佐賀大学が世界初となるダイヤモンド半導体パワー回路を開発
4月17日、佐賀大学理工学部の嘉数誠教授がパワー半導体のダイヤモンド半導体デバイスで、世界初となるパワー回路を開発したと発表した。
ダイヤモンド半導体パワー回路は、10ナノ(ナノは10億分の1)秒を切る高速で、半導体の基本動作である「オン」と「オフ」を高速で繰り返すスイッチングができ、190時間の長時間連続動作でも劣化が見られなかったとしている。報道では3年後の実用化を目指すと伝わっている。
ロス無く送電ができるため、膨大な電力を使うコンピュータの超高速での演算や送電線の他、ネクスト5G向け基地局、電気自動車の電力制御用デバイスに適しているとのこと。
また、熱や放射線への耐性が強く、人工衛星など宇宙産業分野での実用化も期待される。通信衛星は今も真空管が使われているそうで、半導体化で性能の大幅な向上が見込めるという。
パワー半導体の技術と今後の可能性
パワー半導体とは電力の変換や制御により、効率的かつ高精度に電子機器などを動かす役割がある。具体的には交流を直流にしたり、電圧を変換し、モーターを駆動したり、バッテリーを充電するなど、電源(電力)の供給を行う半導体のことである。
パワー半導体の現在の主流はSi(シリコン=ケイ素)を材料としたもので、これが全体の9割を占めていると推測される。EVなどの普及で、より性能の高いSiC(シリコンカーバイド)、GaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム(Ga2O3)など、2つの元素を合わせた化合物半導体の需要が増加してきている。
2つの組み合わせで性能が上がり、例えば、SiCパワー半導体ではEVの電費(ガソリン車の燃費)がシリコン単独に比べ、10%以上改善するとも言われている。
通信の大容量化に伴い、半導体電子デバイスの高周波数化と高出力化が求められている。携帯端末なら1.5GHz・1Wで済むが、通信衛星、テレビの地上波では10GHz・1KWレベル以上、5G以降では100GHz・10OWレベル以上が必要とされる。先端の周波数帯域では半導体デバイスがまだない。
理想的なダイヤモンドができた場合、物理性質上から、SiCやGaNを超える周波数・出力が得られることが理論上はわかっているとされている。
佐賀大学の資料によれば、理想的なダイヤモンドはシリコンに比べて、約5万倍以上の大電力効率化、約1,200倍の高速特性が期待されるとのこと。
また、佐賀大学では2022年ダイヤモンド半導体デバイス(8mm四方)で、世界最高の出力電力(875MW/CM)、出力電圧(3659V)を報告した。これは、8ミリ角のダイヤモンド半導体で、およそ15万5,000世帯の電気を制御できるという計算になるとメディアでも報じられている。
しかし、他の研究機関からは「長時間動かすと劣化が激しく、実用化は容易ではない」とする報告があった。マサチューセッツ工科大学(MIT)も同様の趣旨で研究を断念したとされる。
2023年4月の発表の成果については、世界的に最も権威のある米国電気電子学会の学術論文誌に2本の論文として掲載されるとしており、佐賀大学の成果が公にも認められる可能性が高まっている。
ダイヤモンドの半導体への応用をリードしてきたのは日本の研究機関で、その歴史は30年以上になるともされる。佐賀大学の研究成果が、日本の産業にも好影響をもたらすように実用化を急ぐ必要がありそうだ。そこで、今回はダイヤモンドパワー半導体に関連した銘柄をピックアップする。
イーディーピー(7794)
人工ダイヤモンドの原料である種結晶を製造販売。産総研のスピンアウトベンチャー。現在の主力は人口宝石用が中心だが、2009年の創業当初から半導体基板用の大口径化をミッションとしてきた。
ただ、マネタイズに苦戦し、この間に宝飾用が市場拡大。宝飾用で得た利益を半導体用基板の研究開発に充当できるというビジネスモデルを構築へ。ダイヤモンドパワー半導体向けの事業に期待。
タムラ製作所(6768)
同社からカーブアウト(事業の切り出し)したノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県)は、2022年3月に佐賀大学と共同で第3世代酸化ガリウム100ミリメートルエピウエハ(異種材料上に単結晶薄膜を形成したウエハ)の開発に成功したと発表。劣化要因である、キラー欠陥を従来の10分の1に低減したとしている。ダイヤモンドパワー半導体でも連携に期待感が高まる。
旭ダイヤモンド工業(6140)
ダイヤモンド工具の最大手。GaNなど化合物半導体の加工にも展開している。難易度が高い化合物半導体の加工は、ダイヤモンド半導体への応用も期待される。工業用ダイヤモンド原石の販売も。シリコンインゴットからウエハを切り出す際に使われる電着ダイヤモンドワイヤ「エコメップ」を手掛ける。
住友電気工業(5802)
世界有数の合成ダイヤモンド単結晶「スミクリスタル」を手掛ける。企業側によると地球上の物質の中で最高の熱伝導率を有する合成ダイヤモンド単結晶。チップマウント、ワイヤボンディング用の各種メタライズ薄膜を形成することが可能としている。