バークシャー、中国BYDの株式保有比率をさらに引き下げ

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が、中国のEV(電気自動車)大手BYD(01211)の株式保有高を減らしていることが明らかになった。6月25日に香港証券取引所に提出された書類によると、バークシャーは6月19日時点で、BYDが発行した香港上場株(H株)の保有比率を5.99%に減らした。6月11日時点の保有比率は7.02%だった。

バークシャーがBYD株へ最初に投資したのは2008年のことだ。当時、2億株を超えるBYD株を2億3000万ドルで購入し、10%の株式を保有した。その後、10年以上にわたりBYD株を保有し、一時は保有比率が2割を超えるころもあった。

売却を明らかにしたのは2022年8月だったが、当時、成長が続く中国のEV製造市場で約30%のシェアを持つBYDの業績は絶好調で、バークシャーによる株式売却の方針は驚きを持って受け止められた経緯がある。

BYDは業績好調ながらも、バフェット氏の投資先は米国企業中心に

BYDが創業されたのは1994年、社名のBYDは「Build Your Dreams」の頭文字を取ったものだ。本社は広東省深せん市にある。主要事業は、自動車の製造(約50%)、スマートフォンの部品製造と組み立て(約40%)、自動車用を中心としたバッテリーの生産と販売(約10%)の3つだ。EVを中心とした「新エネルギー車」の販売は、2013以降、9年間連続で中国国内の生産台数1位を継続している。

携帯電話が本格的に普及し始めた1990年代中頃、小型で高性能なバッテリーを開発し、売上を飛躍的に伸ばした。2000年に入り、グローバルな携帯電話市場の覇者であったモトローラ・ソリューソンズ[MSI]やノキア[NOK]にバッテリーを供給し、2002年には香港市場への上場を果たした。

上場で得た資金をもとに、BYDはバッテリー事業を手がけるかたわら2003年に小型車メーカーを買収し、自動車分野に進出。ガソリン車を生産する一方、「祖業」である電池の技術を生かしEVやハイブリッド車の開発も進め、2006年にはBYDとして初めてとなるバッテリーEVの開発に成功、2008年には世界初の量産型プラグインハイブリッド(PHEV)車を発表した。

2013年からの中国政府による「新エネルギー車」普及政策の本格化はBYDの事業展開に強力な追い風となった。BYDの強みの1つは、バッテリーやモーター、マイコンのような一部半導体など、自動車製造に使われる主要部品を実質的にすべて自社で設計、生産する垂直統合型のビジネスモデルをとっていることだ。このことは、サプライチェーンの混乱によって、他の自動車メーカーが操業停止を余儀なくされるなど混乱した中で大きな強みとなった。

中国国内だけにとどまらず、BYDは低価格を背景に海外への輸出も加速させている。現在、BYDの売上の約70%は中国が占めているが、積極的な海外展開を進めており、アジアでは日本とタイ、インドで新モデルのEVを発売した。また、中南米での販売を拡大しており、ブラジルやメキシコでも事業を展開している。

バフェット氏は以前より「米国の成長に賭ける」と述べており、バークシャーの投資先の中心はこれからも米国企業になるであろうことを公言している。また、2024年5月に開催されたバークシャーの株主総会においてバフェット氏は、日本の商社への投資は「必然性がある」と考えているが、他の国への投資は大規模なコミットメントをする可能性は低いと述べていた。

2024年6月だけで470万株以上を買い増したオクシデンタル・ペトロリアム[OXY]

バークシャーはエネルギーセクターに1割あまりを投資

対照的にバフェット氏は、米石油大手オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]の株式を買い増している。バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が6月17日、SEC(証券取引委員会)に提出した資料で明らかになった。バークシャーはオクシデンタルの株式を13日から17日にかけて、1株平均60.3ドルで約175万株取得した。この取引によりバークシャー・ハサウェイが保有するオクシデンタル・ペトロリアム株は2億5528万株となった。

バークシャーは2022年第4四半期(2022年10-12月期)より直近まで1年半にわたり株式を売越しているが、エネルギー株、とりわけオクシデンタルについては投資を積み増している。6月だけで470万株以上を新たに買い入れている。

バークシャー全体としては株式の売越し傾向が続いているため現金ポジションは積み上がっている。2024年3月末時点の現金保有残高(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は1890億ドルと、前期(2023年第4四半期末は1676億ドル)から13%増え、過去最高を更新した。その額は、シスコシステムズ[CSCO]の1890億ドル、ウォルト・ディズニー[DIS]の約1810億ドル、マクドナルド[MCD]の 約1834億ドルといった時価総額に相当する。

【図表1】バークシャーの株式売買の推移
出所:決算資料より筆者作成
【図表2】バークシャー・ハザウェイの手元現金残高とNYダウの推移
出所:各種データより筆者作成

バークシャーが5月14日に明らかにした2024年月末時点の米国市場に上場する株式ポートフォリオによると、オクシデンタルはアップル[AAPL]やアメリカン・エキスプレス[AXP]、コカコーラ[KO]等に次いで、バークシャーの上場株式ポートフォリオの上位10社に入っている。同業のシェブロン[CVX]の保有分と合わせると、エネルギーセクターに1割あまりを投資していることになる。

【図表3】バークシャーが持つ上場株式の保有割合
出所:2024年3月末時点のフォーム13Fより筆者作成

オクシデンタルの事業活動は「米国の利益に資するもの」として期待

5月に公開された「株主への手紙」の中で、バフェット氏はエネルギーセクターの重要性とオクシデンタルの将来について次のように記している。

バークシャーはオクシデンタルの買収や経営には興味がない。私たちは特に、米国に保有する膨大な石油とガスが気に入っており、そして経済的な実現可能性はまだ証明されていないものの、炭素回収の取り組みにおけるリーダーシップも好きだ。この2つの活動はいずれも、わが国の利益に大いに資するものである。

少し前まで、米国は外国産の石油にひどく依存しており、二酸化炭素の回収は意味のあるものではなかった。実際、1975年当時、米国の石油生産量は800万バレル/日(BOEPD)であった。第二次世界大戦における米国の動員を促進した有利なエネルギーポジションから、米国は後退し、外国の(不安定な可能性のある)供給者に大きく依存するようになっていた。石油生産量のさらなる減少が予測される一方で、国内の消費量の増加も予想された。

長い間、この悲観論は正しいように思われ、2007年までに生産量は500万BOEPDまで落ち込んだ。一方、米国政府は1975年に戦略的石油備蓄(SPR)を創設し、完全にその懸念を払拭することはできなかったが、米国の自給率低下を緩和した。

そしてハレルヤ!2011年、シェール経済が実現可能になり、我々のエネルギー依存は終わった。現在、米国の原油生産量は1,300万BOEPDを超え、もはやOPECが優位に立つことはない。オクシデンタルの年間石油生産量は、SPRの全在庫量に迫る勢いだ。もし国内生産量が500万BOEPDにとどまり、米国以外の供給源に大きく依存していたとしたら、わが国は今頃非常に神経質になっていただろう。そのレベルであれば、外国産の石油が入手できなくなった場合、SPRは数カ月以内に空になっただろう。

ヴィッキー・ホルブのリーダーシップの下、オクシデンタルは国にとってもオーナーにとっても正しいことをしている。原油価格が今後1ヶ月、1年、10年の間にどうなるかは誰にもわからない。しかし、ヴィッキーは岩石から石油を取り出す手法に長けており、それは株主にとっても国にとっても貴重な才能である。


巨大な権益を保有するオクシデンタルは現金を生み出すバフェット氏好みの銘柄

バフェット氏が石油株への投資を積み増している背景にあるのは化石燃料に対する根強い需要だ。代替エネルギーの出現にもかかわらず石油需要は伸び続けている。オクシデンタルのヴィッキー・ホルブCEOは以前、CNBCのインタビューにおいて、既知の原油埋蔵量が発見されて開発されるペースが過去に比べてかなり遅くなっていると指摘した。

具体的には、過去10年間に世界で消費された原油量の半分以下しか新たに確認されておらず、この傾向を考慮すると2025年末までに需要が供給を上回ることになると述べている。

一方、ESGバブルの波は後退しつつあるものの、地球温暖化を抑えるためには中長期的な視点で脱炭素に向けたエネルギー転換を進めることも求められている。その中核となるのが、バフェット氏が「株主への手紙」の中でも触れていた、二酸化炭素の回収プロジェクト「CCS」だ。

CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、発電所や化学工場などから排出されたCO2を他の気体と分離させた上で回収し、地中深くに圧入、貯留する技術のことである。資源エネルギー庁のHPでは、国際エネルギー機関(IEA)の報告書において、パリ協定で長期目標となった「2C°目標」を達成するため、2060年までのCO2削減量の合計のうち14%をCCSが担うことが期待されていることを紹介している。

また、「CCS」を発展させた「CCUS」にも期待が集まっている。「CCUS」は「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、CCSで回収したCO2を、貯留するだけではなく、他のものに利活用する技術だ。

例えば米国では、回収したCO2を古い油田に注入し、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUS事業がすでに行われており、CO2削減と石油の増産が同時に実現できるビジネスとして成立しているという。

米金融メディア、モトリーフールの3月3日付けの記事「Warren Buffett Loves Occidental Petroleum for a Reason That's Not Showing Up in the Numbers – Yet(ウォーレン・バフェットがオクシデンタル・ペトロリアムを愛する理由 – それはまだ、数字には表れていない)」は、オマハの賢人は多くの投資家がまだ聞きなれない新しいビジネスの10年先を見据えていると指摘している。

記事では、グローバル・マーケット・インサイツ社(Global Market Insights)の見通しとして、「CCS」や「CCUS」の世界市場が2022年の約60億ドルから2032年には350億ドル以上に拡大するとの見方を紹介している。年率で20%以上の成長率だ。

オクシデンタルは、「CCS」技術を開発する主要企業のひとつであり、この事業の一部のシェアを獲得するだけでも、現在の年間トップライン約300億ドル弱を大幅に押し上げることになると論じている。2025年には大規模な「CCS」施設が操業を開始する予定だ。オクシデンタルが持つネットワークは、オクシデンタルがバフェット好みの現金を生み出す巨大企業であることを意味している。

●石原順の注目5銘柄

オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]
出所:トレードステーション
シェブロン [CVX]
出所:トレードステーション
アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス[AXP]
出所:トレードステーション
コカコーラ[KO]
出所:トレードステーション