データセンター向け売上高が2.5倍に拡大、全体の約9割を占める
米半導体大手エヌビディア[NVDA]が8月28日に発表した2025年第2四半期(2024年5~7月期)の決算は、売上高が前年同期比約2.2倍の300億4000万ドル、純利益は2.7倍の165億9900万ドルだった。人工知能(AI)向け半導体の需要が高水準にある中、売上高、純利益ともに市場予想を上回った。
部門別の売上高を見ると、ゲーム部門の売上高は前年同期比16%増の28億8000万ドル、自動運転に使う半導体などの自動車部門の売上高は37%増の3億4600万ドルだった。データセンター部門の売上高が262億7200万ドルと1年前の2.5倍に伸び、売上高全体の約87%を占めた。巨大テック企業がAI半導体への投資に巨額の資金を投じており、エヌビディアの収益が拡大する構図が続いている。
フアンCEO「ブラックウェルに対する信じられないような需要がある」
データセンター向けと比べると売上げ規模ははるかに小さいものの、エヌビディアが展開する車載向け中核半導体「DRIVE Thor(ドライブ・ソー)」は、今後、車が「移動するIot機器」であるエッジコンピューターとしての認識が広く強化されるようになった時、エヌビディアの業績にさらなる貢献をしてくれるだろう。
「DRIVE Thor」は、自動車業界で最も重要になりつつある生成AIアプリケーション向けに設計された車載コンピューティングプラットフォームで、セーフティ対応とセキュリティ対策、高度な自動化や自律運転のすべてを集中型プラットフォームとして提供しており、中国EV大手のBYDも採用している。加えて、長距離トラックや自動運転バス、ロボットタクシーなど向けに自動運転システムの開発を進めている企業からの採用も拡大しているという。
一方、2024年3月に披露され耳目を集めている次世代AI半導体「ブラックウェル」については、今5~7月期にサンプル出荷を始めたことを明らかにした。直近では生産計画の遅れが報じられており、好決算にもかかわらず株価が売られた背景には、ブラックウェルの収益貢献の時期のズレが理由のひとつになっていたと思われる。
会社側は2024年11月~2025年1月期には製品の生産と出荷を始め、数十億ドルの売上高を見込むとしている。現行の「H100」や「H200」について「需要は非常に強い」としており、当面は現行のAI半導体で稼ぎながら、2025年以降、最先端のブラックウェルに移行していく方針だ。
決算発表時に行われたアーニングスコール(決算内容について企業の経営陣、アナリスト、投資家そしてメディアの間で話し合う集まり)において、ジェンスン・フアンCOE(最高経営責任者)は「ホッパーに対する需要は本当に強い。そして、ブラックウェルに対する需要も信じられないほどだ。AI市場には多くのダイナミックな動きがあるだろう。2025年は素晴らしい年になるだろう。2025年はデータセンター事業を大幅に成長させる見込みだ。ブラックウェルは業界にとって完全なる転換点となるだろう」と述べた。
多くの国がソブリンAIに投資する中、シンガポールが積極推進
6月21日、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定された。この計画は、デジタル社会形成基本法及び情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律並びに官民データ活用推進基本法に基づき、デジタル社会の実現のための政府の施策を工程表とともに明らかにしたものである。
日本国内では、経済安全保障の観点から、各業種へのサプライチェーンリスクへの対応が進められており、クラウドサービスに関しては、海外事業者への依存度の高さと国内事業者によるサービス提供が課題となっており、こうした課題に対して2027年度までに対応を進めていくことが目標とされている。
エヌビディアのアーニングスコールの中で、コレット・クレスCFO(最高財務責任者)は、各国が社会や産業における国家的な必須事項としてAIの専門知識やインフラを認識するにつれ、エヌビディアのソブリン・クラウド用(各国の政府や政府機関がそれぞれに指定するセキュリティ基準などを満たした信頼性の高いクラウドサービス)AIの機会が拡大し続けているとし、ソブリン・クラウド用AIの収益は、2024年、2桁の数字に達するだろうと述べた。
そもそもソブリン・クラウドとはどういったものなのか。エヌビディアのHPに掲載されている5月10日のブログ「ソブリンAIとは?」には以下の通り記されている。
ソブリン AIとは、国が自国のインフラ、データ、労働力、ビジネス ネットワークを用いて人工知能を生み出すことができる能力を指します。各国は、経済を発展させ、自国のデータを管理し、そして交通、通信、商業、エンターテインメント、ヘルスケアといった分野でテクノロジーの機会を活用するために、長年にわたり国内のインフラに投資してきました。
現代の最も重要なテクノロジーである AIは、社会のあらゆる面でイノベーションを加速させています。AIが生み出す経済的利益と生産性向上は、数兆ドル規模に達すると見込まれています。各国は、そうした便益を自国で生み出し自国のために利用できるよう、ソブリン AIに投資しています。
世界中の国々がソブリン AIに投資しているが、ウォールストリートジャーナルの記事「Nvidia’s New Sales Booster:The Global Push for National AI Champions(エヌビディアの新たな販売促進策:各国のAIチャンピオンを世界規模で推進)」によると、ソブリンAIへの投資額が多い国の1つはシンガポールだという。
国立スーパーコンピューティングセンター(NSCC)はエヌビディアの最新AI半導体で刷新されており、同国通信最大手のシンガポール・テレコム(シングテル)はエヌビディアと協力して東南アジアにおけるデータセンターの拡張を進めている。
エヌビディアの地域別売上高では直近、シンガポール向けが大きく伸びてきている。AIへの投資が電気やガス、水道のような国民生活に欠かせない重要インフラのひとつになりつつあるということだろう。民間による投資を国がサポートすると同時に、国自身もデジタルへの投資を加速させる時代となっている。AIへの投資はまだ始まったばかりと言えるだろう。