米中新冷戦の中、覇権争いに翻弄される半導体セクター
今回は、半導体セクターについて解説します。世界同時で進められるデジタル社会の進展により、半導体セクターは将来の高い成長が約束されたような稀有な産業と見なされています。しかし、ごく短期的には各社とも在庫調整の真っただ中にあり、厳しい状況に置かれています。
加えて最先端の半導体は「新冷戦」と呼ばれる米中間の対立の象徴とも見られ、政治的にも大国間のせめぎ合いに翻弄されています。単純に「需要と供給」という経済原則だけで将来を見通すことのできない難しい問題に直面しているわけです。
その半導体業界の先行きを見通すという意味で、3月決算企業がちょうど第2四半期の決算(中間決算)を発表するタイミングを迎えています。そこで、半導体関連の主要企業の業績動向から将来の行方を探っていきます。
「アドバンテスト」と「アルバック」、世界でもトップシェアを誇る日本の半導体関連銘柄
まず、取り上げる企業はアドバンテスト(6857)、アルバック(6728)の2社です。
アドバンテスト(6857)
総論として半導体の製造は、写真の焼き付け技術を応用して、シリコンの基板上に極微細回路を刻み込んでチップに加工する「前工程」と、できあがったチップをプラスチックのパッケージに封入して、電気的な配線を取り付けてモジュールに仕上げる「後工程」とに分かれます。
アドバンテストは、「後工程」で多用される試験装置では国内トップの企業です。しかも世界でもトップクラスに属する、日本が誇る超優良企業です。
半導体が電気的に正常に稼働するかどうか試験を行うテストシステムや、そのためのハンドラー、インタフェースなど、最先端の工程をワンストップで提供しています。メモリの試験装置において世界シェアは5割に達します。
コロナ禍の3年間で在宅勤務と在宅学習が世界規模で拡大したため、日常生活でもデジタル化が急速に浸透しました。それに伴って半導体市場も急拡大を遂げ、アドバンテストの売上高はコロナ前と後とで2倍近くに拡大。株価も3年間で5倍以上上昇しました。
しかし、かつてないほどの好況を謳歌した半導体市場も、急激な拡大が仇となり、いまや反動減の時期を迎えています。半導体各社は一様に最近では見られなかったほどの市場環境の悪化に直面しており、最高の技術と顧客を有するアドバンテストでも在庫調整が避けられません。
10月31日に公表された2024年3月期の第2四半期(以下、Q2)の決算では、売上高は2175億円(前年比▲20.8%)、営業利益は353億円(同▲59.9%)と大きく減少しました。
コロナ禍で特需が見られたスマートフォン(スマホ)、パソコン、テレビという民生用電機機器が軒並み反動減に見舞われており、同時にIT企業によるデータセンターへの投資もここに来て減速していることがこれほどの収益減に繋がっています。
アドバンテストの最新の決算書には、「(試験装置の市場において)過去3年間にわたって継続された投資により、一部の顧客では設備の余剰が発生している」と素直に記述されています。
そこに半導体市況の弱含みが重なって、設備投資が減少、もしくは時期的な遅れに繋がり、アドバンテストの製品需要の落ち込みに繋がっています。
今回の決算の細部を見ると、上半期(Q2)の6ヶ月間をすべて合算した場合、前述のように前年比▲20%強の落ち込みとなります。しかし、これを4―6月の3ヶ月間と7―9月の3ヶ月間の四半期ごとの数値で区切って比較してみると、最も大きな事業の「半導体・部品テストシステム事業」は、4―6月の売上高705億円から7―9月には同812億円へと+15.2%の増加となりました。
前年比ではなく、四半期ごとの比較ではプラス圏に浮上しており、業績面では底入れ感も感じられるようになっています。
スマホやデータセンター向けは市場の冷え込みが強まっていますが、その一方で、電動化の進む自動車業界や産業機械向けには、半導体に対して底堅い需要が続いています。
その上で、主に生成AI(人工知能)で用いられる高性能メモリ向けのテスターも、顧客サイドの生産計画が増えており、テスター需要が増加しているものと見られます。
アドバンテストとしては、顧客のサプライチェーンにおけるテスターの稼働率は改善されつつあるものの、「回復には想定よりも時間を要する見通し」と述べており、慎重なスタンスを崩していません。
それでも生成AIに代表される先端分野の領域では、新たな半導体のニーズが着実に出現しつつあることにも触れています。そうなると半導体市場の底入れ、回復は予想以上に早いのかもしれない、と考えることもできます。
アルバック(6728)
アルバックは独自の高い真空技術を有します。半導体をはじめ薄型ディスプレイ、電子部品など先端的な電気機器は、成膜技術を応用して製造するものが多くあります。その際にアルバックの真空技術は欠かせません。
特に液晶ディスプレイを製造するスパッタリング装置では、アルバックは世界トップクラスの技術と実績を誇ります。
「スパッタリング」とは、真空中でアルゴンなどの不活性ガスを注入して、ターゲットとなる基板材料に、成膜する粒子の原子や分子の薄い膜を形成する技術のことです。従来の真空蒸着法では成膜が困難な材料でも、膜を作ることが可能で、ディスプレイばかりでなく現在の半導体の製造にも欠かせない技術となっています。
スパッタリングのような最先端の分野ばかりでなく、アルバックの真空技術は、自動車部品の真空熱処理、磁石材料の真空溶解、医薬品の真空凍結乾燥、食品業界の風味を損なわない特殊真空乾燥など、古くから存在する伝統的な産業分野でも広く活用されています。
その応用としてアルバックの真空技術は、電気自動車(EV)に欠かせない駆動用モーターの希土類磁石の製造で欠かせない真空溶解炉や真空焼結炉、あるいはシリコンなどの高分子材料の高純度化の真空蒸留装置にも用途が広がっています。
現代の高度情報社会では、アルバックの技術なくして成り立つ産業の方が少数派であると断言できるほどです。
そのアルバックが11月7日に、2024年6月期の第1四半期(以下、Q1)の決算を発表しました。アドバンテストと同じように、売上高は550億円(前年比▲2.0%)、営業利益は28.3億円(同▲44.7%)と、ここでも大幅な減少が見られました。
生成AIへの期待などもあって、半導体の需要は中長期的には拡大が見込まれるものの、短期的にはやはりスマホやパソコンなど民生用電気機器の需要急減に伴って、半導体メーカーの設備投資は鈍化しています。それがアルバックの業績にも響いています。
しかし、売上げと利益は落ち込んだものの、受注高は前年同期の666億円からQ1は780億円へと+17%の増加と大きく積み上がりました。アルバックによれば、EV向けのバッテリー関連投資が活発化しており、中でも日本と中国でSiC(炭化ケイ素)のパワーデバイスへの投資が増加しています。
EV用バッテリーの小型化・大容量化に合わせて、安全性を向上させるために、正極は従来のアルミ箔から両面アルミ蒸着膜へと置き換える必要があります。その部分でアルバックの成膜技術が重用されることになり、そこで量産投資が本格化しつつある様子がうかがえます。
Q1の時点では、売上高はまだ前年並み水準にとどまりますが、少しでも早い製品化を狙って投資がQ1に集中している模様です。このため将来の売上高となる受注残高はすでに1600億円を超え、前年Q1の1310億円をすでに3割も上回っています。
順調に進めば、この受注残高がQ2からは売上げとなって現われることになります。そうなれば、1―3月から4―6月にかけて業績はボトムを打ち、反転のタイミングが近付いているものとも見られます。
業績モメンタムの転換点、株価動向が気になる半導体関連銘柄
同じような状況は半導体セクターに限りません。今回の決算発表で悪い内容を発表した電子部品・デバイス関連企業の中には、決算発表の直後から株価が切り返して大きく上昇する動きが多く見られました。このような動きは極めて重要です。
ここからは、企業側のリリースと株価の動きに注意を払うことが必要です。大きな業績モメンタムの転換点では、株価の動きが先行して起こるケースが多いからです。前述で解説した「アドバンテスト」と「アルバック」の2銘柄に加え、半導体・デバイス関連株で注目すべき企業を紹介します。
レーザーテック(6920)
顕微鏡の微細な自動焦点装置を自社で開発したことがきっかけで、1976年に世界で初めて半導体の製造に欠かせないフォトマスクの自動検査装置を開発。それ以来、マスク検査の分野では世界シェア100%を誇る実績と歴史を有し、全世界のウエハ製造メーカーと取引している。
10月31日に発表した2024年6月決算のQ1では、業界環境が必ずしも良好ではない中で、今期も最高益を更新する見通しを打ち出した。
SCREENホールディングス(7735)
数ある半導体製造装置の中でも、ウエハ洗浄装置では他の追随を許さないトップ企業。「京都銘柄」の中核としても知られ、祖業の印刷技術を応用して半導体製造装置への展開を図った。
最新機種の「FC-3100」は減圧乾燥システムを搭載、1時間で1,000枚のウエハを洗浄する能力を持つ。また、感光剤の塗布・現像を行う最新のコーター・デベロッパー「RF-200EX」は、ウエハに塗布するレジストを大幅に削減する環境負荷の低い製品。10月31日に発表した2024年3月決算のQ2において、今期も最高益を更新する見通しを打ち出した。