モトリーフール米国本社、2023年8月29日 投稿記事より
主なポイント
・OpenAIが企業ユーザーをターゲットとし、人気のチャットボットChatGPTのエンタープライズ版をリリース
・新サービスは、無制限アクセス、高速処理、強固なデータセキュリティなど、企業のIT環境に特化した数多くの機能を提供
・ChatGPTエンタープライズは、マイクロソフト[MSFT]とその投資家にすぐに影響を及ぼすものではないが、成功すれば新たな収入源となり、マイクロソフトは長期的に恩恵を受ける可能性がある
OpenAIの新サービス「ChatGPTエンタープライズ」は、企業向けソフトウェアとして成功する可能性がある
OpenAIは本気です。人工知能(AI)研究のスペシャリストである同社は、2022年にChatGPTを発表し、2023年春には一段と強力なGPT-4を発表して注目を集めました。そして今度は、さらに強力で柔軟性のあるモデルを発表しました。新サービスのChatGPTエンタープライズは、消費者向けサービスではなく、生産性に焦点を当てた本格的な企業向けツールです。
ChatGPTエンタープライズの新機能と、アップグレードされたAIサービスが投資家にどのようなメリットをもたらすのか見てみましょう。
ChatGPTエンタープライズの新機能とは
ChatGPTエンタープライズは、月額20ドルで誰でも利用できるChatGPTプラスよりもいくつかの利点があります。エンタープライズ版には固定のサブスクリプション価格がなく、購入するにはOpenAIの営業部門に連絡し、自社の具体的なニーズに合わせて契約することになります。
新たな機能は以下の通りです。
・より強力なGPT-4モデルへの無制限アクセス。ChatGPTプラスの契約では、やり取りの回数は3時間で50回に制限されています。
・処理スピードの高速化。
・長めの入力が可能。
・チャットテンプレートは、ユーザーの組織内で共有可能。
・分析ツールを備えた中央管理コンソールが、顧客組織のChatGPTワークフローを管理。
・保存データを含め、エンドツーエンドの暗号化。
・OpenAIのAIアプリ構築・開発プラットフォームを利用できるクレジット。
・最大の目玉は、「企業データがAIシステムの学習に使用されない」こと。
今後、さらに多くの機能が追加される予定です。例えば、OpenAIはマーケティング、カスタマーサポート、データ分析といった特定の役割に対応したChatGPTの機能に取り組んでいます。また、将来のバージョンでは、ChatGPTの学習モデルを顧客企業の既存のITサービスに統合させることで、企業固有のデータを取り込んで分析できるようになる予定です。
予想されるビジネスインパクト
エンタープライズ版は、企業のIT環境での使用に極めて適しています。強化されたセキュリティ、交渉可能な価格設定、中央管理、処理スピードの速さなど、新たに挙げられる機能はどれも、マイクロソフト[MSFT]、IBM[IBM]、オラクル[ORCL]などの企業向け製品でお馴染みのものばかりです。
OpenAIは、ChatGPTエンタープライズの成功を確信しています。同社の分析によると、フォーチュン500企業のうち、80%超が既にChatGPTプラスのアクティブアカウントを持っています。まだ発表されていないサブスクリプションコストが問題であれば、中小企業向けに、機能を制限してコストを抑えた「ChatGPTビジネス」プランが近いうちに導入される見通しです。言い換えれば、多くのプレミアムクラスのChatGPT顧客を容易に獲得できるよう、万事狙い通りに進んでいるということです。高機能のサービスを既に利用しているプラス版の顧客を、企業向けサービスの契約に切り替えることは、それほど難しいことではないはずです。
長期的に見ればエンタープライズ版とビジネス版のサービスは、OpenAIにとって大きな収入源になるとみられます。
OpenAIの株式は買えないが…
OpenAIに直接投資することはできません。株式市場に上場していないためです。共同創業者のサム・アルトマン氏は、新規株式公開(IPO)をする予定はないと明言しています。
しかし、同社にはベンチャーキャピタルから資金調達してきた歴史があり、過去7年間で110億ドル超を調達しています。調達資金のほとんどはマイクロソフトからのもので、2019年の10億ドルを皮切りに、2023年1月には100億ドルという大規模投資が話題になりました。最新のプライベート・エクイティ投資ラウンドに基づくと、OpenAIは足元の公開市場で、少なくとも290億ドルの価値があるとみられます。
アルトマン氏が考えを固持し、未公開企業のままでいるかどうかは分かりません。いずれにせよ、大手企業でありながらずっと上場しない企業は、OpenAIだけではありません。米フロリダ州を本拠とする大手スーパーマーケットチェーンのパブリックスは、2022年の売上高が480億ドルでした。石油精製大手のコーク・インダストリーズの2022年売上高は1250億ドルでした。
こうした業界大手の企業と比べると、OpenAIははるかに小規模であり、米国の未公開企業大手250社にも入りません。つまり、年間売上高は20億ドルにも達していないと思われます。
オープンAIの将来性に投資する方法はある
OpenAIの株式を保有するのに最も近い方法は、同社の約38%を所有するマイクロソフトの株式を買うことでしょう。
マイクロソフトの年間売上高は2120億ドルという巨額であるため、ChatGPTエンタープライズが同社のバランスシートにすぐに影響を及ぼすことはないと思われます。しかし、この新たな収入源は、将来的に収益性の高いベンチャー事業へと発展し、OpenAIは利益を生む自立した大手ハイテク企業へと進化する可能性があります。大局的に見ると、もしそうなれば、マイクロソフトの財務状況にとって重要な意味を持つようになるかもしれません。
事態がさらに進展し、マイクロソフトが子会社に近いオープンAIから大きな利益を得るようになったとしたら、成功を収めたAIのエキスパート2社に同時に投資していることになります。ご存じの通り、マイクロソフトは既に、検索エンジンのBingやOffice365といった従来製品の多くに、ChatGPTの機能を組み込んでいます。
つまり、OpenAIがChatGPTエンタープライズによって飛躍的に発展すると考えるのであれば、マイクロソフト株を検討するべきでしょう。OpenAIに直接投資するこれ以上の方法は、すぐには見つからないでしょうし、マイクロソフトはOpenAIの成功から確実に恩恵を受けるはずです。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Anders BylundはIBMの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はマイクロソフト、オラクルの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社はIBMの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。