日経平均はついにトランプ関税ショックの暴落分を埋めることとなりました。ちょうど1ヶ月前の米国の関税政策発表は世界の株式市場を震撼させましたが、その後の値戻しは意外と速いものであったと言えるでしょう。確かに当初の関税施策はかなり強引なものという印象でしたが、その後に米政権が金融市場や景気動向に配慮した修正をしてきたことで、株式市場は徐々に関税問題の着地点は融和的なものになるとの可能性を織り込む展開となっていました。先日の米中閣僚級協議での合意も野放図な関税引上げ競争を両国とも回避する姿勢が見え、そうしたスタンスも先行不透明感を緩和させたように思えます。

とはいえ、(いかに当初の懸念程ではなかったとしても)関税が重く圧し掛かるという懸念は残ります。米政権の政策が予測不能の観があることも否めず、今後の展開次第では再度ショック安が発生する可能性もまた排除はできないでしょう。一方で国内景気も明らかに勢いを欠いてきています。関税問題の不透明感が残る以上、また国内景気へのテコ入れが遅れるようであれば、株価の上値は徐々に重くなってくるのではと予想します。

取り上げるたびに注目ポイントが移り変わる「インバウンド」

さて、今回は「インバウンド」をテーマに取り上げてみましょう。実はインバウンドをテーマに取り上げるのはこれで4回目となります。そう考えると、2015年に初めてこのコラムに取り上げて以降、実に息の長いテーマであることがわかります。まさに、日本経済に大きな影響を与えた、そして与えつつあるファクターであると言えるでしょう。

急回復の「インバウンド」、今後の動向を読み解く(2023年9月6日付)
復活の兆しが見える「インバウンド消費」を読み解く(2022年9月7日付)

ただし、インバウンドという言葉では括られますが、注目ポイントは都度変化しています。最初は爆買いでした。その後は「コト消費」へとシフトし、直近ではオーバーツーリズムへとポイントは移っています。このように注目ポイントがどんどん変化していくというのもまた、このテーマの懐の深さ、ひいては波及効果の大きさを端的に示していると言えるのかもしれません。

百貨店大手4社の免税売上は2ヶ月連続で減少

では、今回はどうでしょうか。結論を言えば、今回は「日本限定」という視点に注目したいと考えています。実は先日、気になるニュースがありました。先週(5月5日週)に百貨店大手4社の高島屋(8233)、J.フロント リテイリング(3086)、三越伊勢丹ホールディングス(3099)、エイチ・ツー・オー リテイリング(8242)が発表した4月の免税売上(訪日客の購買額を示す)は、高級ブランド品の失速から軒並み15−30%もの前年比割れとなり、これで2ヶ月連続の減少になったというのです。

しかし、日本政府観光局によると、訪日外国人数は3月も前年比2桁の増加となっています。4月は確かに為替の円高シフトの影響が出てきた可能性はありますが、東京や京都・大阪の状況を見る限り、訪日観光客がそこまで大きく減少している印象にはありません。にもかかわらず、インバウンド消費が急減速しているというのはどういうことでしょうか。

高級ブランド品は失速、転換点を迎える「安い日本」

カギは「高級ブランド品の失速」という記述にあると考えます。つまり、訪日観光客の増加は続いているが、ブランド品を購入しなくなったという消費性向の変化が起こった可能性があるのです。

振り返ると、急激に円安の進行した2022年以降、「日本の物価は安い」という認識がインバウンドを加速させてきたことは間違いありません。高級ブランドはそうした為替による不均衡を「ユニバーサルプライシング・ポリシー」によって後追いながらも是正しようと努めてきましたが、そこに円高へ揺り戻しとなったことで、あえて日本で高級ブランド品を買うインセンティブが一気になくなったのではないかと想像します。「安い日本」は転換点を迎えたと言えるのかもしれません。

では、旅行客にとって日本は魅力的でなくなったのかと言えば、やはりそうでもないようです。化粧品や雑貨などは依然として人気は高く、店頭では以前と変わらぬ訪日旅行者の熱気を見ることができます。データ面ではそうした小売企業の免税売上開示を見定める必要はありますが、これまで決算発表された中で見ると、いずれも低価格帯商品の免税売上は好調なようです。とすれば、この推論は決して間違っておらず、この変化は大きな関心を持って捉えるべきと考えます。

「日本でしか買えないもの」の顧客訴求力

詰まるところ、「日本でしか買えない日本限定商品」の人気は岩盤と言えるほどに根強いということなのでしょう。これらはインバウンドブームの始まった10年以上前から人気を保持し続けているのですから。確かに、爆買い対象となった家電は現在、通販などを通じて日本でなくとも入手できるようになりましたし、高級ブランド品も為替調整で割安感が薄れてしまえば、あえて日本で購入する必然性もありません。日本におけるコト消費と同様、日本でしか買えないものの顧客訴求力は為替や通販には影響されないということなのだと想像します。

一つ面白い調査がありました。台湾の訪日観光メディア「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」が日本で買いたい食品・お菓子についてのアンケート調査を発表しています。いずれも日本で定番のお菓子ですが、少なくない数で「地方のご当地お菓子」もランクインしていました。このことは訪日観光客の「ここでしか買えないモノ」への感度がすでに非常に高いということを示唆しています。今後はさらにディープな日本限定商品が訪日観光客に発掘されていくのではないか、と予想する限りです。

インバウンドに人気の小売業、化粧品、食品・菓子関連銘柄

では、株式投資という観点ではどのような銘柄が考えられるでしょうか。インバウンドに人気の小売店としては、ドン・キホーテを擁し個性的な品揃えで定評のあるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)、駅前店を中心に化粧品や機能性食品などで定評あるマツキヨココカラ&カンパニー(3088)やスギホールディングス(7649)などが挙げられるでしょう。

製品としては、インバウンドに人気の化粧品やスキンケア商品のメーカーとして資生堂(4911)、花王(4452)、ロート製薬(4527)などが、食品・お菓子関連では樂吃購のランキングにも名を連ねるカルビー(2229)や明治ホールディングス(2269)、日清食品ホールディングス(2897)、江崎グリコ(2206)などは要注目と言えるのかもしれません。