成長著しいインド、2027年には世界第3位の経済大国になる見通し

今回のテーマは「インド関連株」です。混迷する世界経済の中にあって、順調に拡大するインド経済にフォーカスを当て、関連企業を探してみようという点から迫ります。

「グローバルサウス」という表現を、最近よく耳にします。これはアジア、アフリカ、中南米などの新興国、途上国を総称しています。

必ずしも、その国・地域が地理的に南半球(サウス)にある必要はありません。先行して工業化した先進国が北半球(ノース)に集まっているため、それとの比較で地球の南側に位置する国・地域をそのように呼んでいます。

なお、明確な定義はありませんが「グローバルサウス」とは、一般的にインド、インドネシア、ブラジル、ナイジェリア、南アフリカなどを指すものとされています。

「グローバルサウス」が注目されるようになった背景には、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻があります。また、トランプ元大統領の時から続いている米国と中国の覇権争いも念頭にあるでしょう。この辺からどちらの陣営からも距離を置く、第3極の国・地域がクローズアップされるようになりました。

中でも存在感を示しているのがインドです。国連の推計によれば、2023年4月末にインドは中国を抜いて世界一の人口大国となったとされています。

また、IMF(国際通貨基金)の推計によれば、2021年の時点でインドはすでに名目GDPが、かつての宗主国・英国を抜いて世界5位に躍進しています。2022年1年間だけでも+7.2%もの成長を遂げました。同じ時期に日本は+1.2%、米国は+2.1%、中国は+3.0%、ユーロ圏は+3.5%の成長にとどまっています。

このままの経済成長のペースを維持すると、インドは2027年には日本を抜いて、米国、中国に続く世界第3位の経済大国に浮上する見通しとなっています。

好調続くインド経済、物価上昇には注意が必要

2023年に入ってからもインド経済は好調を持続しています。2023年4―6月期の実質GDPは+7.8%の伸び率に達しました。日本も同じ時期に+6.0%(年率換算)と堅調さを示しましたが、インドはそれ以上の成長を遂げています。

金融・不動産は+12.2%、貿易・ホテル・通信関連は+9.2%と、いずれもサービス業や個人消費がしっかりしています。製造業も+4.7%とかなり強い伸びとなりました。

自動車業界の推計によれば、4―6月のインドの乗用車の販売台数は100万台の大台に迫り、この期間としては過去最高の記録となった模様です。続く7月の販売台数も35万台に達し、7月としての最高記録を塗り替えています。

気になるのは物価です。先進国と同様にインドでも、物価上昇が庶民の暮らしを圧迫しないかと心配されています。4―6月のインドの消費者物価は+4%台の上昇にとどまりました。それが7月は速報値で+7.4%にまで跳ね上がりました。

インド中央銀行は消費者物価指数(CPI)の目標値を+4%、許容しうる上限を+6%としています。世界中の他の国・地域と同様に、インドも経済動向と物価上昇の双方に目配りすることが強いられています。

言語、宗教など複雑な多様性を抱えるインド

人口ボーナス期のインドは、このように経済面では好調を維持していますが、これまでは現地でビジネスを行うにはあまりに困難が伴うエリア、と見られていました。その理由の1つが、インドが歴史的に有している極めて複雑な多様性にあります。

インドは最北端から最南端まで3,200キロメートルの距離があり、国土は日本の8倍もの広さがあります。28の州と7つの連邦直轄領から成り立ちます。

人口は14億人に達し、使われている言語は500ほどに分かれます。公用語だけで22の言語に広がり、世界でも有数の言語的な多様性を持つ国の1つとされています。

日常生活で使われるインドの紙幣には15の言語で金額が記され、どの言語も数千年にのぼる文化と歴史を持っています。隣の州に行くことは外国に行くことと同じで、インドは1つの国というよりも、いくつもの国が集まった大陸と呼ぶのがふさわしいと言えそうです。

もう1つ、インドという国を形作っている大きな特徴が、多様な宗教にあります。古くからインドは「霊性と哲学の地」でもあり、ヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教、シーク教という、世界的にも有名な宗教の誕生の地でもあります。インドは人類の精神世界の発展に比類なき重要な役割を果たしてきました。

インドで最も大きな勢力を持つ宗教がヒンドゥー教です。世界有数の古代宗教の1つで、インド国民の8割強がヒンドゥー教徒に属します。他の宗教の分布としては、仏教が0.7%、ジャイナ教が0.5%、シーク教が2%、イスラム教が13.4%、キリスト教は2.5%とされています。

インドでビジネスを展開するにあたり理解しておきたいこと

インド国民が持つ多様性、宗教の重要性を理解することは、インドでビジネスを展開する上で非常に重要です。その1つの例が「マクドナルド」のハンバーガーです。

世界最大のハンバーガーチェーン店「マクドナルド」は、インドの店舗では通常のハンバーガーは置いていません。牛肉も豚肉も入っていない、「100%野菜だけのハンバーガー」を世界で唯一、インドの店舗だけで販売しています。

牛はヒンドゥー教徒にとって聖なる動物であり、イスラム教徒は豚肉を食べないためです。巨大な経済大国に成長したインドでは、他の先進国とは少し異なった事業の進め方が求められます。

新型コロナウイルスのパンデミックとウクライナ紛争を経験して、世界のサプライチェーンの再構築が求められています。これまでのように中国だけに製造拠点を置いておくことが難しくなってきました。

デジタル・トランスフォーメーションも急速に進んでいます。地理的にも西洋と東洋の中間に位置し、英語が通じ労働力の質が高く、IT技術にも長けている、インドの地政学的な立ち位置はますます高まっていくものとみられます。限りない可能性を秘めた「グローバルサウス」の代表格、インドとのビジネスを上手に展開することが重要です。

今後、インドでの活躍が期待される日本企業の関連銘柄

ここで、インドで今後の活躍が期待される日本企業の関連銘柄を紹介します。

スズキ(7269)

軽自動車ではダイハツディーゼル(6023)と並んで国内2強を形成。2輪車でも世界的メーカーとして知られる。1982年にインドの国営企業「マルチ・ウドヨグ社」と四輪車の合弁事業で提携。1983年には早くも生産を開始し、現在でもインドにおける乗用車シェア4割を握る。現在、インド国内に「マルチ・スズキ・インディア」、「スズキ・モーター・グジャラート」、「スズキ・モーターサイクル・インディア」の3社を有する。新型コロナウイルスはインドにも大きな感染被害をもたらしたが、その際に「マルチ・スズキ・インディア」は現地のザイダス病院と提携して、グジャラート州シタプールに総合病院を設立。2021年4月に開業して24時間365日、緊急外来の対応にあたった。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月22日時点)

川崎重工業(7012)

三菱重工業(7011)、IHI(7013)と並ぶ日本の3大重機メーカー。2輪車では世界的な知名度を持つ。ガスタービン、鉄道車両、旅客機、潜水艦にも強い。これまでにインド石油会社「ONGC社」向けのガスタービン圧縮機をはじめ、エンジニアリングのSW社向けのグリーンガスエンジン発電機など受注実績が多い。急速な工業化で電力不足に悩むインドの産業インフラを根っこの部分で支えている。2017年にはインド最大手の重電メーカー、バーラト・ヘビー・エレクトリカルズ社(BHEL)と鉄道車両での協業で合意。今後、需要が拡大すると見られる大都市間の都市交通網整に向けて布石を打っている。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月22日時点)

日本製鉄(5401)

製鉄メーカーとして中国の宝鋼集団、ルクセンブルグのアルセロール社とオランダのミッタルスチールが経営統合したアルセロール・ミタル[MT]とともに世界3極を形成。中でも高級鋼板では圧倒的なシェアを有する。アルセロール・ミタルとはインドで合弁事業を行っており、2022年2月にはインドで高炉2基を新たに建設すると発表。すでに高炉1基が稼働しており、総投資額は1兆円を越えるとみられる。2025年以降の稼働を目指し、2030年にはインドでの生産能力を年間3000万トンまで引き上げる計画。これは現在の生産能力の3倍を超える水準であり、インドの工業化に大きくコミットしていることが伺える。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月22日時点)

クボタ(6326)

コンバイン、トラクターなど農業機械で世界有数。建設機械、鋳鉄管、環境プラントにも定評がある。2022年4月にインドで第4位の農業機械メーカー「エスコーツ」を買収。この買収にクボタとしては過去最大となる1400億円を投じた。インドは農業大国でもあり、トラクター市場は世界最大。インドを制することは世界を制することに繋がる。インド国内でのシェアが11%の「エスコーツ」の買収によって、2030年には両社合わせて25%シェアを狙う計画。トラクター以外の事業も含めてインドでの売上高は1300億円を越えている。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月22日時点)

参考文献:
『インドビジネスのルール』(2012年、中経出版)
『インドを知るための50章』(2003年、明石書店)