M&Aの経験は私のキャリア形成に大きく影響しています。企業にとってM&Aは、企業価値向上の手段ですから、戦略的意義を考える力が必要です。戦略的意義があったとしても、高すぎたり安すぎたりして数字が合わなければ企業価値向上につながりません。事業モデルを理解し、収益構造を把握し、将来計画をデザインし、財務モデリングを策定して、適正な価格なのかを判断できる力も必要です。

また、財務モデリングを策定するには、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフローをつなげてプロジェクションを作るスキルを要するので、会計・財務知識が身に付きます。そして、実際にM&Aを進める際には、最適なストラクチャーを検討するために、会社法や税法についても調べて理解することを要し、様々な利害を調整して、一つ一つ合意し、契約書にまとめていく交渉力も必要です。色んな要素がギュッと詰まっているのがM&Aだと思っています。

M&Aアドバイザリー業務に従事していた頃は、様々な業種の会社に様々な提案をし、アドバイザーとして雇っていただいたら、当該会社の社員になった気持ちでサポートさせていただきました。ビジネスにリスク「ゼロ」はありませんので、どこにどんなリスクが存在するかを把握・分析し、どのようにマネージするかを想定すべく、とにかく幅広い視野で物事を考えることに努めていました。また、M&Aは、M&Aをすることがゴールなのではなく、その後、どのように企業価値向上につなげていくかが最も重要なため、長い目線での戦略策定・実行においてお役に立てるよう、尽力していました。

M&A業務での経験は、会社経営という観点で今の私に大変活かされています。と、ここまでつらつらと書いてきて、思うことがあります。M&Aというと、冒頭に記載したような「ハードスキル」を想像しがちですが、私がキャリアを形成する中で最も大切にしてきた普遍的なことは、「相手の立場で物事を考えること」に尽きます。どれだけ素晴らしい戦略を描いても、人が動かないとプランは実現できません。利害調整/交渉も、自分が欲しいものも大切ですが、相手にとっての意義を自分ごとで考えて相手が守りたいものを想像できないとまとまりません。

コミュニケーションは双方向なので、一方的に伝えたいことを伝えていても伝わらず、相手に関心をもって聞いてもらうように努めないといけません。業務がなんであれ、法人向けビジネスであろうが、個人向けビジネスであろうが、ハードスキルは必要に応じて必要なタイミングで身に付けるとして、よく言われる通り、普遍的なソフトスキルを高める努力をすることはとても重要だと思います。私個人としては、そのためにも、イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)をもっと向上させなければならないと思っており、まだまだこれからも、未知の世界の探求や普段取り組まないことへの挑戦を楽しみたいと思います。