2024年11月1日(金)21:30発表(日本時間)
米国 雇用統計

【1】結果: 非農業部門雇用者数は1.2万人増で予想を大きく下振れ、失業率は4.1%と横ばいで市場予想と一致

2024年10月の非農業部門雇用者数は、前月比で1.2万人増と10万人程度の増加を見込んだ市場予想を大きく下回りました。また、8月分は15.9万人増から7.8万人増へ、9月分は25.4万人増から22.3万人増へと、それぞれ下方修正されています。

一方、失業率は4.1%と、前回結果から横ばいとなり市場予想と一致しました。平均時給は前年比4.0%増と、市場予想の4.0%増と一致し、前回結果の3.9%増(4.0%増から下方修正)を上回りました。

【図表1】非農業部門雇用者数(右軸)と失業率(左軸)の推移
出所: 米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点:ハリケーン被害とボーイング社におけるストライキの影響を精査

ハリケーン被害が雇用統計に与える影響

米国では、9月下旬から10月の雇用統計発表までの間に、2つの大型ハリケーンが発生しました。9月下旬にはハリケーン「ヘレン」がアパラチア南部に壊滅的な被害をもたらし、さらにデータ収集期間中の10月中旬には「ミルトン」がフロリダを襲いました。これらのハリケーンによる影響は、悪天候による休業者数の増加として雇用統計に反映されています(図表2参照)。

【図表2】悪天候による休業者数の推移
出所: 米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

一方で、「休業者」の扱いについては、事業所調査と家計調査で異なり、やや複雑です。具体的には、給与が支払われた人数を集計する事業所調査では、休業者は雇用者としてカウントされませんが、家計調査では休業者も就業者と見なされます。そのため、事業所調査による非農業部門雇用者数にはハリケーンの影響が強く反映される一方で、家計調査による失業率への影響は比較的少ないと考えられます。

実際に、図表3の通り失業率の内訳を確認すると、「一時的な解雇」は今回ハリケーン被害を受けながらも失業率の下押し要因となっていることがわかります。つまり、今回の僅かではあるものの失業率が上昇した(※)要因は一時解雇以外にあるため、ハリケーン被害は失業率にはあまり影響を与えていないでしょう。

【図表3】失業率の理由事の寄与度の月次変化率
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

以上を踏まえると、今回の結果は非農業部門雇用者数が市場予想を大きく下回りましたが、ハリケーンによる影響が大きいため判断材料としては限界があります。そのため、ハリケーンの影響が比較的小さいとされる失業率を元に判断した方が適切といえますが、その失業率は今回4.1%と横ばいになったことで、一定の安心感を与える結果となりました(※)。ただし、ハリケーンが具体的にどれだけ雇用者数に影響を与えたかは測りかねるため来月以降も注視する必要があります。

※今回、失業率は小数点第3位まで表示すると4.051% から 4.145%に上昇している。

大規模ストライキが雇用統計に与える影響

ハリケーン被害の影響が具体的にどれだけ影響が出たか測りかねる一方で、ストライキによる影響については、より具体的に数値化されて確認ができます。BLS(アメリカの労働省労働統計局) はストライキの規模と日付に関するデータを収集しています(図表4参照)。このデータによると、10 月の BLS 基準期間までに計44,000 人の労働者がストライキを参加しており、雇用者数をそれだけ下押ししていると推定されます。

【図表4】BLS公表のストライキレポート
出所: 米労働省労働統計局のストライキレポートを元にマネックス証券作成

ハリケーンとストライキ以外の傾向

上述の通り、今回の事業所調査ではハリケーン被害や大規模ストライキといった一時的な要因が強く表れていることが分かりますが、それ以外の全体的な傾向についても確認してみましょう。

【図表5】非農業部門雇用者数変化の内訳
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

図表5によると、非農業部門の雇用者数の内訳では、民間部門の雇用者数が今回-2.8万人と減少し、今回の雇用増加が政府主導であることが示されています。

民間部門の減少には、やはりボーイング社の大規模ストライキによる「製造業」の大幅減少といった一時的な要因も大きく影響していますが、人材派遣サービス業に着目すると、今回に限らず継続的な雇用減少傾向が続いていることが分かります(図表6参照)。

人材派遣サービス業の雇用者数は労働市場の先行指標とされており、過去の統計では、2000年や2007年にこの分野での雇用減少が始まると、続いて非農業部門全体の雇用者数も減少する傾向が見られ、景気後退に突入していました。今のところ非農業部門雇用者数全体の減少はまだ見られていませんが、引き続き注目です。

【図表6】非農業部門雇用者数と人材派遣サービス業の雇用者数の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

景気後退期には正社員が減り、パートタイムが増える傾向にありますが、正社員の前年同期比伸び率はマイナス圏での推移が続いています(図表7参照)。

【図表7】正社員とパートタイムの前年同期比伸び率の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

今回の非農業部門雇用者数は、ハリケーンやストライキによる一時的な要因が強く反映されているものの、全体的な傾向としては、やはりやや冷え込み傾向にあると考えられます。図表8の通り、月次のノイズを除いた3ヶ月移動平均でも下降傾向にあります。

【図表8】非農業部門雇用者数の3ヶ月移動平均の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【3】所感:解釈が困難な結果で来月以降の確認が必要。ハリケーンやストによる影響が小さい失業率の横ばいはポジティブ材料

10月の雇用統計では、ハリケーン被害や大規模ストライキなど一時的なマイナス要因が影響し、非農業部門の雇用者数が予想を下回ったものの、失業率は横ばいとなり、解釈が難しい結果となりました。労働市場の実態を正確に把握するためには、来月以降のデータを引き続き確認する必要があります。

ただし、上述の通りハリケーンやストライキは家計調査の失業率にはあまり影響を与えないとされるため、失業率が今回横ばいとなったことは米経済が堅調であるとの見方を支えるポジティブな材料とみなされ、株式市場は上昇で反応しました。

こうしたなか、同日に公表されたISM製造業景気指数も市場予想を下回り、雇用統計の結果とあわせて、11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では0.25ポイントの利下げがほぼ確実視されています。さらに、米大統領選挙も目前に控えており、政治要因にも引き続き注目です。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐