モトリーフール米国本社、2023年7月30日 投稿記事より

主なポイント

・マイクロソフトが2023年6月期の第4四半期および通期決算を発表
・売上高は伸び悩んだが、AIの取り組みが大きく前進
・AI関連の製品ポートフォリオ全体で顧客を引き付け続け、業界リーダーとしての地位を固めつつある

時価総額世界第2位のマイクロソフト[MSFT]にとって、今や中核は人工知能(AI)

マイクロソフトは1975年に設立されて以来、ハイテク業界のトップに君臨し続けています。時価総額は2兆5,000億ドルに達し、ライバルのアップル[AAPL]に次ぐ世界第2位の企業です。

これほどの規模にもかかわらず、マイクロソフトは機敏な動きを見せ続けています。同社は長年にわたり、ソフトウェア、ゲーム、クラウドコンピューティングの分野で圧倒的な強さを誇ってきました。そして今度は、人工知能(AI)の分野で主導的な地位を獲得しています。AIは今後10年間、そしてその先も、同社史上最大のビジネスチャンスとなる可能性を秘めています。

先日発表した2023年6月期の第4四半期および通期決算では、厳しい経済環境を受けて成長は鈍化しましたが、世界中の企業にエキサイティングなAIツールを提供しているクラウド部門では明るい話題もありました。数年後に振り返った時、マイクロソフト株を買っておけばよかったと後悔するかもしれません。

AIがすべて

マイクロソフトは2019年に、AIスタートアップ企業のオープンAIに10億ドルを投資しました。今では誰もが知るオンラインチャットボットであるChatGPTを開発した企業です。2022年に、ChatGPTが複雑な質問に答えたり、コンピューターコードを書いたりしてみせて世界中を魅了すると、マイクロソフトはさらに多額の追加投資をし、オープンAIへの投資は総額130億ドルに上ります。

それ以来、マイクロソフトは、自社の製品ポートフォリオにオープンAIの技術を統合することに注力しています。今では、ChatGPTは検索エンジンのBingに搭載され、インターネットブラウザのEdgeからもアクセスできます。どちらも、圧倒的なシェアを誇る検索エンジンのGoogleとウェブブラウザのChromeを持つライバルのアルファベット[GOOGL]から、市場シェアを奪うことが狙いです。

マイクロソフトは第4四半期の決算発表の中で、2023年初めにBingにChatGPTを統合して以降、ユーザーがBing上で10億回を超えるチャットを実行し、7億5000万もの画像を作成したことを明らかにしました。この大半は個人的な利用ですが、マイクロソフトとしては人々の働き方にも関わりたいと考えています。同社のワークトレンド指数によると、労働者の70%が自分の仕事をできるだけAIに任せたいと考えているという結果でした。現在、先日リリースされたBing Chat Enterpriseと365 Copilotによって、それが可能になっています。

多くの職場では、重要な機密データがマイクロソフトのような大手ハイテク企業に流れることを警戒し、AIチャットボットの使用を禁止しています。しかし、Bing Chat Enterpriseには業務データ保護機能が付いており、ソフトウェアの所有者であるマイクロソフトでさえアクセスできないため、上記の問題は解決しています。これはまた、機密性の高い企業データを、BingやChatGPTのトレーニングに使えないことを意味します。

Microsoft 365 Copilotは、ワード、エクセル、パワーポイントといった一般的なソフトウェアに組み込まれ、費用はユーザー1人当たり月額30ドルの予定です。これにより、ユーザーは生成AIの力を活用して、テキストや画像といったコンテンツを作成することができるようになり、仕事のスピードが劇的に向上するはずです。

しかし、AIが真価を発揮するのはクラウド

マイクロソフトの2023年6月期のクラウド収入は、前年比27%増の1100億ドルでした。サティア・ナデラCEOは、クラウドサービスプラットフォームのAzureが初めて、クラウド収入の半分超を占めたことを明らかにしました。また、同社は顧客から、最大の機会と最大の課題に対処するために、ビジネスにAIを統合するにはどうしたらよいか、という問い合わせを頻繁に受けているそうです。

現在、マイクロソフトはAzure上で複数のAIモデルを提供しており、企業顧客はこれをベースに構築することができるようになっています。7月には、メタ・プラットフォームズ[META]が提供するオープンソースの大規模言語モデル「LLaMA 2」をAzure上で利用できるようになることを発表しました。これにより、AIに対する顧客の意欲は加速すると思われます。もちろん、オープンAIの最新テクノロジーであるGPT-4もAzureで利用可能です。

Azure OpenAI Serviceの顧客数は2023年6月末時点で1万1,000社と、3ヶ月前のわずか2,500社から急増しました。この中には、メルセデス・ベンツのような大手企業もあり、同社は米国内で走る90万台の車両にChatGPTを搭載し、車載音声アシスタントをサポートしています。

AIはマイクロソフトに莫大なビジネスチャンスをもたらす

マイクロソフトの2023年6月期の通期売上高は前年比6.9%の伸びにとどまりましたが、これは主に消費者部門の低調によるものです。高インフレと金利上昇に影響でパソコンの購入は減少しており、WindowsのOEM売上はすべての四半期で減少しました。デバイス売上も1年の大半で大きく落ち込み、ゲーム売上はおおむね横ばいでした。

しかし、AIがマイクロソフトにもたらす今後数年間の可能性について、考慮しなければいけません。Bingは現在、インターネット検索業界で2.8%のシェアしかありませんが、会社側は市場シェアが1%ポイント上昇するごとに売上高が年間20億ドル増加すると予想しています。ウェブブラウザとソフトウェアスイートの365にAIを統合することで、Bingが、現時点で検索市場の92.6%を握るGoogleから大量のトラフィックを奪うことができるかもしれません。

とはいえ、最大のビジネスチャンスはAzureでしょう。なぜなら、AIソフトウェアの潜在的な価値に関する試算は、低く見積もっても気が遠くなるほどの大きさだからです。コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、AI技術によって世界の経済生産高が2030年までに13兆ドル増加し、今すぐAIを導入する企業は2030年までにフリーキャッシュフローが122%増加すると予測しています。

また、キャシー・ウッド氏が率いるアーク・インベストメント・マネジメントは、AI技術によって世界の経済生産高が2030年までに200兆ドル増加し、オープンAIをはじめとするAIソフトウェアのプロバイダーには14兆ドルの売上機会が生まれると予測しています。その結果、今後数年間にわたり、多くの企業がAIの力を利用しようと躍起になる公算が大きく、そうした中で、マイクロソフトはクラウドを通じて、最先端のプラットフォームを提供する主力ディストリビューターとしての地位を固めています。

現在、マイクロソフトの株価収益率(PER)は34倍です。ナスダック100指数の33倍のPERと比べると、ハイテク業界の中でわずかなプレミアムとなっていますが、来たるAI革命に対してマイクロソフトほど有利なポジションにいる企業はありません。

そのため、マイクロソフトの株価は今後数年間で急上昇するとみられ、今買う機会を逃した投資家は、後で振り返った時に後悔するかもしれません。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。アルファベットの幹部であるSuzanne Freyは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。フェイスブックの元市場開発担当ディレクター兼スポークスマンであり、メタ・プラットフォームズのMark Zuckerberg CEOの姉であるRandi Zuckerbergは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Anthony Di Pizioは、記載されているどの銘柄のポジションも保有していません。モトリーフール米国本社はアルファベット、アップル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。