景気後退の懸念広がる中で見つかる割安株
岡元:米国では、景気後退への懸念が広がっています。これは世界経済にも影響することですが、運用チームでは、どのように捉えてらっしゃいますか。
アネス氏:多くの人が米国における景気後退を話題にしています。特に昨年10月、インフレ・金利上昇・景気後退といった不安が広がっていました。その頃、多くの企業は既に不景気を織り込んだ株価で評価されていたと思います。そうした中で、私たちはいくつもの新しい投資対象を見つけることができました。
例えば、米国で言えばファーガソン(FERG)やセラニーズ(CE)といった企業が挙げられます。仮に景気が後退しても、これらの企業は既に景気後退を織り込んで評価されており、企業の本質的価値よりも割安な状態にあると考えました。このように景気後退といったマクロ経済の変化の中でも、常に投資機会を見つけることが出来るものなのです。
市場の不安定さがアクティブ運用で割安株を選定するチャンスにつながる
岡元:世界的に、インデックスファンドの存在感が増していますが、アクティブ運用の意義について教えてください。
アネス氏:世界金融危機以降10年ほどは、流動性、低金利などが原動力となってきました。これらを背景にFAANGと呼ばれる巨大テック企業などの株価が大きく上昇しました。巨大テック企業の株価上昇は、市場や株価指数の上昇に強く貢献しましたので、インデックス運用に効果的な10年間であったと言えます。
私たちはこれらのインデックス運用にとっての追い風は終わりに近づいていると考えています。金利は市場の予想以上に上昇しています。加えて、インフレの懸念もあります。インフレ率の伸びは鈍化傾向にありますが、ボラティリティが高い状況が続くと思います。
私たちは巨大テック企業の収益の成長を注視してきました。これらの企業のビジネスモデルは難局に直面しており、対応に苦慮する姿も見られます。一方で私たちの投資スタイルは、ユニークな成長の根拠に基づいて投資先を見つけることです。つまり私たちの投資先は、インデックス運用の好調さを支えてきた企業と大きく異なる視点を持って選ばれます。ポートフォリオは、様々なセクター、テーマ、地域要因にわたってバランスをとっています。
私たちは今後10年、アクティブ運用にとってのゴールデン時代になりうると考えています。マクロ経済の不安定さやボラティリティの高さは続くでしょう。一方で、こうした市場の不安定さは新たな投資機会をもたらすと考えています。そうしたときこそ、景気動向に左右されず成長が期待でき、継続的な配当や増配などが期待できる企業に、割安で投資する機会になるのです。
投資において大切な「ルール」と「時間」
岡元:個人投資家の皆さんに、良い投資家になるためのアドバイスをいただけますか。
アネス氏:ご自身の投資に対するスタンスを明確にすることが大切だと思います。またどんなに良い投資家でも失敗しないことはありません。失敗から学びを得て、次の投資に向けて改善し続ける必要もあります。
自分が保有する銘柄とそれを保有する理由を理解し、繰り返し確認することが大事です。新しいアイデアに対して偏見を持ったり、閉鎖的になったりせず、成長を信じられる企業に投資するのです。
もう1つ非常に重要なのは、市場にとどまっている「時間」です。マーケットをタイミングで判断せず、長期保有することです。誰もマーケットがいつどのように動くか予測できませんが、変動することは確かです。そのため投資をしたら、長期的視点を持ち、すぐに手放さないことが大事なのです。
岡元:タイミングを重視した取引をする人もいますよね。タイミングを見て安く買って高く売ることを繰り返すよりも、長期で投資信託や株式を保有するほうが良いということでしょうか。
アネス氏:常にそれを続けられるのであれば、とてもスマートな方法だと思います。理屈としてはなんら間違いではありません。ただし問題は、続けるのが難しいということです。高い頻度で売買を繰り返すと、長期的には低いリターンで終わる傾向があると言われています。
長期的な視点で未来を予測することは難しく、買うのを躊躇するようなタイミングが買い時で、まだまだこれから上がると思うような良い状況の時が売り時ということもよくあります。そして多くの人にとって、売買のタイミングの心理的なコントロールをするのはとても難しいことです。そのため、投資信託を通じて、長期的に投資を継続するということも選択肢の1つではないかと考えます。
岡元:ポイントはステイ・インベステッド(投資し続ける)ですね。
アネス氏:はい、その通りです。
競争優位性・価格決定力を持つ企業を見つけることが成功の鍵
岡元:最後にマーケットの長期的な見通しについてお伺いしたいと思います。米国、そして世界の株式市場は長期的に良いリターンをもたらすと思いますか。
アネス氏:株式は長期的に保有するに相応しい資産クラスだと考えています。ただし、競争優位性や価格決定力を持つ良い企業を見つけられるかどうかが鍵になります。これらの企業はどんな産業であっても競争力があるので成長し、新しいテクノロジーにアクセスすることができます。またそうした企業は長期にわたって非常に価値がある存在であることを私たちは見てきました。
一般的に欧州企業の評価価値は米国企業よりも低い場合が多いです。しかし、投資家にとって米国企業の方が優れている場合が多いと言えます。自社株買いなどを通じて株主のリターンを最大化することを重視しているからです。ですから米国よりも欧州に投資すべきだとは言いません。すべての地域において素晴らしい企業が存在しています。私たちは知名度の高くない米国企業にも投資しています。小型の企業も多いですが、これらの企業は素晴らしい経営をしています。
これからの10年は大きく環境が変わると思います。継続的な配当や増配は株式リターンの重要なポイントになると考えています。そしてそれが期待できる企業もたくさんあります。株式市場では、常に何かしら興味深いアイデアが見つかります。そのため私は、株式市場で魅力的な投資機会を模索し続けるのです。
岡元:アネスさん、今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
アネス氏:こちらこそ、ありがとうございました。
>> >>【前編】グローバル株式投資、銘柄選びのポイントとは
※本記事は2023年1月31日に実施した対談を後日、編集・記事化したものです。