米国株式市場は債務上限問題の進展を好感
前回のコラムで述べた通り、先週のマーケットの注目は、エヌビディア(NVDA)の決算発表と債務上限交渉の進捗だったと言って良いでしょう。債務上限引き上げをめぐる協議については、先週、バイデン大統領とマッカーシー下院議長との話し合いで合意に達しない中、格付け会社のフィッチ・レーティングスが、米国債の信用格付けをネガティブ・ウオッチとし、格下げの可能性があることを発表。金融関係者をハラハラさせる展開となったのです。その後、合意が成立する見込みだというニュースが出るとマーケットは好感、文字通り一喜一憂する相場展開となりました。
このところ日本では日本株の上昇が注目されています。一方で先週、円建てのS&P500やナスダック100は史上最高値を更新しています。先週1週間で、S&P500は0.32%上昇、ナスダック100は3.59%上昇しました。ドル円は1週間前の137.98円から140.60円にドル高となったこともあり、円建ての投資家にとって主要米国株価指数が史上最高値を更新するという展開となりました。加えて、MSCIのACWI(オール・カントリー・ワールド指数)も米国の株式市場のウエイトが6割を占めていることもあり、同じく円建てで史上最高値を更新しています。
エヌビディア株、決算発表後に急上昇
5月25日(木)の株式市場を押し上げる要因となったのは24日(水)の引け後に決算発表を行った半導体メーカーのエヌビディアでした。私も長い間米国株式市場の出来事をモニターしてきましたが、今回のエヌビディアの決算発表は歴史に残るイベントの1つかと思います。
まずは株価の反応です。エヌビディアの株価は、決算発表後の短時間で5%上昇、その後もじわじわと上昇を続け1時間後には25%も上昇したのです。これを受けエヌビディアは、米国市場で時価総額5位へと浮上しました。決算発表前のエヌビディアの時価総額は約100兆円です。25%の上昇ということは、1時間で25兆円の富が生まれたということになります。25兆円と聞いてもピンとこないでしょう。例えば2023年の日本の防衛費の予算が史上最高になると言われていますが、それでも約6.8兆円です。1年間日本を守る国家予算の3倍以上のお金が、たった1時間で生まれるくらいの内容の決算発表だったということなのです。
そもそもエヌビディアは、生成AIの進化の恩恵を受ける銘柄として注目されており、株価は2023年に入り決算発表までにすでに倍になっていました。さすがに上がり過ぎだろうと、株価の下落にかけた空売りのポジションもあったと思いますが、その決算発表の内容は、最も楽観的な予想をしていたアナリストの予想すら超える内容でした。
好決算の理由は、2023年に入りマイクロソフト(MSFT)やアルファベット(GOOGL)が生成AIを活用した検索エンジンを発表したことがきっかけとなり、世界中の企業がAIで遅れを取ると致命的なことになるとの焦りからAI投資を最優先とする動きが急上昇してきたためです。
エヌビディアの第1四半期の売上は71.9億ドルと事前予想を10%上回り、調整後の1株当たりの利益(EPS)も市場予想の0.92ドルに対し1.09ドルと予想を19%上回る結果を発表しました。エヌビディアのこれまでの強みの領域であるゲーミング部門の売上も前期比で22%増となり、今後ますます成長が期待されているデータセンターの売上についても前期比で18%となっています。ただ、マーケットを最も驚かせたのは、第2四半期の売上が約110億ドルと市場予想を50%以上超えたことです。これは企業による大規模なデータセンターへの投資、およびLLM(大規模言語モデル)への投資が理由と見られています。
これまで307ドルであったアナリストのエヌビディアのコンセンサス目標株価も決算発表後には436ドルへと上昇修正されました。なかには500ドルへ目標株価を引き上げた証券会社も出てきています。企業のAI関連投資は決して一時的なブームと呼ばれるものではなく、息の長い長期的な投資となるでしょう。短期的に株価が急上昇したエヌビディアですから、目先の調整があっても驚かないものの、同社の成長は今後も継続していくと考えています。
アップルの複合現実(MR)ヘッドセットの発表に注目
来週6月5日のアップル(AAPL)の世界開発者会議(WWDC)では待望の複合現実(MR)ヘッドセットの発表が期待されています。ウォール・ストリートジャーナルによると、このヘッドセットは、スキーのゴーグルのような軽量で、少なくとも12のカメラで顔の表情、体の動きを捉え、奥行き感知にはライダーセンサーを使用、ユーザーは拡張現実と仮想現実をスイッチで切り替え可能、ディスプレイは内側と外側に備えて、ユーザーの顔を外部へ表示すると言われています。バッテリーパックはケーブルで接続し、ヘッドセットを軽量に抑え、熱を帯びないようにすると見られており、ゲームだけではなく、アップル・ミュージックやTV、フットネスの製品の没入型コンサート、スポーツやクラス、インタラクティブな地図、フェイスタイム・コール、写真のシェア、オフィス・白板の仮想現実に適用されるだろうとのことです。この製品は今秋にも発売される見通しとなっています。
総合的に見ると懸念されていた第1四半期の決算発表は事前に恐れられていたほど悪くもなく、エヌビディアの好決算が最高のフィナーレとなりました。世界最大の時価総額を誇るアップルの複合現実(MR)ヘッドセットのニュースをマーケットは歓迎するかもしれません。
S&P500は4,177-4,195ポイントという2023年2月からのレンジの上限を抜けてきました。過去のデータを見ると、大統領就任3年目の米国株の6月、7月は上がりやすい季節です。そうすると、米国株は今後サマーラリーをエンジョイする可能性が高いのではないかと考えています。
尚、5月29日の米国株式市場はメモリアル・デイ(戦没者追悼記念日)のため休場となります。