私はしばしばスタートアップイベントに参加し、また日々の経営の中でも、スタートアップの方々から業務改善や顧客サービスの付加価値提供に関する提案をいただく機会があります。その中で最近感じるのは、「1つのプロダクトやサービスでスケールさせるのは、今や非常に難しい時代になったなぁ」ということです。

かつて、インターネットの普及とともに「IT革命」が起こり、オンラインビジネスを展開すること自体が革新的で、幅広いニーズに応えるものでした。様々な分野で「〇〇の民主化」が実現し、誰もが使えるサービスが次々に生まれてスケール化してきました。しかし、テクノロジーが急速に進化した今、思いついたアイデアを形にするハードルは格段に低くなり、誰でも会社やサービスを簡単に立ち上げられるようになりました。さらに、資金調達も比較的容易であるため、競争は激化しています。

その結果、課題解決を狙った小さなサービスが増え、企業もそれらを導入しやすくなりました。しかし、一般的に企業の業務プロセスは複雑かつ重層的に絡み合っており、ある一つの課題だけを解決しても全体の歯車がかみ合わないことが多いのです。こうなると、スタートアップのサービスの導入よりも、自社内で独自にシステムを構築する方が合理的だと判断されがちです。さらに、導入を促すための価格競争が起こり、せっかくのサービスやプロダクトが次第にコモディティ化し、独自の魅力が薄れてしまいます。

こうした時代においては、ただ便利な機能を提供するだけではなく、本質的な価値を見極め、それを提供していくことがより重要です。そして、スケール化を目指すとなると、単なるSaaS提供を超えて、エコシステム全体を支えるプラットフォーム側に!となります。しかし、それはそれで、規制など越えなければならない山も大きく、さらには、便利さゆえに詐欺に悪用されるリスクや管理コストの上昇といった新たな課題も浮上します。今の時代は、こうしたジレンマの中で最適解を見出す力が求められています。

目の前の課題を解決し、小さく成功するのは確かに以前よりも容易になったように思います。しかし私は、大きな社会課題に挑戦し、世界で存在感を発揮できる企業が増えることを期待しています。また、私自身もその一端を担えるよう頑張りたいと思っています。より前に、より大胆に、より世界を視野に入れて。そんな挑戦を続けたいと、ここ最近より強く思っています。