先週の振り返り=年初来米ドル高値接近後に反転

週明けは、前週末に日銀の金融政策決定会合をきっかけに米ドル高・円安が加速した流れを引き継いでのスタートなり、そのまま3月に記録した137.9円という年初来米ドル高値に接近するところとなりました。ただその後、米地銀の経営不安が浮上。金融システム不安が再燃したことや、米債務上限問題への懸念も重なり米金利が大きく低下に向かったことから、米ドル/円もそれに連れた形で一時は133円台までの急落となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2023年2月~)
出所:マネックストレーダーFX

米金利の早期利下げについては米債務上限問題次第か

先週は、FOMC(米連邦公開市場委員会)など注目イベントも盛りだくさんの1週間でしたので、それらについても簡単に振り返ってみましょう。まずは、主な米経済指標の発表は以下のようになりました。

・4月ISM(米供給管理協会)製造業景気指数=予想46.7、結果47.1
・3月JOLTS(雇用動態調査)求人件数=予想977万件、結果959万件
・4月ISM非製造業景気指数=予想51.8、結果51.9
・4月失業率=予想3.6%、結果3.4%
・4月NFP(米国非農業部門雇用者数)=予想18万人増、結果25万人増

これを見ると、先週発表された経済指標は5月5日の米雇用統計など総じて予想より強い結果が多かったようです。こうした中で、定評のあるGDP予測モデル、アトランタ連銀のGDPナウは、4~6月期のGDP成長率について、4日更新された最新の予想値が2.7%のプラスとなっていました。以上のことから、3月の金融システム不安の浮上以降、米景気減速への懸念が強まっていましたが、これまでのところでは景気急悪化への懸念は一息ついた形となっているのではないでしょうか。

こういった中で、3日に行われたFOMCでは、0.25%の利上げを決めるとともに、次回の利上げは見送る可能性を示唆するといった具合に、ほぼ事前の一般的な予想通りの結果となりました。その一方で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、年内の利下げの可能性に否定的な見方を改めて示しました。

以上をまとめると、金融システム不安の拡大を受けての信用収縮により、これまでの見立て以上に米景気が急悪化に向かうことでFRBは早期の利下げを余儀なくされる可能性は後退しているのではないでしょうか。

ただその割に、金融政策を反映する短中期の米金利はまだ政策金利のFFレートを大きく下回っており、早期の利下げを織り込む動きが続いています(図表2参照)。景気対策以外で早期の利下げに現実味を与える可能性があるとしたら、それは米債務上限問題ではないでしょうか。

【図表2】米2年債利回りとFFレート(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

今週の注目点=2011年「米トリプル安」再現なるか?

今週から来週にかけて、金融市場は株・金利・米ドルの「トリプル安」を警戒

米政府が議会との債務上限拡大交渉にてこずる中で、米国債のデフォルト懸念から米国株、米金利、米ドル「トリプル安」が起こったのは2011年7~8月のことでした(図表3、4、5参照)。今回、金融市場はその再現を警戒していると見られます。

【図表3】NYダウの推移(2011年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表4】米10年債利回りの推移(2011年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表5】米ドル/円の推移(2011年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2011年7~8月、NYダウは最大で15%程度の下落となりました。仮に、今回も同じ程度のNYダウ下落が起こるなら、NYダウは3万米ドルを大きく割り込む計算になります。株価は景気の先行指標の1つと位置付けられるので、そのような短期間の急落が起こるようなら、インフレ対策を続けているFRBであっても、景気の急悪化回避のための利下げを検討する可能性は出てくるのではないでしょうか。

この債務上限を拡大し、米国債のデフォルトを回避する期限について、イエレン財務長官は今のところ6月1日頃と説明しています。ただし、5月中旬以降は広島サミット出席などでバイデン大統領はワシントンDCを不在にするため、上下両院の日程などと合わせて考えると、実質的な交渉の期限は17~21日頃までと、もっと切迫している可能性もありそうです。以上のことから、今週から来週にかけて、この「米国債デフォルト=トリプル安」リスクへの注目が高まる可能性があるでしょう。

米債務上限問題をにらみながら米ドル/円も上値が重い展開か

米景気急悪化への懸念は今のところ一息ついたものの、一方で米債務上限問題次第では米国株急落などを通じた早期利下げの可能性は残っているというのが最近の状況ではないでしょうか。そういった中で、米金利は約2ヶ月にも渡り、この間の安値圏で狭いレンジの保合いが続きました(図表6参照)。

【図表6】米2年債及び10年債利回りの推移(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

狭いレンジの動きが長期化すると、その保合い放れとともに溜まったエネルギーの発散で一方向へ大きく動く可能性があります。これまで見てきたことからすると、その保合い放れの鍵を握っているのが早期利下げの有無ではないでしょうか。そして米ドル/円は米金利の影響が大きいため、米金利の保合い放れに追随する可能性が高いのではないかと思われます。

以上を踏まえると、今週は米債務上限問題をにらみながら、米金利も米ドル/円も上値が重い展開が続くのではないでしょうか。今週の米ドル/円の予想レンジは132~137円中心で想定したいと思います。