なぜ「CPIショック」が転換点となったか

2022年10月、米ドル高・円安は1990年以来約32年ぶりに150円を超えてきた。そして10月21日、151円を大きく上回ってきたところで、この局面では2度目となった日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入が行われると、米ドル/円は一時146円まで5円以上もの急落となった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2022年10~11月)
出所:マネックストレーダーFX

ただすぐに米ドル/円は150円近くまで反発。これに対して週明けの10月24日、日本の通貨当局は3度目の米ドル売り介入に出動。こうした中で、米ドル高・円安もようやく一息ついたようになったが、まだまだ米ドル安・円高に転換したという感じではなく、あくまで米ドル高・円安の「一休み」に過ぎないとの見方が一般的だったのではないか。

その後11月に入ると2日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれ、事前予想通り0.75%の利上げが決定されたが、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見での発言は、予想よりタカ派との受け止め方が広がった。さらにその2日後、11月4日に発表された米10月雇用統計で、注目されたNFP(非農業部門雇用者数)は予想の20万人増に対して26万人増と大きく上回る結果となった。

こういった中で、米ドル高・円安は「一休み」しているに過ぎず、いずれ151円(この間の米ドル高値)を更新、さらに広がる可能性が高いとの見方が優勢だったであろう。ただし、後から振り返ると、このようなFOMCやNFPに対しても米ドル高反応が限定的だったプライス・アクションが、米ドル高から米ドル安へ転換する前兆だったのかもしれない。

相場を大きく動かすことが常であったCPI発表が、膠着状態を解除した

10月21日の米ドル売り介入をきっかけに米ドル急落となった後、米ドル/円は145~150円での一進一退が2週間以上と比較的長く続いた。そんなレンジ相場をブレークするきっかけになったのは、11月10日の米10月CPI(消費者物価指数)発表だった。

米10月CPIは、前年同月比上昇率が8%といった事前予想に対し、7.7%と大きく下回る結果となった。この頃の、CPIに対する米ドル/円の反応は極めて大きく、結果を受けて一方向へ3円以上動くのが基本だった。

この日のCPI発表は予想を大きく下回ったことに加え、それまで2週間以上も続いたレンジを下放れた影響も重なったためか、146円台から一気に140円割れ寸前へ約6円もの米ドル暴落、「CPIショック」となった。結果的に見ると、米ドル高・円安から米ドル安・円高への基調転換を決定付けたのは、やはりこの「CPIショック」だったのではないか。米ドル/円はこの後から、金利差で説明できない急落に向かった(図表2参照)。(続く)

【図表2】米ドル/円と日米2年債利回り差(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成