◆「当時の芝居は、どこでも時間切れになれば『切口上』をいって終幕にしたのである。したがって、かぶきの思想には、『ジ・エンド』という思想はない。人生と同じである」(郡司正勝「鶴屋南北」)

昨年の5月20日からスタートした小欄も今日でちょうど1年を迎えた。特別な思いがあって始めたわけでもなく、ふらりと気の向くまま書き綴ってきた。終わり方もまた、1年経ったから、という理由にもならない幕切れが小欄にはお似合いだろう。

◆証券会社のコラムだから話題は主に相場についてであった。しかし、単なる市況コメントを超えて資本主義や格差、そして民主主義についても語ってきた。ベストセラーとなったトマ・ピケティ「21世紀の資本」にインスパイアされたからである。アベノミクスについてをはじめとして日本の政治経済についても思うところを述べてきた。米国・欧州にも話題は及んだが新興国についてはあまり多くを語れなかったのが心残りである。コラムの小道具として小説、和歌、俳句、詩、演劇、映画、音楽などを引き合いに出した。野球、サッカー、テニス、ゴルフなどスポーツの話題に触れたことも数多くあった。

◆いちばん心掛けたのが季節感を伝えるということである。夏至、半夏生、立秋、彼岸、冬至。立春の頃が一年でいちばん寒い時期なのに「春が立つ」のは、もうこれ以上寒くならないから。その時期に、もうこれ以上、低下しなくなった国債利回りを捉え、金利の底入れ~反転を指摘した。それが昨日述べた金融株のアウトパフォームをいち早く主張した背景となった。良い仕事ができたと自負している。

◆今月3日に亡くなった詩人の長田弘は、最後の詩集となった『奇跡 -ミラクル-』のあとがきで、「書くとはじぶんに呼びかける声、じぶんを呼びとめる声を書き留めて、言葉にするということである」と述べている。僕も「内なる声」が響く限り、言葉にする作業を続けていこうと思う。小欄は今日で終わりだが、この先もずっと書いていく。誰のためにでもない。僕自身のためにである。

「馬は走る。花は咲く。人は書く。自分自身になりたいが為に」(夏目漱石)

コラム【新潮流】を1年間ご高覧いただき誠にありがとうございました。連載を続けてこられたのは、ひとえに読者から寄せられたたくさんの叱咤激励のおかげです。皆さまのご愛読に感謝し心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆