トランプ米大統領の相互関税に対し中国は人民元安誘導で対抗

4月2日にトランプ米大統領が相互関税を発表すると、米金利が急騰し、米国株、米国債、米ドルの「トリプル安」が起こった。そうした中で米ドル/円は日米金利差(米ドル優位・円劣位)拡大を尻目に急落に向かった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

中国は自国通貨である人民元を、まずは下落方向への誘導に動いたようだ(図表2参照)。トランプ米大統領がかねてより通貨安誘導を強く批判する中でのこうした動きは、明らかにトランプ政権の関税政策に対する対抗措置と見られた。

【図表2】人民元/米ドルの推移(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

4月9日にトランプ政権が相互関税の一部停止を決定、中国は人民元安誘導を停止

このように世界第1位と第2位の経済大国が真っ向から激しく対立する中で、その影響への深刻な懸念から世界的な株価暴落が広がった。なかでも、このきっかけを作ったのがトランプ関税ということで米トリプル安は急拡大、「米国売り」の様相が強まった。

4月9日、トランプ米大統領は関税政策の一部について90日間の発動停止を決めた。そしてどうやらほぼ同じタイミングで中国も人民元安誘導を停止したようだった。世界的に金融不安が拡大しかねなくなったことで、米中が対立を止めて歩み寄りの模索を始めたということだったのではないか。

ただ、その後も米ドルの下落は止まらなかった。そして、トランプ米大統領によるパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長解任示唆発言などをきっかけに、米ドルへの信認が揺らいだとして米ドル/円は一時140円をも割り込む動きとなった。こうした中で、特にベッセント米財務長官周辺では、このままなら基軸通貨の米ドルがコントロール不能で下落するクライシス、いわば「米ドル危機」に向かいかねないとの強い危機感も抱くようになったようだ。

至上命題となった「米国売り」再燃回避

そのような背景の中、4月下旬の日米財務相会談では為替問題での踏み込んだ議論は先送りされた。そして、5月1日の日銀金融政策決定会合では、前回会合までのタカ派姿勢を大きく後退させるところとなった。これらはともに、「米国売り」再燃回避が強く意識されたとみられた。その上で5月に入る頃から、中国は人民元を上昇方向への誘導に動き出したようだ(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と米ドル/人民元(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これを受けて、日銀のハト派への転換を手掛かりに145円台まで米ドル高・円安へ戻していた米ドル/円は、同じアジア通貨である人民元の上昇に連れる形で米ドル安・円高が再燃するところとなった(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円と米ドル/人民元(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

人民元高誘導で米中対立どこまで緩和できるか?

以上のように見ると、トランプ米大統領の相互関税発表をきっかけに世界的な金融市場の混乱が拡大したことで、世界の2大経済大国である米国と中国は、当初の激しい対立から歩み寄りの模索に動き始めたようだ。そして、その1つの鍵になっているのが中国の通貨、人民元の政策とみられる。

米中貿易摩擦解消のためには人民元高誘導が有効と考えられる。ただ、まだ「米国売り」リスクがくすぶっているなら、米ドル安・人民元高への誘導は米国からの資金流出による「米国売り」を再燃させる懸念もある。「米国売り」再燃を回避し、人民元高誘導などにより関税政策での対立をどこまで緩和させられるか、綱渡りの交渉が続きそうだ。

「1990年代の日米『通貨目標』を振り返る・前編」の続編となる「1990年代の日米『通貨目標』を振り返る・後編」は5月9日付けで掲載する予定です。