モトリーフール米国本社、2023年12月19日 投稿記事より

主なポイント

・エヌビディアはバイオテクノロジー企業と積極的に提携し、投資を行っている
・同社は創薬におけるAIの利用促進を目論んでいる
・とはいえ、取り組みは始まったばかり

なぜエヌビディアは、バイオテクノロジー企業に投資をするのか

エヌビディア[NVDA]は、バイオテクノロジー業界に積極的に投資を行っています。医薬品や実験室向けの製薬技術を開発するつもりはないと思われますが、同社の戦略はバイオテクノロジー業界への参入を図っているように感じられます。同社が動けば、他社も追随する可能性があります。

しかし、従来の専門領域から大きく外れた分野に投資することは、将来的に株主価値を損なうのではなく、支えることになるのでしょうか。エヌビディアがバイオテクノロジー業界に関心を寄せている理由について探ってみましょう。

エヌビディアは、一部のバイオテクノロジー企業に注目している

エヌビディアは、従来のバイオ企業に投資しているわけではなく、創薬や医薬品開発プロセスの一環として、人工知能(AI)を活用している企業を対象としています。エヌビディアは2023年7月、バイオテクノロジー企業で、独自のAIプラットフォームを使うことで医薬品開発の効率化を目指すリカージョン・ファーマシューティカルズ[RXRX]に5,000万ドル投資しました。

しかし、これは、エヌビディアがこの分野で積極的に行っている数多くの投資の1つにすぎません。同社は2023年だけでも、AIを活用したバイオテクノロジー企業に、米国と英国で少なくとも6社に投資しました。またスイスの製薬大手ロシュ・ホールディングス傘下の米ジェネンテックと、AIを活用した医薬品開発をめぐって提携しています。

投資額など非公開なことも多くありますが、確かなことが1つあります。エヌビディアは現金、現金同等物、および投資有価証券で180億ドル超を保有しており、長期的成長のために利用できる資金は潤沢にあるということです。

一見すると、バイオテクノロジー企業への投資は、新しい半導体チップやコンピューティングサービスを開発し、販売するというエヌビディアの従来のビジネスモデルと合わないように思えます。しかし、AI革命の黎明期という広い視点で見れば、これらの投資は理にかなった話になるのでしょう。

エヌビディアは現在、BioNeMoというサービスを開発し、創薬を加速させるAIプラットフォームとして販売しています。AIを活用したバイオ創薬企業としてすでに地位を確立しているリカージョン・ファーマシューティカルズとシュレーディンガー[SDGR]はどちらも、BioNeMoのサービスを利用し、その機能向上に貢献しています。

最終的に、BioNeMoは創薬プロセスの最初の段階で使われる、バイオ医薬品業界における主力ツールとなる可能性があります。そうなれば、利用料金だけでなく、このシステムを使って上市された医薬品のロイヤリティの一部を徴収することも可能になるかもしれません。

投資が実を結ぶまでには相当な時間がかかる見通し

現在、エヌビディアは、あらゆるタイプの企業が自社のニーズに適応したAIシステムを構築する際に頼りにする、AIファウンドリとも言える一連のサービスの開発に取り組んでいます。しかし、バイオテクノロジー企業に相次いで投資しているとはいえ、現時点でヘルスケア関連の売上高はわずかであり、年間10億ドルにも程遠い状況です。

直近四半期(2023年8-10月期)の売上高180億ドルと比べると、微々たるものです。決算資料や投資家向けプレゼンテーションでも、ヘルスケア関連事業について必ず言及されるわけでもありません。少なくとも今のところは、そうした状況です。

現時点では、エヌビディアは、投資を通じて最も有望な企業が持つ要素を自社のAIプラットフォームに取り込むことで、創薬AIの分野におけるブレークスルーや進展から利益を得ようと態勢を整えているところです。同社の医薬品開発プラットフォームを利用する顧客が増えれば、いずれは、投資からある程度の価値を実現できるはずです。

しかし、数年後、エヌビディアのプラットフォームを利用するバイオテクノロジー企業が、同社やAIの助けを借りて医薬品の開発に成功すれば、新規顧客の獲得ははるかに容易になるでしょう。規制当局がそうした医薬品の販売を承認すれば、その開発の過程でAIがもたらした有用性について、遡って分析することも可能になると思われます。

AIを活用して医薬品開発プロセスの迅速化、信頼性の向上、コスト削減が実現した明らかな成功事例がでてくれば、そのツールを利用したいと考える企業は一気に増加し、エヌビディアの売上高も大幅に増加する可能性があります。

バイオ医薬品業界向けサービスからの売上高が、他の部門のような数百億ドル規模になることはないでしょう。それでも、最近行った投資の少なくともいくつかは、莫大なリターンをもたらし、エヌビディアの企業価値を高めると思われます。

新たな分野への多角化は、他の事業が低迷した場合のダウンサイドプロテクションにもなります。そして、エヌビディアのように、ニュースで株価が大きく左右される企業にとって、良いニュースの材料が増えることはそれ自体がプラスであり、熱狂をさらに盛り上げることにつながるはずです。

そのため、バイオ医薬品企業への投資に関するニュースには目を光らせておく必要があります。すぐに成果が表れることはないかもしれませんが、長期的にはエヌビディアの株価を押し上げる可能性があります。

免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Alex Carchidiは、記載されているどの企業の株式も保有していません。モトリーフール米国本社はエヌビディアの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社はロシュ・ホールディングの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。