中国本土株が上昇した2つの理由

2024年3月4日~4月1日までの中国本土市場・香港市場の騰落率ですが、上海総合指数は+1.3%、香港ハンセン指数は-0.3%と横ばい気味の推移となっています。

ただし、中国本土株は終盤に上昇していますが、香港市場は3月29日がグッドフライデーの祝日、4月1日がイースターマンデーの祝日で休場となっています(4月2日から取引が再開されます)。

中国本土市場が終盤に上昇した理由についてはいくつかあります。まず、3月31日に発表された3月の中国国家製造業PMIが50.8と市場予想50.1や前月実績の49.1よりも良く、非製造業PMIも53.0と、こちらも市場予想の51.5や前月実績51.4よりも良い事が挙げられます。

また、4月1日に発表された3月のCaixin中国製造業PMIも51.1と、市場予想の51.0や前月実績50.9を上回っています。なお、PMIは50が景況感の境目で、いずれも50を超えてきているということは業況が拡大していることを示しています。

2つ目の理由は中国当局が新たな政策を打ち出している点です。国務院国有資産監督管理委員会が次代の成長を支える「啓航企業」の第1陣を選定しました。「啓航企業」は「四新」(新チャネル、新技術、新プラットフォーム、新メカニズム)基準に基づいて選定され、多くは3年以内に設立された若い企業です。分野としてはバイオや量子コンピューティング、人工知能(AI)といった最先端のセクターで、優遇措置を与えて将来的なリーダー企業に育てようとしています。

したがって、既存の上場会社に直接恩恵があるというわけではありませんが、中国当局が、そうしたイノベーション企業・ユニコーン企業を育成していこうという姿勢を示したことは、今後の中国経済の活性化への期待にも繋がり、株式市場にとってはプラス材料です。また、習近平国家主席が北京の人民大会堂で訪中している米国企業の最高経営責任者や学識者と会談し、中国への投資継続などを促したとの報道もプラス材料となっています。

中国大手企業の業績は悪くない

3月は大手企業の決算が発表されましたが、こちらも悪くありません。例えば、香港市場で時価総額最大のテンセント(00700)の2023年10-12月期の業績を見ると、売上は7.1%増の1552億元、純利益は74.6%減の270億元と大幅減益なのですが、収益状況の実態を示す調整後純利益(非IFRS準拠)は44%増の427億元となっています(正式なIFRS準拠の純利益については毎四半期に多額の一度限りの減損費用や引当金、株式報酬費用や無形資産償却費、その他本業外損益が含まれており、実態を示す数値としてはあまり参考にならないので、それを調整した調整後純利益を見る必要があります)。

調整後の利益は2023年7-9月期の実績に及ばなかったものの高水準を維持しています。景気や消費は良くないものの、費用を抑えて高い利益率を確保し、342億元という多額のフリーキャッシュフローを残し、バランスシートは一段と強化されました。長期で見ると中国の主要企業の業績は株価ほどには悪くなっていないのです。

恐らく株価というものは、業績や決算内容よりも所属する株式市場の雰囲気の影響を大きく受けるのでしょう。そしてそれは突然、或いは絶え間なく変わり続けるもので、長期的に見れば良くも悪くも同じ雰囲気のまま続くものではないでしょう。

例えば、日本の時価総額最大銘柄であるトヨタ自動車(7203)の株を見ると、株式市場からの評価額である時価総額は、2023年3月期の期末時点で25.5兆円に過ぎませんでした。その2期前の2021年3月期末も24兆円と大して変わりません。その頃の日本株の雰囲気からすれば、代り映えせず、その程度の評価が続いただけです。

それよりも日本株の海外からの評価がこの1年で急激に高まった結果、同じ会社の時価総額が63兆円となり、一年間で38兆円も増えて2.5倍になりました(もちろん円安になった影響も大きいですが)。中国株から抜け出た海外マネーが日本株に向かった効果もあります。

2023年までのEVブームで米国のテスラ[TSLA]の時価総額は一時、トヨタ自動車株の実に5倍にもなり、イーロン・マスク氏は世界一の富豪と称され絶頂期にありました。しかし、EVブームが去り、AI関連がもてはやされる現在、テスラの時価総額は縮小し、トヨタ自動車の再逆転も射程内です。わずか3年で両社の属する市場の雰囲気ががらりと変わった好例です。

中国株についても同じと思います。近いうちに米中関係や投資家の中国に対する見方が方向転換する気配はありませんが、日本株のように状況は常に変わるものです。好業績が続くことが前提ですが、一旦スポットが当たれば、その価値に再び高い評価が付く可能性はあると思います。