中東で地政学リスクが発生しています。パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスはイスラエルに対してロケット弾を発射しガザに多くの人質を連れ去ったとされ、イスラエル首相は「戦争状態」とし、報復攻撃を行っている模様で数千人単位の被害者がでていることが報道されています。

長年の対立の構図であり、過去何度も衝突状態に入っておりますが、振り返ってみると市場への影響は短期的で小さなものに留まってきました。同地区問題に限らず地政学イベントを見直すと、概してその影響は短期的かつ調整幅も限定的です。(あくまで金融市場への影響のお話です)

株式等リスク資産は景気の良し悪しが重要であり、多くの紛争は世界的な景気後退をもたらすものではなかったのでしょう。むしろ調整は買い場と捉えられやすいです。資源価格への影響がある場合にもそれが景気や政策にどのように影響するのかを考える必要があり、例えば1970年代の石油ショックや1990年湾岸戦争は景気後退に重なっています。ただし金融引き締め局面にあるなかでの出来事であり、戦争が景気後退を導いたのではなく、要因の一つと言うところでしょう。本件に限らず資産運用で注目すべきはいつも、経済はどうか、です。

一方で世界では前例のない出来事が常に起きています。過去の出来事を理解することは大切ながら全く同じ状況ということはあり得ません。過去の出来事を今後のシナリオの基準としがちですが、そもそもこれら過去の出来事も発生当時は前例が無いわけで、その点で過去の出来事は将来の指針では無く、未来にはより悪いことが起こり得ると肝に銘じるべき教訓でしょう。これは悪い話でもイノベーションのような革新的な良い話にも言えることです。

今回のイベントについて過去を参考にすれば、短期的な振れを伴うものの早晩落ち着くと期待し冷静に状況を見るべきでしょう。特に中長期運用を意識すれば過剰反応は禁物です。一方で過去と異なる現況を考えると、アメリカは空母派遣に動いておりますが、ウクライナ支援予算がまとまらないなかでの2正面作戦で政治・世論はどうなるのか、イスラエルとサウジアラビアの関係正常化へ向けた動きは、ハマス寄りのイランの動きは、など今だからこその関係図の中で、民族や宗教を跨いだ各国の動きが注目されます。

世界的にインフレ鎮静化が待たれるなかで、問題の拡大が資源価格へ影響すればソフトランディングへのハードルとなるでしょうし、金利上昇・ドル高反応も想定されます。事態の深刻さによってはリスクオフの金利低下を促す局面もあるでしょうし有事の金が囃されるかもしれません。間が悪いタイミングでの出来事のようでいて、実は世界情勢の変化がこのような組み合わせを生み出している可能性も考えられます。ノイズの多い複雑な状況下でこそ経済の現状と先行きを注意深く見守る必要があります。

短期的な紛争であったとしても、リーダー不在のGゼロと呼ばれる過去にない、対立軸の拡大しやすい世界情勢において、紛争はこれからも頻発するかも知れません。国連によると世界の紛争は犠牲者こそ減少しているものの、増加・長期化傾向にあるようです。

不確実な未来に向けて資産クラスを分散して運用することは、今後起こり得るシナリオに対するリスク分散にもなります。債券など株式以外の投資に加え、原油等商品市況関連・金保有の他にもヘッジとしての米国軍需銘柄など異なる動きをする資産クラスも日頃から目を向ける必要があります。