コロナ後、世界的に期待が高まる旅行消費
世界中の旅行業界を凍りつかせた新型コロナウイルスが下火になり、リベンジを含む旅行消費の拡大への期待が高まっています。欧米では一足先に行動制限が緩和されましたが、アジアの一部の国では4年ぶりに行動制限のない夏休みになっています。
代表格は中国です。コロナ前は爆買いが象徴するような行動で世界中の観光地にお金を落としていただけに、中国の旅行需要の回復が期待されます。
ただ、中国はコロナ禍の傷跡が深く、景気回復の足取りも鈍いようです。さらに米ドル高・人民元安を背景に海外旅行のハードルは高く、コロナ前の水準に戻るにはなお時間がかかりそうです。とはいえ、北半球は現在、夏の真っ盛りです。今回は米国を中心に世界的に事業を展開する旅行セクターの銘柄をご紹介します。
需要拡大で今後の動向が注目される旅行関連銘柄5選
ブッキング・ホールディングス[BKNG]、盛夏の動向に注目
ブッキング・ホールディングスは宿泊や航空券などのオンライン予約サービスを手掛けています。主力のブッキング・ドットコム、割引価格で宿泊予約や航空券を提供するプライスライン、アジア太平洋を中心に展開するアゴダが総合的なオンライン旅行予約のプラットフォームです。
また、旅行サイトを一括して検索し、航空券やホテル、レンタカーの料金を比較できるプラットフォーム、カヤックも運営。レンタカーをオンラインで検索して比較し、予約まで可能なレンタルカーズ・ドットコムに加え、レストラン予約のオープンテーブルというプラットフォームも展開しています。
主力のブッキング・ドットコムは世界有数のオンライン宿泊予約プラットフォームです。取り扱う宿泊施設は約220ヶ国の約270万件で、このうちホテルが40万件です。残りは自宅やアパートなどの民泊となります。
プライスラインはディスカウント価格で宿泊や航空券を予約できるサービスです。ホテルや航空会社は、埋まっていない客室や座席を格安価格で提示するときに使うことができます。客室や座席を埋めたいホテルや航空会社と価格を重視する消費者の思惑を合致させるプラットフォームといえそうです。
お笑いコンビ、バナナマンのコマーシャルをTVやSNSでよく見かけるアゴダは、シンガポールに本拠を置いています。アジア太平洋地域で総合的なオンライン旅行予約のプラットフォームを展開しており、日本市場の開拓に力を入れている印象です。
ブッキング・ホールディングスの売上高はオンライン旅行予約の普及とともに右肩上がりに増えていました。2019年12月期まで16年連続で増収でしたが、パンデミックを受け、2020年12月期には売上高が前年比54.9%減の67億9600万ドル、純利益が98.8%減の5900万ドルに激減しました。
業績は2021年に反動で増収増益となり、2022年12月期には売上高が前年比56.0%増の170億9000万ドルに達し、2019年の実績を超えました。2023年1-3月期は売上高が前年同期比40.2%増の37億7800万ドル、純利益が2億6600万ドル(前年同期は7億ドルの純損失)と完全に成長軌道に戻っています。
ブッキング・ホールディングスは北半球の夏に業績が伸びる典型的なサマーストックです。盛夏のこの時期に動向を注目したい銘柄と言えそうです。
エアビーアンドビー[ABNB]、消費者の節約志向もチャンス
民泊仲介サイトを運営するエアビーアンドビーの旧社名はエアーベッド&ブレックファーストです。サンフランシスコでルームシェアをしていたブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏は家賃の支払いに窮し、苦肉の策としてアパートの空き部屋にエアーベッドを膨らませて有料で旅行者を泊めました。この経験が起業のアイデアとなり、社名にも反映されたと言われています。
宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)と空き部屋を貸したい人(ホスト)を繋ぐプラットフォーム「エアビーアンドビー」は2008年に誕生しました。共同創業者のチェスキー最高経営責任者(CEO)とゲビア取締役がホスト第1号とされています。
それから15年。ホストの数は世界220ヶ国・地域で400万人を超え、ホストが提供する宿泊場所・体験の数は10万以上の都市・町で660万件を上回っています。
エアビーアンドビーは2020年12月には新型コロナウイルスが世界中の旅行業界を凍りつかせる中でナスダック市場への上場を敢行しました。鳴り物入りの新規上場は市場の注目を集め、初値は公開価格(68ドル)の2倍以上となる146ドルでした。株価は2021年に200ドルを突破した後に急落し、100ドルを大きく割り込みましたが、2023年に入って回復基調が続いています。
業績は2022年12月期決算の売上高が前年比40.2%増の83億9900万ドル、純利益が18億9300万ドル(前年は3億5200万ドルの純損失)でした。通期決算での黒字計上は初めてです。
また、2023年1-3月期は売上高が前年同期比20.5%増の18億1800万ドル、純利益が1億1700万ドル(前年同期は1900万ドルの純損失)です。旅行業界にとって1-3月は閑散期で、エアビーアンドビーが1-3月期に黒字を計上するのもやはり初めてです。
エアビーアンドビーはこれで四半期連続の黒字となり、S&P500の構成銘柄になる要件をまたひとつクリアしました。市場ではS&P500に近く組み込まれるとの観測も強く、注目度が高まりそうです。
エアビーアンドビーは好況期に旅行需要が盛り上がる恩恵をもちろん受けますが、不況期の消費者の節約志向もビジネスチャンスにします。1泊数十万円もするようなラグジュアリーな邸宅から数千円の質素なアパートの一室まで、多様なホストと宿泊場所を提供できる点が強みです。
ロイヤル・カリビアン・クルーズ[RCL]、クルーズ船の大型記録を更新へ
ロイヤル・カリビアン・クルーズは世界最大級のクルーズ船の運航会社です。大型客船に乗ってカリブ海などを周遊する旅は特に中高年の米国人にとってレジャーの王道となっています。新型コロナウイルスの流行初期段階でやり玉に挙がり、大打撃を受けましたが、客足は戻っているようです。
同社は「ロイヤル・カリビアン・インターナショナル」「セレブリティ・クルーズ」「シルバーシー・クルーズ」の3つのブランドを傘下に持ち、事業を展開しています。2022年末時点で所有する船舶は52隻。ブランド別の内訳は各々26隻、15隻、11隻です。
この他、ドイツのTUI クルーズとハパック・ロイドに50%ずつ出資しています。TUI クルーズはクルーズ船7隻、ハパック・ロイドは小型の豪華客船2隻と探検船3隻を運航しています。
ロイヤル・カリビアン・クルーズの特徴といえば大型船です。新しいクルーズ船を就航させ、それまで自社が持っていた「世界最大」の記録を次々に塗り替えています。
現在の世界最大のクルーズ船は2022年3月に就航した「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」で、総トン数は約23万トンです。ただ、世界最大の称号を受ける期間は短く、2024年1月には25万8,000トンの「アイコン・オブ・ザ・シーズ」が就航します。ともに「ロイヤル・カリビアン・インターナショナル」ブランドのクルーズ船です。
「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」のベッド数は約5,700で、船内は18階建ての構造です。大型マンションと遊園地を船の上にすっぽり乗せた感じでしょうか。
クルーズ船の大型化は、2020年に90歳で死去した共同創業者、アルネ・ウィルヘルムセン氏が主導しました。約30年間にわたり取締役を務めた同氏はスケールメリットを追求し、幅広い層にクルーズ旅行の楽しみを提供したといえます。
業績はリーマンショック後の2010年12月期から10年連続で増収となり、2019年12月期には売上高が109億5100万ドルと100億ドルの大台に乗りましたが、新型コロナで一気に暗転します。
2020年12月期には売上高が前年比79.8%減の22億900万ドル、2021年12月期は30.6%減の15億3200万ドルに落ち込み、純損失は2年連続で50億ドルを上回ります。ただ、2022年12月期には売上高が前年の5.8倍に当たる88億4100万ドルに急増し、赤字も21億5600万ドルに縮小しました。
2023年1-3月期は売上高が前年同期の2.7倍の28億8500万ドルに達し、2019年1-3月期の実績を大きく上回りました。2023年4-6月期には、四半期ベースの売上高が過去最高を更新しています。ピークの7-9月期の業績にも期待できそうです。
マリオット・インターナショナル[MAR]、多様なホテルブランドを展開
マリオット・インターナショナルは世界最大級のホテルグループです。多様なブランドを持ち、ホテルの運営をはじめ、フランチャイズやライセンスの供与などを手掛けています。
ホテルのブランドはラグジュアリー、プレミアム、セレクトに分類されています。ラグジュアリーにはJWマリオット、リッツカールトン、Wホテル、セントレジス、エディション、ブルガリなど錚々たる名前が並びます。
プレミアムはマリオット・ホテル、シェラトン、ウェスティン、ルネッサンス、ルメリディアンなどで、ラグジュアリーには劣るかもしれませんが、間違いなく高級ホテルです。セレクトはコートヤードやレシデンス・イン、フェアフィールドなどを展開しています。
マリオット・インターナショナルが自前で不動産を所有または賃借しているホテル物件は2022年末時点で2,053件、客室数は合わせて57万6,243室に上ります。フランチャイズやライセンスを供与している物件は6,122件、客室数は93万7,683室です。
ブランドのフランチャイズやライセンスの供与では、マリオット・インターナショナルとホテルのオーナー(不動産所有者など供与を受ける側)が契約を結ぶ必要があります。通常の契約では申請時にオーナー側から一時金を受け取り、その後は宿泊代金の4~7%、飲食代金の2~3%をロイヤルティーとして継続的に受け取ります。
また、ホテルに併設する住宅にもブランドのライセンスを供与しています。住宅は2022年末時点で113件、1万1,481戸に上っています。
業績はやはりコロナの影響で2020年12月期に売上高が半減し、最終損益で赤字に転落しました。ただ、2021年12月期には売上高がコロナ前の2019年12月期の7割弱にまで戻り、黒字に転換。2022年12月期には売上高が2019年の水準に戻り、過去最高益を更新しています。
デルタ航空[DAL]、フライト数は1日4,000便
世界最大級が続いていますが、デルタ航空も航空業界ではそうしたポジションの会社です。約130ヶ国・地域の800以上の都市に就航しています。2022年末時点で1,250機の航空機を運航し、1日当たりのフライト数は4,000便を超えています。
国内線のネットワークではアトランタやミネアポリス、デトロイトなどにハブ空港を置き、国際線ではボストンやロサンゼルス、ニューヨーク、シアトルなど海岸に近い都市に拠点を置いています。海外ではアムステルダム、ロンドン、パリ、メキシコシティ、ソウルなどにハブ空港を持っています。
航空アライアンスのスカイチームの創立メンバーで、アエロメヒコ航空やエールフランス、KLMオランダ航空、大韓航空、中国東方航空、ヴァージン・アトランティック航空などと提携しています。
業績動向は旅行業界全体が似通っています。やはり2020年12月期に売上高が前年の3分の1近くにまで激減し、純損失は123億8500万ドルに膨らみました。2021年12月期に売上高をかなり戻し、2022年12月期には売上高が前年比69.2%増の505億8200万ドルとなり、初めて500億ドルを突破しています。