責任投資に関わる投資家が集結、日本企業の資金振り向けなどに注目集まる

10月の第1週、東京都内で国連の責任投資原則(PRI)による年次会議が開催された。世界中のESG投資や責任投資に関わる公的機関をはじめ、機関投資家、年金基金、シンクタンク、NGOなどから多くの専門家が集い、ESG投資に関する話題が数多く議論された。新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い、参加者が現地に集う形での開催は数年ぶりとなったこともあり、熱気を帯びたイベントとなった。

イベント直前の9月26日、国際エネルギー機関(IEA)が公表した気候変動対策の報告書で、世界の気温上昇を抑えるために、再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍に拡大するよう提言された。そのことで、「公正な移行(気候変動や生物多様性などの環境問題の取り組みにあたり、全ステークホルダーにとって公正かつ平等な方法で持続可能な社会への移行を目指す概念)」は、年次会議の前後や合間に開催されたサイドイベント等でも、主要なトピックの1つとなった。

とりわけ、日本企業と日本の金融機関が脱炭素を可能にする技術にどのように資金を振り向けるのか。そして、企業や金融機関等の環境配慮の取組みに関しては、あたかも環境に配慮した活動をしているよう見せかけ、その実態を伴わない「グリーンウォッシュ」をどのように回避するのか、その2点が主な議論の焦点になった。

脱炭素を可能にする技術の登場で対話の活性化に期待

CA100+による「ネットゼロ企業ベンチマーク」にダイキン工業(6367)、ENEOSホールディングス(5020)など

「脱炭素」の推進にあたって、先進技術の適切な使用を推し進めることがカギとなる。特に取組みが注目されるのは、温室効果ガス排出量の効果的な削減推進を目指す機関投資家らによるイニシアティブ、Climate Action 100+ (CA100+)によって「ネットゼロ企業ベンチマーク」に選定された企業だという。CA100+が投資家のポートフォリオに最大の気候関連リスクをもたらす企業またはネットゼロ経済への移行を推進する大きな機会がある企業として選定した。

対象企業は2022年3月時点で全166 社(アジア市場に本拠点を置くのは、そのうち33社)で、日本企業からはダイキン工業(6367)、ENEOSホールディングス(5020)、日立製作所(6501)、本田技研工業(7267)、日本製鉄(5401)、日産自動車(7201)、パナソニックホールディングス(6752)、スズキ(7269)、東レ(3402)、トヨタ自動車(7203)が選ばれた。

電炉への移行を想定し、製鉄業界にも期待の目

そして、CA100+のフェーズ2には、新たに2社の製鉄会社が追加された。これは製鉄業界が投資家による働きかけの対象としても関心を集めていることを示しているとの見方がある。これまでに使用された高炉の段階的な廃止に伴い、従来の製鉄方法から電気炉(電気を使用する炉で鉄スクラップを溶解する製鉄方法)へのシフトが必要となる可能性が高まっており、ここから再生可能エネルギーで発電される電力への需要が大幅に増加すれば、温室効果ガスの排出量削減が進むというわけだ。

気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC)のスチュワードシップ・企業エンゲージメントディレクターであるヴァレリー・クワン氏は筆者に対し「アジア市場は、脱炭素の取り組みを加速させるための適切な技術的道筋を特定する上で、異なる課題と機会を持つユニークな立場にあります。日本の投資家は、技術革新が起きていることを念頭に置いて、鉄鋼バリューチェーン全体に関わる企業と対話することを推奨します」と語っている。

「グリーンウォッシュ」の回避方法の議論も進む

イベント開催期間、意図せぬ「グリーンウォッシュ」が起きることを恐れる関係者の声も聞かれた。環境問題に取り組む法律家のNGO、クライアントアースらが発表した報告書によると、グリーンウォッシュには以下のおもな4つの類型があるという。

①ブランドグリーンウォッシュ :プロフィールや活動、目標など組織全体のグリーンウォッシュのこと
➁ 商品グリーンウォッシュ :商品が部分的にしかグリーンでない場合やコンセプトとその戦略の実施に乖離がある場合にも商品をグリーンと表示し、または曖昧なグリーンクレーム=環境配慮への主張を伴って誤表を示し売り出すこと
③ グリーンウォッシュ資産へのファイナンス :金融機関が貸付、エクイティ投資、債権保有等の方法により、グリーンファイナンスまたはグリーン目的のためのファイナンスをグリーンウォッシュされた資産に提供すること
④財務報告グリーンウォッシュ:金融機関による開示制度の下での虚偽記載や不記載があること、または金融機関が事業、融資、投資にかかる環境リスクに関して適切な財務開示を行わず、当該リスクへのエクスポージャーを過小に評価すること

クライアントアースらによると、日本企業に関連したグリーンウォッシュ行為が疑われた事例として、東京電力ホールディングス・中部電力系で発電事業者として知られるJERAが、同社が発行した米ドル建て社債のリスク表示に関して、シンガポール証券取引所への通報を受けたことは上記の③に分類されるという。

グリーンウォッシュは会社の故意の有無に関係なく行われる事とされることから、日本の企業や金融機関、投資家に対して専門家から注意が喚起された。