米国の大統領選挙はトランプ前大統領が圧勝であっけなく終わってしまいました。
今更なのですが、日本と違うアメリカの大統領を選ぶシステムをおさらいしましょう。

大統領選挙では2種類の投票が行われます。それぞれの州の「選挙人」を選ぶのと、「大統領の人気投票」が同時に行われます。選挙人の数は、その州の人口に比例しており、各州ごとに選挙戦が行われます。ほとんどの州では、その州で最も多くの有権者の票を得た候補者が、その州の全選挙人票を獲得する「ウィナー・テイクス・オール」という仕組みです。

一方、人気投票は、ハリスさんか、トランプさんのいずれかの大統領候補を直接選ぶことができ、単純に全国規模で有権者にどれだけ支持されているかがわかります。ただ、最終的に誰が大統領になるかは、人気投票ではなく、選挙人団(全国で選ばれる選挙人の集まり)の得票数に基づいて決まります。ですから、人気投票はあくまでも参考ということになるのです。その選挙人団投票においては、合計で538の選挙人団の得票数のうち270票獲得した方が勝ちとなります。

トランプさんは312票を獲得、ハリスさんの226票を大きく引き離し勝利しました。
人気投票でも前投票者数148,965,481人のうち、75,981,870 人(50.1%)の国民がトランプさんに投票、ハリスさんに投票したのが72,988,059人(49.9%)と、こちらでもトランプさんが過半数をとりました。因みに2016年の選挙では、民主党のヒラリー・クリントンさんが全国での人気投票で多数を得ましたが、トランプさんが選挙人団で勝利し、大統領に選ばれました。逆に2020年の選挙では、トランプさんは人気投票では勝ったものの、選挙人団でバイデン大統領に負けてしまい大統領職を失ったのです。人気投票をみると、今回の選挙ではハリスさんより300万人ほど多くのアメリカ人がトランプさんに投票したことになります。この300万人を多いと見るか、少ないと見るかは意見の分かれるところですが、私は決して少なくないと思いました。

今回の選挙については、直前のアンケート調査等ではトランプさんの人気が高まっており、なんとなくトランプさんが勝つかなと思っていたものの、私は最終的にはアメリカ国民は物議をかもしやすいトランプさんより、ハリスさんを選ぶのではないかと考えていました。それは日本人としても、ハリスさんの方が、国際関係においても世界の常識的な行動をとるだろうからと、日本にとってもよいだろうという希望的観測があったのかもしれません。しかし、投資と同じように、結果が全ての選挙において、今回アメリカ人はトランプさんを選んだのです。

では、何が今回の選挙で勝敗を決めたのか、何か一つの要因がという単純なものではないものの、経済が大きな焦点であったことは間違いないと思います。このコラムをお読みになっている皆さんが、毎朝起きて最初に知るアメリカのニュースというと、昨夜のニューヨークダウやS&P500の値動きではないかと思います。
2024年の米国株は、選挙の前でも堅調に推移しており、なんども史上最高値を更新していました。ここだけを見ると、アメリカの経済は絶好調と思えます。ただ、「ウォールストリート」(金融街)と、メインストリート(一般市民や庶民の生活)の状況は違うと言われています。本来株価指数は、経済の先行指数と言われているものの、「経済」が良いという意味が、全ての国民の経済状況が良いという訳でないのが近年特に顕著になっているようです。

実際今のアメリカのメインストリートでは、堅調な株価指数とは裏腹に、生活に困っているアメリカ人は少なくないと言います。今回の大統領選挙のキャンペーンの最中のことです。アメリカのテレビを観ていて印象に残ったインタビューがありました。トランプ候補に投票すると言っていた男性なのですが、レポーターに「なぜトランプ氏に投票するのか?」と聞かれたその回答は、「実はトランプは嫌いなのです。でも、今の生活レベルに耐えられなく、バイデンではダメ。ハリスもダメで、トランプに投票せざるをえないのです」というものでした。

選挙の結果をみると決してこれは、マイノリティな意見ではなかったようです。調べてみると、アメリカ人のほぼ4割が住宅費の支払いを行うため食事を減らしたというニュース記事があったり、国民の7割以上が経済的不安を抱えていると認めています。インフレの高騰が多くのアメリカ人の生活を襲い、バイデン政権の2期目と言われるハリス政権では現状を変えることは難しいと判断したのでしょう。トランプさんは、それを変えることができると装うことで今回の選挙に勝ったのです。果たしてトランプさんが今後4年で、アメリカの歴史に残るようなレガシーを刻む業績を上げられるのか、しっかりと見ていきたいと思います。