今回、インベスコのスティーブン・アネス氏にインタビューを行いました。インベスコは180兆円(2022年12月末時点)を超える資産を運用している独立系資産運用会社です。同社の英国拠点で、グローバル株式の運用責任者を務めるアネス氏 に 、グローバル株式市場の見通しや、銘柄選びのポイントなどをお聞きしました。

強い信頼関係や好循環を生み出す環境

岡元:まずアネスさんの運用チームについてお伺いします。御社は世界の様々な国に拠点をお持ちですが、アネスさんはどこで運用をしているのですか。

アネス氏:私は普段、インベスコの英国拠点であるヘンリーで運用を行っています。ロンドンから西に1時間ほどの場所にある人口1万2千人程度の小さな町で、テムズ川沿いの小さなマーケットタウンです。
 
岡元:金融機関の多くは英国だとロンドン拠点を構えることが多いと思いますが、ヘンリーに拠点を持つ運用会社は御社だけですよね。なぜヘンリーを拠点にしているのですか。

インベスコの主要運用拠点の1つである、英国ヘンリー拠点 

アネス氏:大都市の短期的なノイズから距離を置き、企業調査と長期投資に集中するための環境を求めたためです。現在、ヘンリー拠点では株式を始め約500億英ポンド(約8兆円、1英ポンド=160円で換算)の資産を運用しています。

ヘンリーには地域別の戦略を担当するチームがそろっています。私はグローバル株式の運用責任者ですので、地域別のスペシャリストからサポートを得られることは重要です。各地域のスペシャリストと、タイムリーに議論することができます。株式だけではなく債券やマルチアセットチームと議論することもあります。

もう1つ大きな特徴としては、私も含めて長年勤務しているメンバーが多いことです。私は20年インベスコにいますが、私の入社当時から在籍している同僚が多くいます。私のチームでも10年以上前に入社したメンバーが活躍しています。長い時間をかけて作り上げられたチームでは、強い信頼や理解の好循環を生み出していると考えています。協働の文化が根付いており、いかなる状況においても情報共有し、議論することが可能です。

銘柄選びの3つの注目ポイント

岡元:グローバル株式に投資する際には、成長、配当、割安感の3つに注目しているそうですね。このあたりを詳しく教えていただけますか。

インベスコ・アセット・マネジメント
ヘッド・オブ・グローバル・エクイティ
スティーブン・アネス氏

アネス氏:私たちが注目する3つの柱のうち、1つ目は「成長」です。企業は十分な成長力を備えている必要があります。特に景気動向に左右されずに成長が期待できる企業に注目しています。

2つ目の柱が「配当」です。企業は利益に応じた現金を生み出します。生み出した現金を事業に再投資して、ビジネスをさらに拡大し、配当金や自社株買い等で株主に還元します。継続的な配当や増配など質の高い配当を行うことが期待できる企業体質・姿勢が重要です。

3つ目の柱が「割安」です。私たちは企業の本質的価値よりも割安に投資したいと考えています。そのため、直近起きている世の中の問題や、マクロ経済への懸念に影響を受けている銘柄を購入することがあります。市場は短期的な問題や懸念を心配して、株価が割安になりがちですが、私たちは長期的な目線で、その企業の本質的価値を見ます。

周りが注目していない時に、本当に良いと思う企業の株式を買うのです。そして後から評価が高まるのを待つのです。

欧州株式に注目する理由

岡元:今注目しているのは、どの地域の株式ですか?また、その理由を教えてください。

アネス氏:以前より欧州の株式に注目してきました。私たちは「配当」に着目しており、歴史的に欧州株式は米国株式など他の地域の株式よりも高い配当を支払う傾向があると考えています。特にこの1年間、欧州株式でより多くの魅力的な投資機会を発掘してきました。ロシアによるウクライナ侵攻やエネルギー供給問題、英国での政治問題など、欧州は様々な課題に直面してきました。しかしこの状況は、投資が手控えられることで、本来の企業価値よりも割安な水準で投資することができる魅力的な投資機会をもたらすと考えています。

私たちの投資対象としている欧州企業の多くは、本社こそ欧州に置いていますが、実際には世界中でビジネスを展開しており、収益を上げています。これらの企業の多くは米国やアジアにおける収益があり、素晴らしい成長を遂げています。ですから私たちの投資先を上場取引所で見ると欧州企業が多く見えますが、売上や収益の側面で見ると幅広い地域に分散されているのです。

岡元:つまり、株式市場における欧州のバリュエーションは米国の価値評価よりも低いと考えているのですね。

アネス氏:その通りです。欧州の価値評価は相対的に低い状態が続いていましたが、米国の大企業では業績が冴えない状況が続いていることもあり、欧州株式の評価は相対的に高まってきています。また投資家たちは、欧州における地政学リスクやエネルギー問題などの懸念は以前よりも改善されつつあると考えているようで、欧州株式の評価にとって更なる追い風となっています。

変化の中でこそ新しい投資機会が見つかる

マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 岡元 兵八郎

岡元:過去と比べて良い投資先を見つけるのは、より難しくなっていると思いますか。

アネス氏:最近、少しだけ難しくなっていると思います。今のマーケット全体を見ると、大きなチャンスが転がっているような状況ではないようです。しかし株式市場では、常に何かしら興味深いアイデアが見つかります。常にどこかでは上昇相場になっており、良い機会があるものです。最近では中国において大きな方針転換があり、政府は経済再開を促しています。これがマーケットにとって追い風になっています。

過去2年間、エネルギーセクターは人気がありませんでした。ところがエネルギー危機によって石油やエネルギーの価格が高騰し、エネルギーセクターは非常に注目を集めるようになりました。このように常に何かが起きているのです。

そして私たちのように徹底的な企業調査・分析・評価プロセスによる、ボトムアップ・アプローチでの厳選投資に特化すると、変化が起きている企業を見つけることができます。このような企業は業績の悪い部署を売却しようとしていたり、経営体制の見直しを進めていたり、何かしらの変化が起きているのです。私たちはそういった変化を注視しています。

岡元:注目している投資のテーマはありますか。

アネス氏:私たちの投資スタイルとして、特定のテーマやファクターに偏ることは避けています。過去数年の世の中の動きを振り返りますと、テクノロジー企業といったグロース銘柄などに注目が集まっていました。

しかし、私たちは特定のテーマやファクターに依存することなく、投資機会の源を多様化させるよう心がけてきました。ですので、私たちはこうしたファクターなどに偏ることは最小限にしています。そして、あくまで個別企業にフォーカスしています。

岡元:銘柄の平均保有期間はどのくらいですか?

アネス氏:長期的に投資をする場合が多いですが、平均では3年程度です。これは、私の20年間のキャリアの中で一貫している部分です。もっと長く保有したいと考える企業もあります。しかし、大体の場合、株価は私たちが妥当と考える価格に追いついてきます。そのため、それらの銘柄を売却して、より魅力的な投資機会に向かうことが多いです。

岡元:アネスさんの運用では保有銘柄を40-50銘柄程度に厳選されていますね。それらの銘柄を平均3年ほど保有しているということですが、現在保有している銘柄よりも、さらに良い銘柄を見つけた場合はどうしますか。

アネス氏:保有銘柄の一部を売却して、発見したより魅力的な銘柄に投資します。私たちは確信を持って投資していますが、何かの制限に縛られることはありません。私たちの仕事は、投資家のために投資収益を獲得することであり、そのために最善を尽くすことです。ですから、より良い投資先を見つけた場合は、躊躇うことなくその銘柄に投資します。

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※本記事は2023年1月31日に実施した対談を後日、編集・記事化したものです。