2022年は世界的な「インフレ」が市場の関心テーマだった。2023年に入って米国における消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)の鈍化が続き、市場の関心テーマは世界的な「景気後退」へとシフトしている。

直近、ハイテク大手GAFAMの決算発表が揃って減益となり、リセッション入りを懸念する声がある一方で、1月米雇用統計は経済の力強さを示す驚きの内容だった。国際通貨基金(IMF)も2023年の世界経済見通しを上方修正し、今では「景気後退は浅い」との楽観論が広がっている。

このように市場がリスクオンムードに傾く中、ビットコインなどの暗号資産は米国株との強い正相関を保ったまま年初から約40%上昇している。買い集めているのは大口保有者を中心とする既存の暗号資産投資家だ。Glassnode提供データで見ると、新規アドレス数もアクティブアドレス数も横ばいで推移しており、新規参入はさほど増えていないことがわかる。

リーマンショック後にビットコインが誕生した背景から、景気後退期には国や企業に依らない暗号資産がヘッジ資産になりうると期待する声もあるかもしれない。しかし、今回は国が引き起こした景気後退であり、各国の金融システムが揺らぐ事態にはなっていない。そのため新興国を除けば暗号資産が金融インフラの代替として注目されることはないだろう。

2023年は各国におけるインフレ進行や金融引き締めのピークアウトによってリスク資産が売り一辺倒になることはないと考えられる。しかし、景気後退に対する不透明感が消えない状況ではハイリスクな暗号資産を新しく買いづらい。たとえ2023年中に相場が底を付けたとしても、市場で暗号資産を売買するのは元いた投資家たちだろう。

ゆえに暗号資産は景気動向に反応して短期的に価格を戻す場面はあるだろうが、市場関係者の想像できるレンジで推移すると思われる。大きな相場が再び訪れるためには新規参入を呼び込むカタリストがなければならない。米ホワイトハウスの暗号資産規制ロードマップの公表や、AmazonのWeb3事業の参入など、そのタネになりうる動きは足元で起きている。