2023年のバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)(以下、バークシャー)の株主総会で、特に興味深かった質問とバフェット氏の回答を紹介します。
バークシャーの後継者について
バークシャーの株主の最大の懸念は、会長兼CEO のバフェット氏が92歳、また副会長のマンガー氏が99歳と、要職が高齢のため後継者が誰になるかということでしょう。2020年の株主総会で、マンガー氏が口を滑らせて、グレッグ・アベル氏がバフェット氏の後継者であることが世界中に知れ渡たりました。アベル氏は保険事業以外の責任者を務めています。バフェット氏はアベル氏の担当部門の経営手腕を評価しており、後継者発表後の引き継ぎはスムーズに行われているようです。
バフェット氏は4月に来日した際にもアベル氏を同行させ、日本で行った米テレビ局のインタビューで「彼(アべル氏)が全部仕事をしてくれるので、私はお辞儀するだけだ」と冗談混じりに語っていました。今回の株主総会でもバフェット氏はアベル氏がバークシャーの将来のリーダーであることに「100%満足」しており、「第二の選択肢はない」 と述べました。
バークシャーのこれまでの成功は、巧みな資本配分と密接に関連していると言われています。バフェット氏は効果的な資本配分の重要性を強調しており、「これは重要なこと」だと言います。アベル氏はバークシャーの資本配分をバフェット氏と同じようによく理解しており、「彼は今後これまでと同じ枠組みで資本配分の決定を下すだろう」とバフェット氏は語っています。
機会あるごとにバフェット氏は後継者について何度も説明しており、企業も投資家もアベル氏のバークシャー運営能力について納得しているのではないかと思います。
ポスト・バフェットのバークシャー株の行方
バフェット氏はバークシャー・ハサウェイ株のうちA株という、B株より優先的な議決権がある一方、流動性が低い種類の株式を保有しています。バフェット氏に万が一のことが起きた場合、そのA株はB株に転換され、様々な財団に分配される計画となっています。これらの財団は、それらの株式を売却し、その売却益を彼らの目的のために使用すると考えられますが、バフェット氏は、全ての株式が売却されるまでに12~15年かかると予想しています。質問をした株主は、その売却期間にバフェット氏の資産保有哲学を無視する投資家や、バークシャーの信頼性を危険にさらす可能性があるグループが、これらの株式を買い占めるのではないかという懸念を述べました。
その質問に対して、バフェット氏とマンガー氏は、「この懸念についてはあまり心配していない」と答えました。バフェット氏は、バークシャーが国家資産として認識され、その運営形態が国に対してプラスであることが重要だと強調。さらに、バークシャーが大量の資金と数多くの企業を保有し、経済に対し数千億ドルもの資金を投入し、多くの雇用を生み、製品、行動を生み出すことで、評価されるべき企業であると述べました。
最後に、バフェット氏は、バークシャーが58年間にわたって株主を「企業の所有者」と見なすことによって築き上げた、他の誰も持っていない株主基盤を持っていると強調。同社は顧客を喜ばせ、コミュニティに歓迎され、政府が金融危機に直面したときに手助けできる非常に稀な企業であると述べました。
短期的な利益の追求と、長期的に競争力を高めるためのバランス
メキシコからの株主は、「企業は利益を上げるために製品を開発し、同時に競争力を高めるためのバランス」について質問しました。具体的には、短期的な利益の追求と長期的な防御力の間でどのようにバランスを取るべきかを尋ねています。バフェット氏は、「それは自分たちの運命を自分たちでコントロールすることだ」と答えました。
バフェット氏はバークシャーが外部からの圧力を感じず、投資家向けの電話会議を開かないなど、自分たちの自由を保っていると説明しました。バフェット氏は素晴らしいビジネスを長期で所有することに興味があり、その過程で多くを学んでいます。過去にシーズ・キャンディーズを買収した際や、女性用ドレスショップチェーンを購入した際、1966年にデパート業界に参入しようとした際に多くを学んだと言います。
バフェット氏は常に消費者の行動を学んでおり、ビジネスの技術的側面については理解できないかもしれないが、それは必要ないと述べています。アップル株に投資をしているものの、バフェット氏自身は全くスマホについて理解していないと語っています。しかし、バフェット氏はiPhoneを購入する消費者の行動を理解しており、人々が2台目の車を買うかどうか、またはどのように自動車ディーラーに出向くかということをわかっていると言います。
所有するすべてのビジネスから常に学び、消費者がどのように反応するか、良いビジネスがどのように悪いビジネスに変わるか、または一部の良いビジネスがどのように競争優位性を維持するかを学んでいるのです。バフェット氏は、「時間とともに賢くなるわけではないが、少しずつ賢くなっている」と述べ、これがバークシャーのスタイルだと強調しました。
AIやロボティックスに対する見解
最近話題となっているAIやロボティクスに関する質問もありました。マンガー氏は、「(バークシャーが株主である中国の大手電気自動車メーカー)BYDの工場では信じられないほどの速さでロボティクスが進行している」と述べ、「世界中でロボティクスが増えるだろう」と予測しました。一方で、彼はAIに対する過度な期待については懐疑的で、彼らが持ち合わせているような古風な知識が十分に機能すると考えていると語りました。
バフェット氏は、AIが驚くべきことを成し遂げることができる一方で、人間の思考や行動を変えることはできないと述べました。AIの出現が世界を変える可能性はあるものの、それが人間の思考や行動を変えるとは考えていないと明言。バフェット氏は、AIがすべての種類のことを行うことができる時点で、それが元に戻せないものになることを心配しているようです。
またバフェット氏は、テクノロジーの進歩は投資機会を奪うものではなく、新たな機会を生むことを強調。新しい機会は他人が愚かな行動をとることから生まれ、彼らがバークシャーを運営してきた58年間で、愚かな行動をする人々が増えてきたと述べました。バフェット氏は、短期的に結果を求める現代の世界は、5年、10年、20年という長期的な視点で考える人々にとって絶好の機会を提供していると語りました。
イーロン・マスク氏について
会場の株主は、過去にマンガー氏が言及したIQに関する発言について質問しました。「マンガーさんは以前、『自分のIQを170だと思っているIQ150の人よりも、自分のIQを120だと思っているけど実際はIQ130である人を雇いたい』と言っていましたが、前者はイーロン・マスク氏について言及したものですか」という内容で、会場から笑いが起きました。マンガー氏は、マスク氏は自分自身を過大評価していると思う一方で、「非常に才能がある人物である」と述べました。
マンガー氏は、「マスク氏が不合理なほど極端な目標を追求しなければ、彼が達成したことは達成できなかっただろう」と指摘しました。そして、「マスク氏は不可能な仕事に挑むのが好きだが、私たちは彼とは違い、容易な仕事を探している」と述べました。バフェット氏とマンガー氏は、マスク氏と競い合うことは望んでいないということです。
また、バフェット氏は、「私は自身の生活を楽しんでおり、マスク氏の立場になると楽しめないだろう」と述べました。しかし、同時にバフェット氏は、「マスク氏も私の立場になると楽しめないだろう」とも言いました。
アップルが株式ポートフォリオの35%を占めていることの危険性について
アップル株がバークシャー・ハサウェイのポートフォリオの35%を占めていると指摘し、これが危険ゾーンではないかという質問をした株主がいました。同社は、アップルの発行済み株式の5.8%を保有しています。
バフェット氏はこの質問は「的を射ていない」と回答しました。つまりアップルをバークシャーの株式ポートフォリオの一部として見るのではなく、会社全体の事業の一部としてみるべきだという持論を展開しました。バークシャーの事業ポートフォリオには鉄道、エネルギー事業、シーズ・キャンディーズなど、さまざまなビジネスを含んでいます。そのため、バフェット氏とマンガー氏は、バークシャー・ハサウェイの投資戦略はアップルに特化したものではなく、多様なビジネスに投資を行っていることを強調しました。
また、アップルについては、他の所有ビジネスとは異なる基準で評価されるべきだと考えることは間違いで、アップルはただ他のバークシャーが保有するビジネスよりも優れていると強調しました。アップルは消費者との強い関係を持ち、その商品に高額を支払う消費者が多いという点で、バークシャーが100%所有する他のビジネスとは一線を画していると説明しました。
また、マンガー氏は、ここで現代の大学教育で広範囲に分散投資が推奨されることを批判しました。彼はこのことを「狂気である」と表現し、投資家は独自の能力の限界を理解し、最高のビジネスアイデアに集中投資することの重要性を強調しました。
日本の商社株に投資をする理由とTSMCを売却した理由
日本の商社株に投資する意義
バフェット氏は、日本企業への投資について説明しました。現在バークシャーの約40兆円の株式ポートフォリオのうち約2兆円が日本の5大商社株への投資となっています。バフェット氏によると商社株を購入し始めてから半年後にアベル氏にその投資について伝えたのこと。商社株について発行済み株式の5%を保有した際に公表され、現在7.4%となっています。日本の商社に投資をする判断は非常にシンプルで、商社の事業は分かりやすいと言っていました。商社というのは、日本経済のプロキシーであり、アメリカ経済全体のプロキシーであるバークシャーの事業との比較がし易かったのだと思います。
TSMCを売却した理由
バークシャーが前期に保有していたTSMCの株式(約50億ドル相当)をほとんど売却した理由についての質問もありました。バフェット氏は、同社を世界で最も良く経営されている重要な企業の1つとして評価し、その地位は今後5年、10年、20年続くと予測しました。しかし、米中関係を地政学的なリスクと捉え、同様の会社を探すのであれば米国内で見つけたいと回答しました。
投資をする先として、台湾以外に「他に安全な場所がある」とも言いましたが、これは日本のことを指しているのでしょう。マンガー氏は、米中関係について「Stupid(愚かである)」と3回言いました。
人生に対するアドバイス
バークシャーの株主総会が人気ある理由の1つは、彼らの話が株式投資や経済に関する内容にとどまらないこと。「オマハの賢者」すなわち、バフェット氏92歳、マンガー氏99歳が教えてくれる人生の教訓と意見を聞くことができるからです。世界で6番目に富豪であるバフェット氏の「自分に投資をすることは人としてできるベストなことだ」というアドバイスは有名なものの1つ。自分の才能を伸ばすことは、誰もそれに課税したり、奪ったりすることはできないと言います。
今回も弁護士であるマンガー氏は、「弁護士として成功するためにはどうしたら良いか」という質問に対し、弁護士として成功する方法についてのアドバイスは持ち合わせていないとするものの、大手法律事務所で働いている義理の息子の言葉を借り、彼らの仕事は「パイ食い競争のようなもので、勝てばもっとパイを食べることができる」と例えました。そして、「そのような法律事務所は避けるようアドバイスする。短い人生を、パイを食べるだけで過ごすのは、もったいない」と述べました。
最も印象に残った質問者
バークシャーの株主総会の参加は6回だと言う13歳の女の子が質問に立ちました。彼女の質問は、「米ドルが世界の基軸通貨でなくなる日がやってくるのではないか。その場合、バークシャーはどう対応するのか。米国人はどうしたら良いのか」というもの。
あまりにもしっかりした質問だったので、バフェット氏はまず「あなた、こっちに(ステージ)に来て、一緒に質問に答えなさいよ」と冗談混じりに返しました。そして、「米ドルが世界の基軸通貨であることは間違いない。ただ、確かに将来的にそうでなくなる可能性もある。しかし、これは誰にもわからないことである。多分、FRBのパウエル議長が一番わかっているかもしれない。彼は財政政策を担っているわけではないので、彼にもコントロールすることはできない」と述べました。
2023年のバークシャー株主総会を振り返って
1日をかけて行われたバークシャーの株主総会という大イベントが終了した。バフェット氏の知識や経験にもとづく発言、投資哲学、成功の秘訣の話の素晴らしさは当たり前として、驚かされるのは92歳という年齢にもかかわらず、このような1日がかりの大イベントを、自らが中心となって成し遂げるバフェット氏の精神的・体力的な強さです。また、話の中に必ず出てくる彼独特のユーモアのセンスも加わり、彼の話をより魅力的なものに引き立てています。
そして、最も印象深いのは、どんな質問に対しても真摯にしっかりと答えようとするバフェット氏の株主に対する誠意です。そんなバフェット氏が、米国は様々な問題を抱えていても、これからも成長していくと信じていることは、米国株の投資家にとって心強いものと思われます。
私は米国株の投資を真剣に行いたい投資家は、一度バークシャーの株主総会に参加してみると良いと思います。「資本主義のウッドストック」とまで言われている同イベントに参加すると、投資家としての今後の人生が変わるかもしれません。株式投資が、お金を増やす手段だけでないことが見えてくると思います。