◆「彼と出会えたことは私の人生の快事です」「僕は○○さんが好きです」「これまで一緒にやってきていい部分しかなかった」「(お互いのことは好きだけど)綺麗に別れることにした」「別れることは辛いけど、これからはお互い別々の道を歩んでいきます」 芸能人カップルの破局コメントではない。分党することになった日本維新の会の石原慎太郎、橋下徹両共同代表の会見から拾った言葉である。

◆ある大手証券のストラテジストによると、分党、すなわち「党を割る」とはどういうことか理解できない外国人投資家からの問い合わせが相次いでいるらしい。日本の有権者さえ理解できないのだから、無理もない話である。理解できないのは分党の理由が政策の違いではないというところだ。

◆石原氏は自主憲法制定、集団的自衛権問題で、橋下氏が合併を目指す「結いの党」との見解が違うことを分党の最大の理由に挙げている。それはつまり「国家観の違い」、すなわち「価値観の違い」である。しかし、一緒にやってきたパートナーが価値観の違う相手と仲良くするから別れます、というのは男女間の愛憎のもつれと同じではないか。単に好き嫌いでくっついたり離れたり。政策議論は二の次だ。野党再編どころか政治不信を助長しかねない。

◆石原氏は会見で「橋下さんと袂を分かつことは、千昌夫の『星影のワルツ』ではないが、辛いが仕方がない」と述べた。今の若いひとに『星影のワルツ』と言ってもピンとこないだろう。むしろネット上のバーチャルアイドル、初音ミクの『光と影のワルツ』のほうがまだ通りがよい。その曲は、夢のワルツをいつかまた踊りましょうと結ばれている。維新の会のメンバーはいつかまたワルツをともに踊ることを夢に見ながら、目の前の現実問題に対処しなければならない。今日6月5日は、所属議員62人にとって「異動希望先」の提出期限である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆