この1年で、株価が3倍に上昇した半導体企業のエヌビディア[NVDA]が5月22日に2024年第1四半期(2~4月)の決算を発表する。前回2023年第4四半期(2023年11月~2024年1月)決算発表前後の2月中旬には、業績への思惑と受け止めから株価が上下し、米国株式市場の台風の目となったことは記憶に新しい。決算発表を前に、同社のビジネスモデルを分析する。

インテル[INTC]をしのぎ半導体メーカー世界トップに

米エヌビディア[NVDA]は、半導体企業として2023年5月に初めて時価総額1兆ドルを超え、その後2024年5月14日現在で時価総額2兆ドル超に達している。時価総額の高いハイテク企業としては、ほかにアマゾン・ドットコム[AMZN]やメタ・プラットフォームズ[META](旧フェイスブック)などのインターネットサービス業者であるGAFAMに加え、電気自動車のテスラ[TSLA]がある。全部で7社になったことから最近は、マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven:映画「荒野の七人」の原題)と呼ばれるようになった。中でもエヌビディアは、5月14日現在で時価総額2兆ドルを超えており、アルファベットより上位に位置する。

エヌビディアとは何者か。一言でいえば、半導体製品を販売するファブレス半導体企業である。ファブ(半導体工場)レス(~がない)であるから半導体の製造はしない。製造は、製造請負サービス業者(ファウンドリー)の台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]に依頼する。なお、本稿ではファブレスでも、自社ブランドで半導体を出荷・販売している企業を「メーカー」と定義している。このことは、アップルのiPhoneを例に取れば理解しやすい。iPhoneを実際に製造しているのは鴻海精密工業だが、ブランドはアップルである。同様に、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]、クアルコム[QCOM]もファブレスの半導体メーカーである。

エヌビディアは、2023年における半導体メーカーの売り上げランキングで、これまでトップの座に君臨してきたインテル[INTC]や、メモリー半導体を得意とするサムスン電子を抜いてトップに立った。TSMCはエヌビディアをしのぐが、自社ブランドでの出荷・販売はしていないので、メーカーに入らない。

エヌビディアの2023年度(2023年2月~2024年1月期)決算は、決算期がカレンダー年と同じインテルやサムスンと1ヶ月ずれてはいるが、年度売上額が前年度比2.26倍の609.22億ドルとなり、インテルの542億ドルを抜き、トップに立った(図表1)。

【図表1】エヌビディアの売上額、半導体メーカーとして初の世界トップに
出所:各社の決算発表資料より筆者作成
※TSMCは、製造専門の請負サービス企業のため、ここでは半導体メーカーとしてのランキングとしてはカウント外

 ゲーム向けGPUが起点

このファブレス半導体企業が驚異的な伸びを示したのはAI(人工知能)チップのおかげである。それまでのエヌビディアは、ゲーム機用(特にパソコンでのゲーム)のGPU(グラフィックプロセッシングユニット)を設計・販売していた。対戦ゲームはe-Sportsとも言われ、世界中のゲームマニアと対戦することが多い。

ゲームは架空の世界(バーチャルな世界)とはいえ、どれだけ現実に近く、写実的に描くかが問われていた。初期のゲームは明らかにアニメーションと分かる人物が描かれていたが、時代と共に写実的な人物として描かれるようになってきた。エヌビディアは写実的な絵をコンピューターで描くことのできる半導体チップGPUを開発する企業である。

写実的に表現するため、奥行きや陰影を表現する3次元グラフィックス(お絵かき)を、静止画に留まらず、動画にするためには、より短時間で描く必要がある。動画は1秒間に30枚の絵を連続的に動かして、あたかも人物などが動いているように作る。したがって、1/30秒間に1枚の絵を画面上に描かなくてはならないため、高速のGPUが必要になるのだ。

コンピュータグラフィックスでは、小さな三角形(ポリゴン)を一つの単位にして、それらを組み合わせて絵を描いていく。その三角形をX-Y座標に当てはめて、それらの位置関係を数式で表すため、早く計算できるコンピューターが必要となる。GPUの役割は、その座標計算である。しかも1枚の絵を隅から順番に広げていくのではなく、1枚の絵を小さなブロックに分け、各ブロックの絵を同時に一斉に描いていき、各ブロックをつなぎ合わせる。このようにして高速で1枚の絵を描く。

世界トップのスパコンにも複数採用

ここまでは、エヌビディアはゲーム機に使う半導体メーカーの域を出なかった。ところが、エヌビディアのGPUに搭載されていた演算回路は、コンピューターで複雑な関数を解くのにも十分使うことができた。このため、天気予報によく使われる地球上各地の気圧や温度、湿度などの分布を計算するために使われるスーパーコンピューターの中にもGPUが多数入り始めた。2023年11月に発表されたスパコンの計算速度TOP500では、上位10社のスパコンの内、6社もエヌビディアのGPUを使っていた。

GPUの用途は、スパコンだけに留まらなかった。2010年ごろからブームとなってきたAI(人工知能)にも使えるのだ。GPUに集積された多数の並列演算器は、AIのモデルとなっているニューラルネットワークの計算が得意だったのだ。しかも学習させるのに「重み」というパラメーターを学習の習熟度に応じて最適化していくことで、AIは賢くなるように見える。例えば、猫の写真を何千枚、何万枚とGPUに入力させて学習させていくが、どのような猫でも猫と認識できるようにパラメーターを変えながら最適値に近づけていくのである。

AIの仕組みを紐解くと

AIすなわち機械学習、深層学習することでコンピューターは、まるで人間のように勉強して知識を蓄えていく。大量に学習(トレーニング)させておくと、新しい猫の絵を見せて、これは何か、と問えば85%くらいが猫だと推論(インファレンス)して答えるようになる。AIでは、確率的に推論するため「85%は猫です。90%は犬です。」と答える。実は人間だって同じように推論する。ただ、犬か狼か、分かりにくい写真を見せられても判別しにくいことがある。また会話している相手がボソボソと話すと、言葉を聞き取れない単語がよくある。人間はそれでも分かったフリをしたり、分かりませんと言ったりするが、AIコンピューターは人間よりももっと厳格に「80%の確率で犬である」と表現する。

AIが従来のコンピューターと違うところは何か。従来のコンピューターは計算だけをするわけではない。プログラムされたとおりの作業を実行するという制御機能もある。また、作業している最中に、他の作業が割り込むことにも対応する。例えば、スマートフォンでブラウザを操作したりメールを読み書きしたりしているときに電話が入ると、作業を中断して受話器を取る。つまり割り込みを受け付ける。しかし、AIは計算だけを専門に行わせるのだ。GPUはそのAIの機能の中心をつかさどる。

AIは人間のように一瞬でモノを見て判断できる点も、従来のコンピューターとは異なる。先述のように、人間の判断にはあいまいさも残りはするが。言葉や画像などを即座に認識するのがAIであり人間も同様だ。コンピューターだと画像を認識するのに画面の端から端まで比較しながら判断するため計算時間がかかってしまう。逆に、四則演算などはAIよりもコンピューターの方が速い。AIが得意な応用は画像認識や言語認識などのパターン認識といわれる分野だ。

ソフトも開発、新AIアーキテクチャーも視野に

AIが今後成長すると期待される理由は、適用できる分野が広がってきたからだ。そのうちの一つが、ここ1~2年で進化した生成AIである。チャットGPTを代表とする生成AIはどのようなことでも答えてくれる。生成AIを機能させるためには、政治・経済・社会・倫理・歴史・金融・哲学・物理学・化学・生物学・機械工学・電子電気・土木・建築など、ありとあらゆることを学習させる必要がある。このため、チャットGPTの元となったGPT-3技術では1750億のパラメーターを学習させている。それでもまだ英語を中心の知識であり、日本語の知識は乏しい。

今後は、日本語をはじめとする世界の言語を極める研究も視野に入る。さらに医療、創薬、金融など目的別の生成AIがビジネスとして生きてくる。それだけではない。センサーからの情報を、センサー近くに配置したAIで即座に処理する「エッジAI」なども広がってくる。様々なことやモノを判断して見分けるAI技術の応用は広がっていく。

AI技術には専用の半導体チップが不可欠であり、その先頭に立っているのがエヌビディアだが、インテルやAMDなどライバルも負けてはいない。エヌビディアを必死に追いかけている。AIチップのスタートアップも増えており、すでに激しい競争が始まっている。

だが、ライバルが増えても先頭のエヌビディアは、さらにその先を見据える。エヌビディアはAI半導体というハードウエアだけを作る企業ではない。GPUを並列動作させるためのソフトウエア「CUDA」を既に開発した上、2024年4月にはAIソフトを手がけるイスラエルスタートアップのランエーアイの買収も発表した。こうしたハード・ソフト双方の開発の先には、AIをさまざまな目的に対応できるような製品ポートフォリオを拡大してきている。また、新しいAIアーキテクチャー(構造、構成)も視野に入る。

生成AIのようなクラウドベースの生成AIから用途別生成AI、さらにスタンドアローンのPCやスマホなど、分散した端末に搭載されるエッジAIへと手を広げている。エヌビディアに近づく企業だけではなく国や行政までが登場する。エヌビディアの天下は当分続くだろうが、油断しているとひっくり返されることもありうる。AIは半導体と共に10年、20年にわたって進化が続くだろう。それと共に、エヌビディアも今後とも強くなりそうだ。

【図表2】エヌビディア(NVDA )の週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年5月13日時点)