2024年10月8日(火)8:30発表
日本 毎月勤労統計調査2024年8月

【1】結果:実質賃金は3ヶ月ぶりマイナスへ

【図表1】毎月勤労統計調査2024年8月速報値結果
出所:厚生労働省よりマネックス証券作成

2024年8月の名目賃金は、前年比3.0%増、実質賃金は同0.6%減の結果となりました。名目賃金は前回7月の公表値から0.4%ポイント低下し勢いを落とす一方で、実質賃金の算定に用いられる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃除く総合)は上昇したことから、実質賃金は3ヶ月ぶりにマイナスとなっています。主因は、賞与等にあたる「特別に支払われた給与」の低下で、6月・7月は夏のボーナスによる押し上げがあったものの、今回の結果ではその効果が剥落しました。

【図表2】実質賃金の推移(前年比、%)
出所:厚生労働省よりマネックス証券作成、消費者物価指数はマイナス表示

【2】内容・注目点:先行きの実質賃金はプラス転換を予想

実質賃金はマイナス転換となる一方で、所定内給与(残業分等を除いた基本給、ベース賃金)の前年比は、右肩上がりで上昇していることが分かります(図表3)。今回の速報値では、31年10ヶ月ぶりとなる3%台まで上昇が確認されました。共通事業者(Same Sample)ベースの所定内給与も、同様に上昇トレンドが確認でき、足元では物価上昇に見劣りしないレベルまで所定内給与の上昇が確認でき始めていると言えるでしょう。

【図表3】所定内給与の推移(前年比、%、点線は6ヶ月移動平均線)
出所:厚生労働省よりマネックス証券作成

一方の物価は期末にかけて低下していくものとみられ、先行性を有すると言われている東京都市部の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃除く総合)は9月分速報値では、前回から0.6%低下し前年比2.5%増と、縮小がみられています。物価上昇よりも基本給がプラスに転換していくことが、次のポジティブな材料になり注目です。

短期的な観点では、10月から最低賃金の改定が実施され、全国加重平均で5.1%の賃上げが実施されます。主にはパートタイム労働者の賃金動向になりますが、全体の押し上げ効果が予想され、先行きの実質賃金も上昇が見込まれます。

【3】所感:2025年の賃上げも期待ができる?

賃金動向は、早くも2025年の賃上げに目線が移っている印象です。9月26日の日経新聞では、サントリーホールディングスが、2025年も7%程度の賃上げを目指すといった記事が掲載されていました。石破首相も所信表明演説の中で最低賃金を2020年代に1,500円(今月10月の改定値で全国平均1,055円)まで引き上げるといった考えを示し、また10月7日に日銀より発表された地域経済報告(さくらレポート)においても、中小企業を中心に賃上げの必要性や、2025年の賃上げにポジティブなスタンスのコメントが散見されます。早くも、2025年の春闘に向けての機運が醸成され始めているような印象で、これから他の企業も追随していくことが期待されるでしょう。

他のデータを見ても、月初に発表された日銀短観の雇用判断人員DIによれば、先行きの雇用も不足していくと考える企業が増えていることがわかります(図表4)。こちらも、魅力的な賃金設定をする(あるいは、しなければならない)誘因になると考えられ、賃上げ機運を後押しするでしょう。10月時点でも、2025年の賃上げに向け好スタートができているのではないでしょうか。

【図表4】日銀短観 全産業雇用人員判断DI(業種別)の推移(「過剰」-「不足」、%ポイント、点線は先行き)
出所:日本銀行よりマネックス証券作成

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太