米大統領選挙年の6月の欧州政治不安
Brexitショックとは、2016年6月23日に行われた英国の国民投票で、EUからの離脱が予想外の賛成多数となったことをきっかけに、為替相場では急激な円高や欧州通貨の暴落、そして主要国の株価指数も急落するという激しいリスク回避が起こったことを指している。
2016年は米大統領選挙が行われる年だった。その年の6月に起こったBrexitショック。そして2024年も米大統領選挙を控える中で、フランスや英国などで欧州の政治不安が広がっているのは少し不吉なアナロジー(類似)ではある。
予想外の国民投票でのEU離脱の賛成多数、それが現実になる可能性が高まる中で、2016年6月24日の金融市場は大きく動いた。主要な為替相場としては、まず米ドル/円は24日に107円近い水準から100円も割り込み、最大で7%以上の暴落となった。ただ、翌日にかけて100円台を回復すると、その後しばらく米ドル安値圏での不安定な動きが続いたものの、約1ヶ月後にはBrexitショック前の米ドル高値まで反発した(図表1参照)。
当事者である英国の通貨、ポンドにとっては厳しい結果となった。6月24日、英ポンドの対米ドルでの最大下落率は10%を大きく上回り、まさに「暴落」となった。そしてその後も英ポンド安値圏での推移が長く続くところとなった(図表2参照)。
ユーロ/米ドルの最大下落率は4.5%となり、米ドル/円のそれを下回る程度にとどまったが、その後は、米ドル/円に比べても反発の鈍い展開が長く続くところとなった(図表3参照)。
株価の場合、NYダウは1万8000米ドル程度から1万7000米ドル近くまで5%程度の下落に向かった。しかし、すぐに上昇が再開し、Brexitショック前の高値を更新するなど、株安の影響は一時的なものにとどまった(図表4参照)。
そもそも、英国のEU離脱が、世界的な株価急落や急激な円高をもたらす理屈はよく分からない。当時としては、国民投票での離脱賛成多数という結果が、あまりに予想外だったことから、瞬間的にポジションの急な手仕舞いをもたらしたということに過ぎなかっただけではないだろうか。
では、すでにBrexitショックを経験した金融市場は、今回の欧州政治不安への反応は限られたものになるのだろうか。欧州発の悪材料に対する「慣れ」ということではそうだろうが、一方で米国の主要な株価指数の最高値更新が続き、為替市場では低金利の円資金を調達し、高い利回りの先で運用する円キャリーが急拡大するといった動きは、2016年当時より過大なリスクテークになっている感もある。欧州発の政治不安が、行き過ぎたリスクテーク修正のきっかけになる可能性には注意が必要かもしれない。