体の顧客に対して電気料金を10%程度引き上げることになると試算している。
データセンターの建設を推進するIT企業側も、規制強化や地域住民の反対に直面しつつある。2024年、アリゾナ州ではアマゾン・ドットコムが計画していた大規模データセンター計画が水資源に影響を与える懸念が指摘され、拒否されている。
米国の株主総会シーズン開幕へ、主要企業の株主総会で議論になる可能性も
IEA(国際エネルギー機関)はAI普及により、2026年に世界のデータセンターの総電力消費量は1000TWh超(日本の消費電力に相当)に達すると予測している。投資会社のJanus Hendersonは、パリ協定目標達成には2030年までに世界排出量の42%削減が必要とされているものの、AI普及による電力需要増はその実現を難しくするとの見方を示している。
一方で、AI関連産業の拡大は確かにエネルギー需要を押し上げるが、同時に“ネットゼロ移行”を助けるツールとしての可能性も大きいと指摘している。再エネ発電の予測精度向上、蓄電技術の研究開発、AIを活用したスマートグリッドや運用効率改善が、拡張する電力需要を吸収するとの考えもある。
AIブームに伴う電力需要の急増は米電力網の大転換を迫るが、その対応を誤れば数十年単位で化石燃料依存を固定化する危険がある。As You Sow の報告書は「投資家、電力会社、テクノロジー企業が協働し、再エネ主導の電力システムを築く責任を果たすべきだ」と警鐘を鳴らす。米国では10月から数多くの株主総会を迎える。2025年の株主総会シーズンではAI産業がはらむ情報使用の安全性や透明性が議論をされたが、今後はAI産業の電力需要に関する株主提案が増加する可能性が高い。
