7月をピークに英ポンドは下落基調へ

2023年に入ってから最も弱い先進国通貨は日本円ですが、最も強かった通貨は英ポンドです。2023年1月~9月10日までの先進国通貨の通貨インデックスのパフォーマンスは英ポンドと米ドル、カナダドルのみがプラスで、ユーロやオセアニア通貨は年初来ではマイナスに沈んでいます(図表)。

【図表】先進国通貨の通貨インデックス
出所:TradingView

ただ、英ポンドの相対的な強さを示す英ポンドインデックスは7月をピークに下落基調が続いており、足元で猛烈に上昇を強めている米ドルインデックスに抜かれてしまいそうです。このところ英ポンドが弱いのはなぜでしょうか。

2023年前半強かった英ポンドが弱くなった背景とは

英国中央銀行(BOE)は8月3日の会合で政策金利を0.25%引き上げて5.25%としました。

この時BOEは声明で「賃金の上昇はインフレ圧力がより持続的に残るリスクを示している」として、インフレ抑制スタンスを持続させることにコミットしていたのですが、わずか1ヶ月後の9月6日、ベイリーBOE総裁は財務委員会の公聴会で突如、政策金利をさらに引き上げる必要はなくなった可能性があるとの認識を示しました。インフレは年内に「著しく」低下する公算が大きく、金融政策は恐らく「サイクルの頂点付近」にあると考えられる、と発言したのです。

この夏まで英ポンドが最も強かった背景には、英国の高いインフレによって、英国の政策金利は先進国の中で最も高い水準へと引き上げられるというコンセンサスが醸成されていたことが挙げられます。

英国の消費者物価指数(CPI)は2022年10月には11%へ上昇。2023年3月まで10%を超えるインフレ率を維持し続けていました。

コアCPIも2023年5月に向けて7%台へと上昇基調が続き、市場はこのインフレを抑制するためにBOEが利上げを続けざるを得ないだろうと考えていました。7月時点の短期金融市場では8月に0.5ポイントの利上げが再び行われ、政策金利が2024年2月までに6.5%まで上昇することを完全に織り込んでいたのです。6.5%まで英政策金利が引き上げられれば1998年以来のことです。これを見込んで為替市場では英ポンド買いが膨らんでいました。

ところが、ベイリーBOE総裁の発言を受け、足元の短期金融市場では英国の追加利上げ観測が著しく後退しました。あと1回~1.5回程度の追加利上げがあるかどうかというところまで低下しています。

中央銀行の急激なスタンス変化による英ポンドの今後の上昇パフォーマンスは

そして今週、9月会合で欧州中央銀行(ECB)は0.25%の利上げを決定した一方で、利上げ打ち止めの可能性を示唆しました。これを受け、今回の利上げで打ち止めとなる観測が強まり、金利先物市場では9月21日のBOEの金融政策委員会(MPC)会合での0.25%利上げ確率が以前より低下しています。
ユーロは、利上げを決定したにもかかわらず大きく売り込まれました。英ポンドは仮に利上げがあったとしても、上昇できるかどうか不透明です。つい先日まで、最も高い金利水準へと引き上がられることを織り込んでいた英ポンドは、通貨先物市場での投機家らのポジションはネットロングになっています。

買いポジションの比率が大きく、まだこの急速な中央銀行のスタンス変化を織り込んでいないように見えますので、このポジションが解消される過程で、2023年の上昇パフォーマンス1位の座を米ドルに譲ることになりそうです。