◆「昔、携帯は鳴るものだったが、今のケータイは光るものになった」。西野カナのヒットナンバー「Dear」を聴いて、僕はレポートにそう書いたことがある。中高年の読者には申し訳ないが、今日の話は菅原文太ではなく、西野カナである。西野カナを知らないオジサンのために説明しておくと、彼女は25歳の女性ポップ・シンガー。若い世代に絶大な人気がある。彼女の歌はすべて彼女自身か周囲の友達の体験をもとに作られている。等身大の女の子の恋歌が人気の秘密だ。

◆その西野カナがニューアルバムのプロモーションのために出演した番組でこんなことを言っていた。「私らの世代はケータイメールが主流だけど、私らより下の世代はLINEとかSNS。ちょっと世代が違うだけでコミュニケーションの仕方が全然違う。」

◆先日、投資教育の一環で、都内の女子校に出向き中高生向けに株の話をする機会があった。紙の新聞を日常的に読んでいる生徒は皆無、為替の円高・円安を正しく把握している生徒は6割程度だが、ほぼ全員がLINEやフェイスブック、ミクシィなど何らかのコミュニケーション・アプリを使っている。

◆日経平均は昨日も続伸し、17500円台を回復、約7年4か月ぶりの高値をつけた。10月の安値からの上げ幅は3000円を超え、上昇ピッチの速さに警戒感も浮上する。このところ「バブルの見分け方を教えてください」という質問をよく受ける。小欄「新潮流」の前身である「投資の潮流」ではこう述べた。

<バブルの予兆を知る、もうひとつの方法は、株式投資と最も縁遠いと思われる人たちの言動を観察することである。大恐慌の時代のウォール街なら靴磨きの少年、現代の日本なら、さしずめ女子大生や若いOLだろう。普段はおしゃれやグルメにしか興味がない彼女たちがマネー誌を読み始めたら「危ない」と思ったほうがいい。>(2013年1月22日「バブルの見分け方」)  

◆これを書いたときは、半ば冗談、半ば本気だったが、今後は冗談としか思われなくなるだろう。若い女の子たちが普通に新しいコミュニケーション・アプリの話をする。そしてそれらのサービスを提供する企業は続々と株式を公開する。結果として、彼女たちが話している内容はアプリの話なのかIPOの話なのか、ちょっと聞いたくらいではわからないようになるだろう。オジサン世代にはやっかいな時代、昭和は遠くなりにけり、だ。任侠映画のスターが相次いで逝き、近頃は、ますます遠くなりにけり、である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆