電力株がハイテクブームを見越した投資対象の1つとして浮上中
年初来、電力会社はハイテクブームを見越した投資対象となっている。AIが必要とするデータセンターはますます多くの電力を消費するようになっており、電力会社はその電力を供給することになるからだ。
5月23日付けのウォール・ストリート・ジャーナルの記事「AI関連投資の意外な勝ち組『電力株』」によると、米S&P500種指数の中で値動きが通常安定している公益事業セクターは、過去3ヶ月間で18%上昇し、情報技術(IT)セクターの11%を凌ぐ動きになっているという。S&P500種構成企業で2024年のパフォーマンス上位5社のうち、3社は電力会社だった。
新設されるデータセンターによって、米国の電力需要が約30年ぶりの大幅増になると予測するアナリストが多いとのことだ。シティのアナリストによれば、米国内の電力需要のうちデータセンターが占める割合は、現在の4.5%から2030年には10.9%に拡大する可能性があるという。
記事は次のように結んでいる。
こうした公益株の上昇は大きな転換を示している。公益株の配当から投資家が得られる利益は、米国債のそれを依然下回っている。それでも投資家は公益セクターに一段と群がっている。その背景には、ハイテク分野のアナリストや電力会社が、電力需要が向こう数年に急増するとの予想を相次いで示したことがある。ディフェンシブ株と見られることが多かった電力株はこうした状況を背景に、意外にもグロース(成長)株投資の対象となった。
IEA(国際エネルギー機関)が2024年1月に発表したレポート「Electricity 2024 Analysis and forecast to 2026」によると、世界の電力需要は、今後3年間はより速いペースで増加し、2026年まで年平均3.4%の成長が見込まれると指摘している。
特に先進国においては、生成AIなどの新技術を背景に世界の多くのデータセンターで消費される電力量が増加していると指摘している。データセンター、人工知能(AI)、暗号通貨セクターによる電力消費は、2026年までに倍増する可能性がある。2022年には消費電力量が世界全体で約460TWh(テラワット時)だったのに対し、2026年にはその倍以上の約1000TWhに達する可能性があるとしている。この値は日本全体の総消費電力量に匹敵するとのこと。
NTT東日本が運営するビジネスサイトBiz Driveに2月9日に投稿された記事「テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第36回)AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情」は次のように指摘している。
AIがデータを学習するためには、大規模なサーバーが必要です。特に多くの生成AIでは、演算処理を高速で行う高性能の装置「GPU(Graphics Processing Unit)」を使って学習するため、大容量のサーバーが必要になります。サーバーを大量に設置するためのデータセンターも確保する必要があり、必然的に消費電力も高くなります。AIに対するよくある懸念として「AIに人間の仕事を奪われる」というものがありますが、このまま生成AIが増えると、「AIに、本来人間が使うはずの電気を奪われる」という事態が訪れるかもしれません。
ドラッケンミラー氏も買っていた!電力関連銘柄ビストラ[VST]
前回のコラム「エヌビディア[NVDA]株の約7割を売却したドラッケンミラー氏、最新ポートフォリオとポジション変化」において、資産家で著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラー氏が運営するファミリーオフィス、デュケーヌ・ファミリーオフィスの2024年3月末時点のポートフォリオを取り上げた。
ドラッケンミラー氏は、2024年1-3月期に保有するエヌビディア[NVDA]株の約7割を売却した他、アドビ[ADBE]やシェブロン[CVX]等を含む20銘柄を完全に手放した。一方、ETFを含め、中小型株を中心に新たに42銘柄を取得し、ポートフォリオを積極的に入れ替えていた。
デュケーヌ・ファミリーオフィスの2024年3月末時点の上場株式ポートフォリオを評価額順にまとめると、トップは米国の小型株を連動対象としたiシェアーズ ラッセル 2000 ETF[IWM](ベンチマーク:Russell 2000インデックス)となっており、ポートフォリオ全体の約15%に相当する規模となっている。
6月1日付けのブルームバーグの記事「エヌビディアしのぐ300%高、AIブームで米電力会社の株価急伸」は、電力の需要拡大を受けて、米大手電力会社の一角であるビストラ[VST]の株価がエヌビディアをしのぐほどの上昇を見せていると伝えている。
ヘッジファンド、サードポイントの創業者であるダニエル・ローブ氏など著名投資家もビストラ株を購入しており、過去1年の上昇率は300%を超え、S&P500を構成する銘柄の中でトップとなっているとのことだ。
ビストラは、テキサス州アービングを拠点としており、カリフォルニア州からメイン州までの顧客、企業、地域社会に必要不可欠な資源を提供する大手小売電気・発電会社である。
ドラッケンミラー氏のポートフォリオを確認するとそのビストラ株が上位(5位)に入っている。データを遡ると、ドラッケンミラー氏がビストラ株を買い入れたのは、2023年7-9月期で、当時約200万株を取得。その後、10-12月期に2割増、2024年1-3月期で1割増と保有数を積み増してきた。同時に株価が上昇したことで、2024年3月末時点の保有評価額は、半年前に比べて2.7倍に拡大している。
ホットな「冷却」銘柄ヴァーティブ・ホールディングス[VRT]
AIの爆発的な成長でデータセンターのエネルギー需要が急増する一方、不要な熱が大量に生み出されている。このことがサーバーの冷却システムを提供する企業にビジネスチャンスをもたらしている。米国のデータセンターの電力のエネルギーのほとんどは熱として放散されるため、冷却システムの必要性が高まっているからだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルの5月29日付けの記事「AIで熱いデータセンター『冷却』株、今のところは 発熱に対応する技術を手掛ける米バーティブなどの企業の株価は600%余り上昇」は、データセンター向けに電力・冷却システムを提供するヴァーティブ・ホールディングス[VRT]を取り上げている。
記事によると、ヴァーティブ・ホールディングスの前四半期の受注は、為替変動の影響を除いて前年同期比で60%増加し、その結果、3月末時点の受注残高は63億ドル(約9900億円)と過去最高となった。売上高の約3分の1がデータセンター向けの温度管理製品によるものだという。
ほとんどのデータセンターでは現在、空気を循環させ温度を低く保っているが、よりパワフルで発熱の多い半導体チップが使われることになれば、そうした従来型の空冷式システムでは限界を迎えることになる。それを克服するひとつの方法が、サーバーにパイプで冷却液を流し込み、熱を吸収するやり方だ。液体は熱容量が大きく、熱の伝搬も速いため、こうした冷却システムがより効率化すれば、データセンターでサーバーをもっと密集させることも可能になると指摘している。
記事ではさらに、ゴールドマン・サックスの見通しを紹介している。それによると、サーバー冷却システム市場の規模は2024年の41億ドルから2026年には106億ドルに達するとのことだ。中でも液冷システムは人気が拡大し、AIサーバーへの普及率が2024年の23%から2026年には6割近くに達する見込みだとしている。さらに、液冷システムは設計が複雑なため、それを提供する企業にとっては利益率が向上する。液冷システムのコストは空冷システムの3~4倍だとするJPモルガンの試算も紹介している。
ヤフーファイナンスの6月15日付けの記事「Vertiv(VRT)Rides on AI-Driven Order Growth:Is the Stock a Buy?(ヴァーティブ、AIによる受注増加に乗る:株価は買いか?)」によると、会社側は、2024年第2四半期の受注は前年同期比で堅調に伸びると予想しており、AI関連の堅調な需要は2025年の受注・売上高の伸びに追い風になると見込んでいるという。
なお、このヴァーティブ・ホールディングスについてドラッケンミラー氏は、2022年第3四半期から保有している。一時は600万株近い株式を保有していたこともある。直近では保有株数を半分以下に減らしたものの、株価の上昇にともない評価額は大きく変わっていない。