◆「風が吹けば桶屋が儲かる」というのは一見すると全く関係がないような物事に影響が及び思わぬ結果がもたらされることの喩えである。強風で土埃が目に入ると目を悪くする。盲人が増え三味線が売れる。三味線の胴は猫皮だから、猫が減ってネズミが増える。繁殖したネズミが桶をかじって桶が売れるというわけだ。
◆土埃が目に入って盲人が増えるというのも極端な話であるし、最近の猫はネズミを捕らない。ネズミにかじられるような木桶も少なく、桶屋なるものを見かけることもなくなった。よって「風が吹いても桶屋は儲からない」わけだが、そもそもこんな話を真面目にするほうが野暮である。江戸時代のひとでさえ、ジョークとして語っていたのだから。つまり、こじつけた因果関係の希薄さを笑う話である。
◆今週の『日経ヴェリタス』の特集は「つながり過ぎた市場 連関性で読み解く投資の新常識」と題して現代版「風が吹けば...」の例が紹介されている。例えばウクライナ問題でロシアが欧州からチーズを輸入できなくなって、替わりにオセアニアから輸入する。するとオセアニア産のチーズ価格が上昇する。それはチーズの7割をオセアニアからの輸入に頼る日本の業者にとって採算悪化となる、というわけだ。
◆このような事例がたくさん紹介されているのだが、ちょっと焦点ボケの印象を受けた。例えば中国の一人っ子政策緩和の報道で紙おむつのユニ・チャームや音楽教室を展開するヤマハなど子供の増加で恩恵を受けそうな企業の株が買われたと書かれているが、当たり前である。それは連関性というより株が買われる「材料」であり、昔から普通にあった話。「連関性で読み解く投資の新常識」とは大仰ではないか。
◆相関はあるが因果関係がわからないものというのは多い。それを無理にこじつけると「風が吹けば...」の類となってしまう。「ブラックスワン」で有名なニコラス・タレブは、探せばモンゴルのウランバートルの気温と100%連動している株価チャートだって見つかるだろう、と言っている。当たり前だが、その両者が同じ動きをしていたとしても因果関係は100%ないだろう。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆