先週の振り返り=米ドルと米金利に微妙なかい離

先週は、8月25日(金)のジャクソンホール会議におけるパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言が注目される中で、24日(木)までは米金利、米ドル/円とも下落が目立つ展開となりました。米ドル/円は一時144円半ばまで下落しましたが、注目イベントを前にポジション調整が入った影響が大きかったのではないでしょうか。ただ、パウエル発言後は米ドル高が再開、僅かながらこの間の米ドル高値を更新しました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2023年6月~)
出所:マネックストレーダーFX

 このような先週の展開を細かく見ると、米金利が低下し、金利差米ドル優位が縮小した局面で米ドルは下げ渋り、逆に米金利が上昇し金利差米ドル優位が拡大する局面ではそれ以上に米ドルが大きく上昇するといった具合に、やや米金利と米ドル/円の動きがかい離した印象がありました(図表2参照)。この背景として以下のようなことを考えてみました。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2023年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

「上り過ぎ」の反動での低下要因への過敏な反応

 1つは、米金利が上昇要因への反応が鈍く、一方で低下要因に過敏に反応するということの影響です。定評のあるGDP予測モデルのアトランタ連銀、GDPナウは8月24日、7~9月期のGDP成長率の予想値をそれまでの5.8%から5.9%へ上方修正しました(図表3参照)。これを参考にすると、足元の米景気は前期比年率で5%を大きく上回るといった、少し前の中国のような高成長になっている可能性があるわけですが、米10年債利回りは4.3%以上に上昇したものの、その後は一時4.1%台まで比較的大幅な低下となりました。

【図表3】米GDP四半期成長率・前期比年率(2022年3月~)
出所:マネックス証券「経済指標カレンダー」より作成

米10年債利回りの90日MA(移動平均線)かい離率はプラス20%以上に拡大すると、短期的な「上がり過ぎ」懸念が強まりますが、足元ではまだそれまでには至っていません(図表4参照)。ただ5年MAかい離率は一時100%まで拡大するなど、空前の「上がり過ぎ」が懸念される状況となりました(図表5参照)。そして、米10年債のポジションは、一部のデータを見ると空前の「売られ過ぎ」の可能性があります(図表6参照)。

【図表4】米10年債利回りの90日MAかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表5】米10年債利回りの5年MAかい離率(1980年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表6】CFTC統計の投機筋の米10年債ポジション(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上から考えられるのは、米10年債利回りは、短期的には「上がり過ぎ」を拡大する余地が残っているようですが、中長期的な「上がり過ぎ」や10年債の「売られ過ぎ」の可能性からすると、さらなる利回り上昇余地は限られ、「行き過ぎ」の反動で利回り低下に過敏に反応しやすくなっているということです。

要するに、米金利は「上がりにくい一方で下がりやすくなっている」可能性があるのではないでしょうか。なお、注目された8月25日のパウエル発言への一般的な評価は、追加利上げの可能性はあるものの、次回9月FOMC(米連邦公開市場委員会)では利上げ見送りの可能性が高いというものでした。上述のように足元の米景気が5%以上の成長と過熱を懸念される状況の可能性がある中でも9月利上げ見送りとの見方に傾くのは、「米金利が上がりにくい一方で下がりやすくなっている」という影響もあるのではないでしょうか。

今週の注目点=「米金利上昇=米ドル高」行き詰まりの可能性

先週の動きを細かく見ると、米ドル/円は米金利低下ほど下がらず、米金利上昇以上に上がった印象がありましたが、それはこれまで見てきた米金利固有の事情とは別の米ドル/円の事情の影響もあったかもしれません。

この数ヶ月の米ドル/円は上海総合指数など中国株との間に「株安=円安」といった一定の相関関係があるように見えます(図表7参照)。その意味では、米金利上昇の米ドル高要因とは別に、中国株の下落に伴う円安という構図もあり、それが先週も米金利上昇以上に米ドル高・円安の反応が大きくなった一因の可能性はあるかもしれません。

【図表7】米ドル/円と上海総合指数(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

 ただこのような円にも、徐々に「売られ過ぎ」懸念再燃の兆しがあります。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、経験的には売り越しが10万枚を超えてくると「売られ過ぎ」懸念が強まりますが、先週は9.5万枚の売り越しとなりました(図表8参照)。これを見ると、円売りの反応が今後限られる可能性もあるのではないでしょうか。

【図表8】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

「上りにくく下がりにくい」米金利から米ドル高・円安は限定的か

今週は、8月30日(水)に米4~6月期GDP改定値の発表、そして31日(木)はFRBがインフレ指標として注目するPCEコアデフレーターの発表、さらに9月1日(金)は米8月雇用統計の発表などが予定されています。これらの前回結果と今回の予想値は以下の通りです。

8月30日:米4~6月期GDP(前期比年率)=速報値2.4%、改定値予想2.4%
8月31日:米7月PCEコアデフレーター=前回4.1%、予想4.2%
9月1日:米8月NFP(非農業部門雇用者数)=前回18万人増、予想16万人増
同失業率=前回3.5%、予想3.6%

これまで見てきたように、米金利が「上がりにくい一方で下がりやすくなっている」可能性があるなら、先週のジャクソンホール会議という注目イベントも通過したことで、今週の米景気指標発表が大きく予想より強い結果とならない限り、米金利上昇は限られるのではないでしょうか。そうであれば、すでに日米金利差から見るとやや米ドル「上がり過ぎ」の可能性があり、円も「売られ過ぎ」気味になってきたことから、目先的な米ドル高・円安は限られそうです。

以上を踏まえると、今週の米ドル/円の予想レンジは、143~148円中心に米ドル高・円安が行き詰まるという展開を想定したいと思います。