エヌビディアはこのままAI分野のリーダーであり続けるのか?

米半導体大手エヌビディア[NVDA]は3月17日から21日、米カリフォルニア州サンノゼでAI カンファレンス「GTC 2024カンファレンス」を開催した。AI時代の申し子と言えるジェンスン・フアンCEOのオープニング基調講演には、何万人もの開発者やAI技術者が参加し、多くの人がスマホカメラを壇上に向けた。登場したファン氏は「これはコンサートではなく、開発者向けのカンファレンスだ」とジョークを飛ばした。

リラックスかつ自信に満ちた様子で、フアンCEOは「Blackwell」と呼ばれるアーキテクチャーを採用した次世代GPU(画像処理半導体)のAIプロセッサー(B100、B200、GB200)を公開した。これは、現在出荷されているHopper(H100)製品に続く製品で、AI処理用としては最高性能を誇るチップとなる。

エヌビディアの手がけるGPUがゲームとグラフィックスからコンピューティングとAIにビジネスの焦点を移すにつれて、市場はエヌビディアの成長に期待しつつも、そのスピードの早さに漠然とした危うさを感じている。エヌビディアがこのままAI分野におけるリーダーであり続けられるかどうかということだ。

エヌビディアの戦略:完全なソリューションの提供

3月20日付けのマーケットウォッチに掲載されていたオピニオン記事「Opinion: Nvidia shows it’s still on track for AI dominance(オピニオン エヌビディア、AI覇権への道を歩む)」は、エヌビディアがAIコンピューティング市場においてリーダー的地位を占める理由について、非常に複雑なパズルの1ピースとしてではなく、完全なソリューションとして顧客にAIソリューションを検証・展開するのに役立つプロセッサーとネットワーキング・コンポーネントを示しているからだと指摘している。

エヌビディアはGPUを製造するだけでなく、ネットワーキング、スイッチ、データプロセッサー、冷却、電力供給など、周辺のハードウェア・コンポーネントを製造または買収することでそのネットワークに取り込んでいる。競合他社や新興企業は、これらのコンポーネントのどれか1つならエヌビディアを追い抜くことができるかもかもしれないが、エヌビディアはハードウェアおよびソフトウェアを含むインフラ全体をシンプルに購入・展開できるようにしているのが特徴だ。

Blackwellシリーズは、より新しく大規模なAIモデルのトレーニングから、それらのAIモデルを市場に展開するために必要な推論コンピューティングの提供まで、さまざまなワークロードにおいて前世代のGPUアーキテクチャー「Hopper」に比べて2.5倍から5倍の性能を提供するという。

メモリ容量は現在の80GBに比べて最大192GBとはるかに大きい。これは、学習・推論モデルに、より大きなデータセットを統合できることを意味し、オープンAIのような開発者が新しい機能をより速く構築することを可能にする。ファウンドリー大手の台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]の4nm世代プロセスで製造される。

生成AI半導体市場が急拡大する中、AI半導体に欠かすことのできないHBM(広帯域メモリ)に対する需要が急激に高まっている。HBMはこれからのAI時代に必須の材料だとされており、ここ数年、不況に直面してきたメモリ半導体セクターにおいては大きな収益が見込まれる期待の星でもある。まだメモリ市場全体における割合としては決して大きくないが、収益性は他のDRAMより5から10倍だと言われている。

メモリ市場の救世主HBM(広帯域メモリ)

市場調査会社ガートナーは2023年12月19日、世界の半導体市場は2023年に前年比11%減の5330億ドルになる見込みだと発表した。メモリ市場の規模(金額)が前年比4割近く縮小したことが影響した。2024年については、そのメモリ市場の低迷が一巡し、前年比約2割増の6300億ドルになる見通しを示している。

【図表1】世界半導体市場の推移(金額)
出所:ガートナーのデータより筆者作成

一方、WSTS(世界半導体市場統計)が2023年11月28日に発表した製品分野別成長率によると、2024年はアナログやロジックがいずれも前年比1桁成長にとどまる見通しであるのに対し、メモリ市場の成長率は44.8%増と全体をけん引する見通しだ。

【図表2】半導体市場の製品別成長率の推移
出所:WSTSのデータより筆者作成

急激に需要が高まるHBM、韓国2社に加えて米マイクロン・テクノロジー[MU]が参入

このメモリ市場の救世主となっているのがHBMだ。HBMはDRAMのダイを垂直に積み上げて、全体のデータ転送速度を高速かつ広帯域化するメモリ技術で、もともとは高性能なグラフィックを処理する目的で開発されたものである。生成AI需要の拡大に伴い、大量のデータを一度に処理することが出来るハイスペックなメモリが求められるようになっており、サーバーやデータセンター向けHBMのニーズが高まっている。HBMは一般的なDRAMに比べて価格が6~7倍ほど高いとされている。

電子デバイス産業新聞の2023年11月10日付けの記事「第527回 HBM、本格的な競争の始まり 韓国2社の投資拡大、米マイクロンの参入」は、2022年のHBM市場は、SKハイニックスが市場トップシェアの50%に対し、サムスン電子が40%、米マイクロン・テクノロジー[MU]が10%だったとしている。HBM市場でトップシェアを持つSKハイニックスとサムスン電子が激しい競争を繰り広げる中、マイクロン・テクノロジーもHBM市場に参入すると発表し、次世代のソリューションで勝負をかけるとしている。

記事によると、HBMは2013年から半導体市場に登場し、第1世代(HBM)、第2世代(HBM2)、第3世代(HBM2E)、現時点では第4世代(HBM3)まで展開されている。2021年10月にSKハイニックスが業界で初めて第4世代であるHBM3の開発に成功し、これをAI向けGPUで世界トップのエヌビディアに供給することでHBM市場におけるシェアを獲得してきた。

【図表3】2022年、2023年、2024年(予測)のDRAM売上高とHBMの割合
出所:TrendForceのデータより筆者作成

オンラインメディア「TECH+」の3月22日付けの記事「2024年のHBM出荷ビット数の伸びは前年比3.6倍、売上高は同3.9倍とTrendForceが予測」は、HBMの生産能力について、2024年末までに月産約25万個に達し、年間の供給ビット数の伸びは前年比約260%(約3.6倍)と、DRAM全体の供給ビット数量の14%を占めるまでに成長する見込みだと紹介している。これは台湾の調査会社TrendForceのデータをもとにしたもので、HBMの売上高も前年比3.9倍となり、DRAM全体の売上高に占める割合も一気に20.1%まで拡大する見込みだとしている。

マイクロン・テクノロジー[MU]のHBM、2024年分はすでに完売

マイクロン・テクノロジーは3月20日に2024年第2四半期(2023年12月-2024年2月期)決算を発表した。売上高は前年同期比58%増の58億2400万ドルと市場予想を上回った。最終損益は7億9300万ドルの黒字と、1年前の20億ドルを超える大幅な赤字から黒字に転換した。

【図表4】マイクロン・テクノロジーの売上高と最終損益
出所:決算資料より筆者作成

マイクロン・テクノロジーのサンジャイ・メロトラCEO(最高経営責任者)は決算発表後に開催された投資家説明会で、HBMに関して2024年分は完売しており、2025年に供給する分の大多数もすでに割り当て済みだと説明した。企業によるAI技術の採用が加速する中、AI向けで高速・大容量のデータ処理を可能にするHBMの需要が高まっている。

メロトラCEOはHBMの可能性について次のように述べた。

すべてのメモリおよびストレージ最終市場の価格設定にプラスの波及効果をもたらしている。DRAMとNANDの価格水準は2024暦年を通じてさらに上昇し、2025会計年度には記録的な売上高と収益性の大幅な改善を見込んでいる。

この破壊的なテクノロジーはビジネスと社会のあらゆる側面を変革するものであり、私たちはAIが牽引する数年にわたる成長段階のごく初期段階にいる。人工的な汎用知能(AGI)を創造するための競争が始まっており、そのためには数兆ものパラメーターを持つモデル・サイズがますます大きくなっていく必要がある。

もう一方では、AIモデルの改良がかなり進んでおり、PCやスマートフォンのようなエッジデバイスで実行できるようになり、新しい魅力的な機能が生み出されている。AIの学習ワークロードがテクノロジーとイノベーションの原動力であることに変わりはないが、推論(市場)の成長も急速に加速している。

メモリとストレージ技術は、学習と推論の両方のワークロードにおいてAIを実現する重要な要素であり、マイクロンはデータセンターとエッジの両方においてこのようなトレンドを活用するのに有利な立場にある。マイクロンは、AIによってもたらされるこの数年にわたる成長機会において、半導体業界で最も恩恵を受ける会社の1社になると見込んでいる。

第3四半期(2024年3-5月期)の売上高は64億-68億ドルと市場予想(59億9000万ドル)を上回る見通しだ。一部項目を除く1株利益については約45セントを見込んでおり、こちらも予想(24セント)を上回りそうだ。エヌビディアにはSKハイニックスがHBMを優先的に供給しているのは前述の通りである。しかし、競争は始まったばかりである。AIの性能がメモリ容量に依存する面があるとすれば、今後のHBMをめぐるメモリ半導体メーカーの争いは熱を帯びそうだ。

石原順の注目5銘柄

マイクロン・テクノロジー[MU]
出所:トレードステーション
ウェスタン・デジタル[WDC]
出所:トレードステーション
エヌビディア [NVDA]
出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:トレードステーション
アルファベット[GOOGL]
出所:トレードステーション